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許す覚悟(1/2)



「あ・・・・」


「え?あ・・・・」


デパートで買い物をしていれば、いきなり聞こえてきた声に振り返った。


「こんにちは、りゅうさん」


「こんにちは、哀ちゃん。今日は一人なの?」


「えぇ、博士が風邪引いて寝込んでるから薬と後栄養があるご飯でも、と思って」


「へぇ、そうなんだ。大丈夫そう?」


「大分良くはなったわ」


後二日程大人しく寝てれば治ると思う。と言う灰原に「そう」と返せば彼女はジッとりゅうを見た。


「どうかした?」


「りゅうさんも、今日は一人?」


「あぁ、昴の事?彼なら今日居ないわ」


夜まで帰ってこない、と伝えれば灰原はある提案をしてきた。


「だったら、一緒にお昼でもどう?」


夕ご飯はダメでもお昼はいいでしょ?と・・・


「いいけど、博士は放っておいていいの?」


「今はどうせ寝てるだけだし、飲み物も枕元に置いてあるから少しくらい大丈夫よ」


特に何も考えていなかった昼食だったが、急きょ哀ちゃんとのランチが決定した。お互いにまだ買い物が終わっていないと言うことでデパート内にある飲食店へと行くことになった。


「哀ちゃん、サラダ好き?」


「えぇ」


「シェアとか大丈夫なほうかな?」


「人にもよるけど、りゅうさんなら別に構わないわ」


「そ?ありがとう。じゃあ普通のサイズで頼みましょう」


お互いに好きなものを頼み、二人で一つのサラダを注文した。注文している間に哀ちゃんがお水を持ってきてくれた。


「ありがとう」


「どういたしまして」


二人の間にシィンとした空気が流れた。


っていうか、私は話すこと何もないんだけど・・・、こんな無言でいいのかな?子供って話してくるもんじゃないの?・・・あ、子供じゃないのか。確か蘭ちゃんたちより少し年上の・・・・


「哀ちゃんってさ・・・18歳なんだっけ?」


私が言葉を発した直後は首を傾げていたのだが、最後は飲んでいた水でむせていた。


「コホッ・・・なっ、なな・・・」


「大丈夫?」


なんでそんなに驚いてるの?


「りゅうさんって・・・どこまで知ってるの?」


「ボウヤに聞いてないの?」


「彼、聞いたけどあまり詳しくは教えてくれなかったわ」


だからまさか、私の事までそんなに詳しく知ってるなんて知らなかった。と顔を俯かせる灰原にりゅうは「うーん・・・」と何かを考え出した。


「りゅうさん?」


「フェアじゃないよね。私だけが哀ちゃんの事知ってるなんて・・・、いいよ。教えてあげる。何が知りたい?」


フッと小さく笑って灰原を見るりゅうに、彼女は「じゃあ・・・」と思い切って顔を上げて言葉を発した。


「りゅうさんが・・・組織を追う理由って何?」


「いきなり核心つくね。まぁ、いいけど。哀ちゃんも私の過去の話は知ってるんでしょう?」


「・・・ごめんなさい」


「別にいいわよ。ボウヤと蘭ちゃん、小五郎さんに佐藤達まで知ってたんだから哀ちゃんも知ってるだろうな、とは思ってたし」


「その話を聞いて、考えていたんだけどどうしても彼らを追う理由がわからなかったの。Phantom・・・組織のものなら誰だって知ってるほどの人物である彼女がりゅうさん、なのよね?」


「え?あぁ、キュラソーの件の時に気づいたのね」


一瞬、なんでPhantomのことまで知ってるのかと思ったけど、そういえばあの姿でりゅう本来の声を出してしまった事を思い出した。


「Phantomがジンに恨みを持ってる事は有名だったし、Phantom狩りをするためのチームも結成されたくらいよ」


「へぇ?それはそれはこっちの思うツボね」


「思うツボ?」


「Phantomという存在はね、ジンに嫌がらせをするためだけに生まれてきたの」


「・・・え?」


「哀ちゃんのいう通り。ジンが憎くて憎くて仕方がないわ」


「でも、ちょっと待って・・・、あなたまさか、嫌がらせの為だけにあの組織を相手にしてきたの・・・?」


「そうよ」


驚愕の表情を浮かべる灰原にりゅうは小さく笑ってそう返した。するといきなりバンッ!と机を叩き立ち上がる灰原。その表情は怒りの色を浮かべていた。


「そんな事でっ!!!自分の命をドブに捨ててるようなものよ!?何考えてるの!!?」


大きな声が響き渡り、すぐにハッとして哀ちゃんは大人しく椅子に座った。その顔は俯いていて表情は伺えないが・・・・


「それでもいいんだよ。ドブに捨ててるようなものでも構わない」


「どうしてっ・・・・」


「私にはもう、何もなかったもの」


「−−−え?」


「護りたいものも、失うものも何もなかったから・・・、こんな人を不幸に、死に追いやるだけの自分自身も大嫌いで、いつ死んだって構わなかった」


「そんなっ・・・・」


「哀ちゃんだってそうなんじゃない?」


「え?」


「初めてバスで会った時。自分から死のうとしてたじゃない」


「!!」


りゅうの言葉にハッとした灰原は、自分は死のうとしていた所を彼女に助けてもらったことを思い出した。


「哀ちゃんはさ、大切な友達がいるじゃない?あなたを護ろうと必死なボウヤがいるじゃない?」


だから死んじゃダメ。そう思ったから私はあなたを助けたの。


「りゅうさんだってっ・・・・」


「・・・うん。そうなんだよね。今は居るんだよね。大切な人も、護りたいと思える人たちも・・・だからね。死なない」


「っ・・・・・」


「未だに自分自身のことは嫌いだよ。でもね、今ある大切なものを大切な人と一緒に護って行けたなら・・・私は少しだけでも自分を好きになれるような気がするの」


フワリと笑うりゅうを見て、灰原は「きれい・・・」そう思った。


「あぁ・・・話がだいぶ逸れたね。ごめん。えーっと組織を追う理由ね。五反田大輔・・・あの殺人者の背後にいたのがジンだからよ」


「え?」


「嘘か本当か分かんない。でもそのジンって名前が気になってね。色々調べたら父が秘密裏に黒の組織を追っていたことが分かった。そして奴らにとって知られたくない‘何か’を知ってしまい父と母は殺された」


「ジンが・・・自分の手で下さずに一般人を使って殺させた・・・?」


「用心深いあいつがそんなリスクの高いことをした理由は今でも分からない。もしかすると五反田が吐いた嘘かもしれない。でもね、父が奴らを追っていたことは事実・・・」


「だから・・・Phantomが生まれた?」


「えぇ、命を懸けても構わない。独りで壊滅させるなんて大それた事が出来ると自分の力を過信してるわけでもない。ただ、少しでも奴らを追い詰めることができたのなら・・・」


なんで殺されたのか分からず、恐怖の中で死んでいった人たちの事を考えてーーー


「哀ちゃんのいう通り、私を狩るためのチームまで結成されてるんだったら、ざまぁないわね。それって、少しでも奴らにPhantomが目障りだと思わせることが出来てるってことでしょう?」


「・・・本当に、ただ嫌がらせをするためだけに・・・」


「安心して。私はちょっと前の私とは違う。私はもう・・・今は死にたいとは思っていないわ。護りたいものが出来たから・・・」


「その中に・・・その護りたいモノの中に・・・私も含まれてるの?」


「当たり前でしょう?だから私はバスで貴方を助けたの」


宮野明美の・・・忘れ形見だしね。と心の中で呟いた。


「私は・・・ジンのいる組織の一員だったのよ?それでもっ・・・」


「うーん・・・、哀ちゃんはさ、組織がやってること賛成だったの?」


「そんなわけないっ!私は知らなかったっ・・・私はただ言われた薬を作っていただけでっ・・・その薬さえ、人を殺す道具にすぎないと知った時、死のうと思ったわ」


「だったら、私は哀ちゃんを護りたいと思うよ」


りゅうの言葉に灰原は俯かせていた顔をバッとあげて「な・・なんで・・・?」と驚いた表情をしていた。


「人を人とも思わない、人が死んでも平気な顔してる組織の連中と、苦しんでる哀ちゃんとじゃ天と地ほどの差があるんだよ」


あなたは組織の一員だったけど、今は違う。そうでしょう?と優しい表情で言われ、不意に灰原の瞳に涙が溜まった。


「ありっ、がとうっ・・・・」


ポロポロと泣き始めた灰原にりゅうは小さく笑った。


それからご飯を食べて、一緒に買い物をした。その最中に哀ちゃんが躓いて転んでしまい、足を捻ってしまったのでりゅうが抱っこをしてデパート内で買い物をしていた。



・・・・・・・・・・・・・・
(きゃっ、りゅうさんっ!?)
(足捻っちゃったんでしょう?買い物もう終わるから家で手当てしようね)
(わっ、私子供じゃないっ!)
(あはっ、顔真っ赤。大丈夫、傍からは子供にしか見えないから。18歳の女の子抱っこしてるなんて誰も思わないから)
(そういう意味じゃないわよっ・・・)




神空神様!この度はリクエスト企画にご参加いただきありがとうございました!
哀ちゃんと二人でのお話!とのリクエストでしたが、なんか重たい空気になりつつあって・・・申し訳ない><哀ちゃんとゆっくり話したお話しかけていないんで、これを機に…と思い、組織を追ってる理由なんかのお話を書かせていただきました!
違うお話がいい!との事でしたらご遠慮なく言ってくださいね!神空神様のみ!書き直し依頼を承ります!執筆も楽しく書かせていただきました!
本当にありがとうございました!
   

                →おまけ


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