「速水、」

 裏表のなさそうなまぶしい笑顔。その笑顔を向けられたのと同時に、俺の目がすっと差し出された浜野の左手をとらえた。俺はその意味がよく分からなかったからとりあえず自分も左手をだして握手をしたのだけれ、ど。

「…なんだよー、それ。ノリいいのか悪いのかわかんないじゃん」

「な、なにがですかぁ…」

「手、繋ごうって言いたいの」

 ぎゅっと左手をつかまれた。速水の手は氷みたいにつめたいなー、と恥じらう素振りもなくまたにこにこと笑う姿がとても羨ましいと、思う。相変わらず浜野の手はあったかくて、秋の訪れを知らせにきたかのような風に吹かれすっかり冷えきった自分の手を、じんわりと甘く柔らかな熱で包んでくれているかのよう。

「おお、手ぬるくなってきた」

「…もう離しましょうよ、おお、…俺恥ずかしいです」

「だーいじょうぶだって!ぜんぜん恥ずかしくなんかないない!周りの目なんて気にしない!」

「だからそういうのが恥ずかしいんですって…あああ、ほら、また見られた…」

 さっきから下校途中の生徒がちらちらとこちらに視線を送ってきていたのにはうっすらと気が付いていた。たぶん、浜野もだ。分かっていてやっているんだからたちが悪い。もし何か変な噂でも広まったりしたらもう一緒にお昼を食べたり、休み時間に会話をしたり、勿論こうやって二人で帰るときだって冷やかされるに違いない。浜野は大丈夫かもしれないけれど、内気な自分には堪えられない、そう思った。

「いいじゃん好き合ってるんだからさぁ。速水も別に嫌じゃないだろ?」

「…んなっ、す、すきっ、とか、こんなところでっ…!…も、もう黙っててくださいよ!」

 慌てて口元を押さえる俺の手を押さえようとして、なんだかわけが分からなくなってきた。はたから見れば男子中学生がじゃれあっているだけだけれど、こうしていることでさえ誤解を受けてしまいそうだ。…認めたくないが何故そうなるのかというと、単に自分が浜野を意識しているから、なのだけれど。

「…でも、まあ」
「…たまには、こういうのもいいんじゃないですか、ね」

 小声でぼそっと、わざと聞こえないように呟いたのに聞き取るあたり浜野は普通の人間じゃないと思う。





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浜速は初々しくて結構結構。純情内気な速水にどんどん迫る素直わんこな浜野の組合せって…王道ですね。

2011/9/20

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