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「おじゃましまっす」

「飲み物持ってくから先に上あがっとけ。コーラでいいか?」

「あ、はい。じゃーお先に」

 3月とはいえ、まだ少し冬の肌寒さが残る季節なのによくタンクトップ2枚とハーフパンツで平然としてられるなと思った。階段を昇っていく後ろ姿を見て、やっぱこいつちっせぇわ、なんて心の中で笑いながらリビングに入り、グラスを二つ手に取る。冷蔵庫からペットボトルを取り出して並んだグラスに注ぐ。二酸化炭素が、しゅわしゅわと次々に空気中へと出ていく音がよく聞こえた。

 飲み物をグラスからこぼさないように注意して階段を昇っていく。一段、また一段。この家は結構古めの家だからか、階段が急なので余計に神経を使う。まあ、慣れれば大丈夫なんだろうけど、未だに俺はこの階段に慣れることができない。なんでも便利になったこのご時世、少しでも運動不足を解消させようとエスカレーターやエレベーターの使用を減らすために、昇りやすい、利用しやすい階段が増えている。そんな階段ばっかり使っているものだから、家の階段はちょっと恐い。

「あ、ありがとーっす」

 呑気に人のベッドの上に寝転びながら漫画を読んでいる倉間の横にあるテーブルの上にことん、とグラスを二つ置いた。
 倉間はその音を聞いてグラスの存在に気付いたのか、手を伸ばし、くちづけた。三分の一ほど喉に通すと、元の場所にグラスを戻してまた漫画を読み始めた。

「つか、お前CDどこやったんだよ」

「ん」

 こっち、と棚の方向をむく人差し指。思わずそれをへし折りそうになった。そんなに漫画が面白いのか、と。

「ん、じゃねぇよ。曲がりなりにも俺先輩なんだけど」

「失礼しましたー」

 全然反省してねぇじゃん。なんて言っても無駄なので黙っておく。携帯をいじるふりをして、ちらちらっと倉間に目をやったりしていた。なんか、やばい。ものすごく可愛い。枕にあごをのせて足をゆらゆらさせながら漫画を読んでる姿が、ものすごく、可愛く見えてしまう。こいつ男なのに。ちっせぇけど。
 …珍しく、ドキドキした。のと、ちょっぴり欲情してしまった。情けない。男に、しかも後輩に。これも全部あの女のせいだと思ってもなんかしっくりこないしすっきりしない。ああ、俺はホモなのか、ホモだったりするのか。でもまあ倉間なら…いや、何考えてるんだ俺、倉間は見た目まんま男だ、こいつといちゃいちゃしてたら白い目で…霧野だったら見た目女だから、多少は…って、霧野だとなんか違和感なさすぎてってか何の気も起きなかった。ムラッともきゅん、ともこなかった。やっぱり倉間じゃないとダメなのか、俺は。

「…さっきから何じーっと見てるんすか?気になって漫画に集中できないんですけど」

「いや、お前やっぱりちっせぇなって」

「ぶち殺すぞ」

「おーこわいこわい」




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もんもんとする南沢が書けて満足ですはい

2011/8/26
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