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 おはよう、起きて、朝だよ、と一定の間隔でせわしなく語りかけてくるキャラクター目覚まし時計の頭部を押せば、起きれたね!すごい、すごい!と、中学生男子に対してはあまり相応しくない台詞を喋る。ちゅんちゅん、というすずめのさえずりで、朝だということを再認識した。
 なぜ、この時計を未だに使っているのか。答えは簡単、自分の物に情がわいてしまい、まるで命が宿っているかのように見えて、中々捨てることができないから。
 壊れているんだとしたら仕方がないけれど、7年使ってもまだまだ壊れそうにもないこの時計を捨てる決心は中々つかない。塗装も少しはげているし、ボロイし、何よりダサいのは分かっている。けど、捨てられないのだ。


「くーらまっ」

 ぽん、と軽く肩を叩かれた。顔も見なくても分かるこいつめ、昨日はよくもやりやがったな。

「おっはよー倉間!なぁなぁ、昨日、どうだった?何回ヤった?気持ちよかった?」

「お前、朝っぱらからなんつーこと…」

「だって気になるじゃん。俺も協力して倉間の分も掃除したし。…んで、どうだったの?」

「どうもこうもねーよ。俺の家まで送ってくれて、そのままさよならーだったけど。あ、でも名字呼びから名前呼びになった。それだけ」

「…へ?それ、マジ話?」

 なんで嘘をつかなくちゃいけないんだ、と言わんばかりに頷くと、目を見開いてそんなこともあんだな、都市伝説じゃなかったんだな…なんて大袈裟に驚く浜野。

「いや、でも俺もびっくりしたわ。好きあってるとはいえ、まさかあの南沢さんが送ってくれるとか、名前呼びとか…頭おかしくなったとしか…って、浜野、お前聞いてんのかよ」

「…ちゅーか、最近っつかサッカー部辞めてから南沢さんおかしくね?昨日マジでやばかったんだけど…倉間に話してもいーのかな、これ」

 そこまで言われると気になるに決まってる。話してくれ、と言うと、後悔しない?と返ってきたので、少し覚悟して頷いた。

「…俺、昨日親が帰ってくんの遅かったから夜更かししてたらさぁ、腹減っちゃって11時ぐらいにコンビニ行ったんだけど近くの公園に南沢さんいたぜ、卒業したあの先輩たちと」

 去年卒業した三年生の先輩…今の高一は、部室で煙草を吸ったりロッカーを蹴って壊したり、合宿では夜間徘徊をしたりと、とにかく問題行動を起こしまくる人たちだったらしい。だから、三年になる前に強制退部させられたのだが、その恨みからか俺たち一年に絡んできたり、部活の邪魔をしたりと大迷惑極まりない人たちだった。
 そんな人たちと一緒にいる、だなんて。

「んで、俺見つかっちったんだよね…浜野ーって呼ばれたから仕方なくそっち行ったんだけど、先輩たち超いかつくてマジビビった…しかも酒くせーし煙いし。南沢さんなんかさぁ、ふっつーに喋りながら呑んでたわけ。俺も呑めって言われたけど丁重にお断りして逃げてきた」

「…マジかよ。それ、南沢さんのツラした別人じゃねぇの?マジで、南沢さん?」

「マジで俺だよ」

 俺と浜野の間に割り込むように肩を組んできたのは、今まさに話をしていた南沢さん、本人で。

「うっわ、出た南沢さん!なんで昨日あの人たちと一緒にいたんすか?俺めっちゃ怖かったんすけど」

「出た…って俺はバケモンかよ」

 ごつんっと軽く浜野を頭突くと、たまたま会っただけだ、倉間は文句とか言わねーの?と笑みを浮かべながら聞いてくる。

「…そりゃ、内申至上主義だった南沢さんが酒呑んでたなんて、びっくり通り越して嘘にしか聞こえねーっすよ」

「嫌味っぽいなー、典人は。俺もちょっとは悪びれたいんだよ、分かんねぇ?」

「分かりません」

「まあ仕方ねーか。典人は真面目ちゃんだかんなー」

「南沢さんだってそうじゃないっすか、いきなり背伸びなんかしてー三年なんだから止めた方がいいですってー」

「浜野は黙っとけ」

「いってー!」

 今度はデコピンを食らわし、ちんたら歩いてっと遅刻すんぞ、と肩に置いていた腕を上げ、ばしんとお尻を叩いた。地味にいってぇ。

「浜野、典人、」

 お尻を押さえる俺と浜野の頭を寄せ、二人の耳元で囁いた言葉。その言葉の本質は理解できなかったけれど、ライトブラウンの瞳が、俺たちに言うことを聞け、と物語っていた気がした。

「今日はなるべく、典人は一人なるな。浜野も、一人だけにさせんな。…理由は言えねぇけど、危ねぇから。それでももし、本当にヤバかったら俺を呼べ」



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それだけ言うならずっとそばにいてあげろよ、っていうのはナシの方向でよろしくお願いします(笑)

2011/8/21
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