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「へぇー、中々やるなぁ南沢さん。俺も見習わなくちゃなー」
「…そんな…こわいですよぉ…南沢さんこわいですよぉ」

 今週は教室掃除だというだけで憂鬱になるというのに、土曜日からずっとしつこく何があったか、どこまで進んだか、なんて尋ねてくる浜野の熱意(というか執念)に負けて、掃除もダルいし愚痴も含めて全部喋ってしまった。なんで速水もいるのかは、俺にも分からない。こいつは階段の当番だったはずなのに。

「浜野、お前は何を見習うつもりなんだよ。ろくな人間にならねーぞ」

「そりゃ勿論、誘い方からセックスまでの持ち込み方を…」

「や、め、ろ!」

「なんだよー、倉間はお堅いなー」

 お堅いもクソもない、そんなこと教わってどうするつもりなんだ。ろくな人間にならないぞ。
 それからは掃除のことをすっかり忘れて談笑していると、きゃあきゃあと女子の甲高く黄色い声が聞こえてきた。嫌な予感がする。

「なあ、倉間いねぇ?」

「み、南沢先輩…!?く、倉間くんならいますよ!連れてきましょうかっ!?」


「おお、南沢さんのご登場じゃん!ちゅーか、周りの女子が南沢磁石にくっついてる砂鉄ってかんじで面白いなー」

 嫌な予感は的中するもので、そこには浜野の比喩の通り、謎のイケメンオーラ(磁力?)を振りまく南沢磁石と、磁石にくっつく砂鉄の如く学年クラス関係なしに群がっている女子がいた。いや、周りにいる女子は十数人なんだけれど、いつも海に関することで例える浜野が、珍しく海に関係しないもので上手く比喩をしたものだから思わず使ってしまった。

「ん、大丈夫。もう見っけたから」

 女子に笑顔を振りまいてるだけかと思っていたのに、いつの間にか見つけられていたらしい。…あ、ピアス、左耳にしかついてない。ネックレスも外してる。
 実は、あの日にこっそり注意したんだ。いくらサッカー部を辞めたからってそうちゃらちゃらするのはやめて欲しい、と。素直に外してくれて、なんだか嬉しい。

 ちょっとごめん、なんて言いながらもずかずかと乱暴に女子を押し退けてこちらへ歩いてきた。

「イケメンこわいですよぉ…ずるいですよぉ…いい顔してれば人生勝ち組じゃないですかぁ」

 こんなに速水のネガティブ発言に同意したのは初めてかもしれない。でも今は南沢さんが危なっかしいことをしないかが心配だ。だって沢山の女子が彼を見ているというのに、もし、腕なんかを絡ませてきたりしたらどうする。弁解の余地がないぞ。これから俺はずっとホモ扱いされ、女子にはゴミを見るような目で見られ、もしかしたら口もきいてくれないかもしれない。それだけは勘弁だ。お願いだから目立つ行動はやめてくれ。

「倉間みーっけ」

 ちゅ、と静まった教室に響いたリップ音。その次に聞こえたのは女子の叫び声(一部喜んでいるような声が混じっていたのは俺がパニクっていたせいだと思いたい)と、浜野の囃立てるような口笛に、ひいっ…という速水の呻き声。

「えっ?あ、あの」

「今日監督の用事でサッカー部休みなんだろ?一緒に帰ろうぜ。浜野、倉間連れてってもいいか?」

「勿論大丈夫っすよ!」

「いいってさ。ほら、行くぞ」

 あの日のように左手をがっしり掴んで、わざわざ来た道をそのまま引き返したものだから、女子にものすごく睨まれている。やばい、これやばい。ものすごくやばい。明日学校行けない。がんばれ…じゃねーよ浜野、笑顔で手振ってんじゃねーよ、お気楽野郎め。
 南沢さんは機嫌良さそうな顔してるし、道行く生徒にはガン見され…きっと家には帰してくれずに連れ込まれてまたセックスだのなんだの言われるのか…。

 ああ、今日も空は青い。晴れ晴れとしていて心地良い。こうして綺麗な心を忘れずにいればいつかはいい事がある。明日はもっと楽しくなれるさ。そんなことを考えながら学校を後にした、倉間典人中学二年の春。


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えろ無し回(というより浜野がでしゃばる回)は楽しいです。ただ浜野はどこに向かっていくの

2011/8/19
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