兄さんが、自力で歩けるようになった夢を見た。それはとても細かくリアルな夢だったのだけれど、どこかふわふわしていて実感というものがまるで無い。目が覚めて、暫くは夢だと思わなかった。思いたくなかった。
時計に目をやると、針はぴったり6時30分を指していた。いつも通りの、起床時間。
昨日は風呂にも入らず、そのまま寝てしまったからなんだか目覚めが悪い。時間はあるので、シャワーでも浴びることにする。
肌にあたるぬるい水が心地良い。きゅ、と蛇口を捻って水を止めた。長い髪は水分を含み、形を崩してだらんと垂れ下がっている。ぽたぽたと水が滴り落ちていくのを見て、ああ、昨日も同じ光景を見た、とデジャヴのようなものを感じた。
「泣くな、京介」
「…だって!俺のせいで、兄さんの、足はっ…だから、俺が兄さんを、好きでいられる資格なんかっ、無い…」
「資格なんてものはどうでもいいんだよ」
ぽん、と軽く頭をなでて柔らかくほほえんだ兄の顔を見て、うまくは言えないけれど、とめどない愛しさがあふれてきた。
「兄さん、」
「…好きだ。兄さんが、好きで好きで好きで好きで、好きなんだ」
「知ってる」
額にキスをされた。一瞬だったけれど、暖かくて、優しくて、心地良い。
このまま兄さんの足が治らなければ、ずっと兄さんのそばにいられる。兄さんを独り占めできる…そんなことを考えながら、昨日は家路を辿ったんだ。
もう一度蛇口をひねると、ひんやりと冷たい水がシャンプーの泡と共に肌を流れていく。そして、水音に書き消されてしまいそうな小さい声で一言呟いた。「…最低だな、俺」と。
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シャワーなうな京介が書きたかったのよ
2011/8/18