※蘭拓的要素もあるので注意
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放課後、人影も気配もない廊下を、ひとり歩いていた。
テスト一週間前、今日から一週間部活動はお休み。本当ならば自分も勉強をすべきなのだけれど、憧れの人物に少しでも近付きたくて、毎日ひっそり音楽室に忍び込んでピアノを弾いているため、テスト前と言えど一日足りとも休みたくはないのだ。
憧れの人に、一日でもサボってしまうと指がなまる…と聞いたから。
階段を数段昇り、音楽室の前に来て、ドアノブに手をかけようとした。すると、ふと、ピアノの音が聞こえた。
すごく優しくて、暖かくて、でも、胸がきゅっとしめつけられたように切なくなる、音色。そんなにクラシックに詳しくない私でも、CDの試曲は何度も、CMでも数回聴いたことがある…。
そうこう考えているうちに聞き惚れてしまい、いつの間にか演奏は終わっていた。
確か、この曲は、
「トロイメライ…」
「…トロイメライか」
「…えっ?」
今、同じことを言った人がいた。
辺りを見回しても、誰一人いない。とすれば、考えるのは、音楽室の中だ。音をたてないようにドアノブを回し、こっそり覗き見した。中には、霧野くんとシン様がいた。というか、よくよく考えてみたらあの声は霧野くんのものだったけれど。
「ああ」
「神童、トロイメライ…好きでよく弾いてくれたもんな。最近はめっきり弾かなくなったけど。」
「好きだから、一回弾くとまた弾きたくなるんだよ。…だから、敢えて弾かないで、もっと難しい曲をやってた。上手くもなりたかったし、な。」
「だったら、なんで今?」
「…懐かしくてさ」
「何が…だ?」
「よく、小学生のころは俺の家でこんなことしてたな…と思って。中学生になってからはサッカーのことばっかりで、中々霧野にピアノ、聴かせてなかったから」
―羨ましい。
霧野くんが羨ましくて、ただ羨ましくて、仕方がない。私が男でも、霧野くんみたいに綺麗だったら…もしかしたらシン様は、振り向いてくれるんじゃないか、って一瞬思った。
「…神童、こっち向いて」
「霧野、ここ、学校…」
「神童が好きだ」
ドクン、と大きな鼓動が全身に伝わった。心臓が潰されてしまったように苦しい。
「…だからって、理由にはならな…誰か来たら…どう、す…っあ、」
「誰も来ねぇよ。大丈夫だから」
私が来てるし、全然大丈夫でもない!
でも、何故かそこから離れることができなかった。扉が二人から見えない死角にあった…というのもあるけど、好きな人の姿ならこんな状況でも見ていたい、なんて思った私はイカれてるのかな。
「きり、の…」
「なんだ?」
「す、き…だ」
「…俺もだよ」
「霧野の…こと、だいすき、だ」
その言葉を聞いて、目頭があつくなった。間もないうちに、つめたいしずくが頬をすべり落ちた。私、泣いてる。泣いてるんだなぁ。
愛しい人のために流した涙さえも愛しくて、拭うこともせず、ただ二人の行為を眺めていた。
行為が終わり、少しシン様はぐったりしていて、霧野くんにもたれかかっていた。やばい。その位置から後ろを向いたら見えてしまう。
でも、動けない。逆に、どうせ叶わない恋なのだから、恐いものなんか何もないと強気になってしまった。
「神童」
「…なんだ?」
「今度うちに来いよ。つか、泊まっていけ」
「なんだよ、いきな…」
「神童?どうした…っ、山菜…!?」
ああ、見つかった。
テスト明けからどう接すればいいんだろう。想定していたことだけれど、実際その場面に遭遇してしまうと、想定も何もなくなってしまった。
「ご、ごめんな…さい」
ドアを押して顔を見せた。
「ごめん、な、さい…ごめんなさい、ごめんなさい…!」
気付いたときにはもう遅くて、大粒の涙をぽろぽろこぼしながら拭わずにただ謝りつづけた。霧野くんとシン様は乱れた制服を正して、こちらに駆け寄ってきた。
「…どこから見てた?」
霧野くんが、神妙な面持ちで問いかけてきた。シン様は、恥ずかしいのかそうでないのかは分からないけど、ばつの悪そうな顔をしていた。
「トロイメライ、弾き終わったところ…から…」
「そうか。…泣かせるくらい妙なもの見せちまって、…ごめんな。」
「だから言ったじゃないか、誰かに見られたらって」
「…妙、じゃない」
「え?」
「なんか、霧野くんが、…羨ましくて…気付いたら…泣いてた」
「俺が…羨ましい?」
「…うん。いつも…シン様の隣にいれて…私よりも綺麗だし…それに」
「それに?」
「シン様のこと…本気で、好き…だから…」
言った。空気にのせて言ってしまった。恥ずかしすぎて、顔がほてる。
「だってさ、神童!」
にっこり笑ってシン様を見た霧野くん。…え?どういうこと?
「山菜」
「は、はいっ」
「…実は、俺も…山菜のこと、好きなんだ…」
え?今、願ってもない言葉がシン様の口から出た。一体何?ドッキリ?
…要約すると、私がシン様に好意をよせていたのは分かっていたけれど、そう気にもとめなかったらしい。でもそのうちに、マネージャーとして一生懸命に仕事をしていた私を見て、いつの間にか好きになっていた。
でも、私が本気でシン様を好きな確証はなかったし、霧野くんと関係を持っていたし、好きだったから行動を起こさずにいたけれど、思い切って霧野くんに想いを打ち明けてみたところ、山菜は本気でお前のことが好きだから、俺と別れて山菜に告白しろ…と言ったらしい。
それで、アドバイスした代わりに音楽室でピアノを弾いてくれなんて言った、とのこと。
「それ、じゃあ…」
「…そういうことだ。今日からよろしく。…山菜」
どうしよう。
…嬉しすぎて、死んでしまいそう。
I'm so Happy
(つか、いくら褒め言葉だとしても男に綺麗はないだろ)
(…そう?二人とも、女の子みたいに綺麗じゃない?)
(……。)
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本当はバットエンドの予定でした。でもくっそ長いしあまりにもひどいエンドだったので可哀想に思って方向転換したらありがちなオチになった。あと茜ちゃんの口調がわからん
Q,なんでトロイメライなの?
A,私が好きだから
2011/7/27