クラスメイトであるロンシャン(彼氏がコロコロ変わる女子。ボンゴレとは敵対関係にあるトマゾファミリーのボス)に合コンのようなものに誘われて、わたしは獄寺さんと一緒に行くことになってしまった。 今日に限って芽人は「家の用事があるから先に帰るね!」と慌てて帰ってしまったし、頼りの綱は誰もいない。 結局、ボーリング場に来てしまった。 そこで出会った相手はわたしたちをキーホルダーにしようとしたりする散々な相手で、どうすることもできなかった。 そうこうしている内にロンシャンは以前お宅を訪問したときにいた彼氏である人に助けられ帰ってしまい、獄寺さんも「十代目すいませんんん!!」と叫びながらどこかへ行ってしまう。 帰りたいけど男の人達怖くて帰れないよぉ……! 半べそになりながらストラップやペンケースになりたくなくて一生懸命後ずさる。 逃げたいけどわたしの足じゃあ絶対に追いつかれちゃうし、どうすればいいのか。 後ずさっている内にガン!と背中が壁に衝突。 もう、逃げられない。 「お前、ストラップにする!!」 「ひ、…いやぁああ!!!」 助けて、芽人―――…! 「これが本物のボーリングなのですね!」 目の前できらきらと目を輝かせている女は、俺の兄貴の彼女だ。 どうして俺が自分の兄貴の彼女を連れてボーリング場などにいるかといえば、放課後兄貴に捕まって「暇だろう?ぼくは少し用事があるから彼女を頼んだよ」と押し付けられたからだ。 ……どうしてボーリング場なんかに来たがったのやら。 「さあ、やりますよ琉吉!犬を見返してやらなくては…!」 あ、そーいうこと。 兄貴の彼女―――骸音に付き合って受付登録をしていれば遠くに見慣れた姿があるのに気づいた。 その姿は以前黒曜の地で戦ったことのある小さな弱虫の少女のもの。 骸音が受付を済ませている間暇になるので観察していれば、そいつはジリジリと後ろに下がっていく。 その前には男がいてどうやら言い寄られているらしい。 薄暗い感情が生まれるのもやむなし。 視線を外そうとしたとき、男たちが小さな姿に襲いかかる。 「! 琉吉!どこへ行くのです!まだ受付は…!」 後ろで骸音が叫ぶのも聞かず飛び出す。 床を蹴って飛び上がり、男たちめがけて足を振りおろした。 ガッ!!…ドサッ…! 目の前にいた男の人たちがみんな床に倒れている。 怖かったけどゆっくり目を開けば、視界に広がる草色の制服。 ふわりと香った男物の香水にじんわりと涙が溢れ出す。 「お前みたいなチビでもナンパされるんだな」 チビ…って…! 本当のことだけどこの人にだけは言われたくなかった。 わたしの思い人である、この人にだけは―――……。 「ほら立てるか?腰抜かしてねーだろーな」 「た、立てます。……あ、ありがとうございました!//」 「……別に構わねーけど。お前ほんっと危なっかしいな」 「う」 「今日紀本はいねーの?お前いっつもべったりじゃん」 「べ、別にいつも一緒なわけじゃあ!」 「いや、一緒だろ。見かけるときいっつも一緒にいるし。仲いいよな、お前ら」 「あ、…や、そんな仲いいわけじゃあ…!」 芽人とはそういう関係ではないんだってことを伝えなきゃいけないって気持ちが大きくなって、誤解されたくなくて必死に弁解してしまう。 でも彼はその弁解を聞いているのか聞いていないのか、わたしと芽人のことを話すから気分が沈む。 勘違い、されたくないのに。 「琉吉!」 「! こ、この声……は、」 「……おや、沢田綱輝ではないですか」 「や、やっぱ六道骸音!!」 「琉吉、今日は僕のエスコートのはずですよ。デート中に他の女を助けるのはいただけませんね」 「あーハイハイ、悪かったよ」 「ほらさっさとデートに戻、……っ!」 「琉吉と〈デート〉?ぼくはそんなものを許した覚えはないんだけど」 ひやり。 その場の空気が凍ってその人の顔を直接見れない。 柔らかな声をしながらもドスが聞いたように思えるそれを発したのはわたしの思い人の兄―――鈴尋さん。 「鈴尋!!用事は終わったんですか?僕、寂しかったんですよ?デートしましょう、デート!邪魔する奴はみんな堕としますからね!」 わ―――!!骸音勇者だ―――!!! べったりと腕にまとわりついた彼女を遠ざけようともせずその頭を撫でる表情は柔らかい。 どうやら機嫌は治ったらしい。 「鈴尋、用事は?」 「終わったよ。近所の不良が喧嘩売りに来たから買ってやっただけだし」 「へー。ゴクローさまなこって」 「ぼくが勝てば骸音の権力が増えるわけだろ。面倒なことでもないよ」 「………お前、ほんと頂点戻れよ」 「は? 不良の頂点なんて冗談じゃない。それってあの風紀バカと同じ地位に居ることになるのと同じだろ?ぼくはそんなのゴメンだ」 「Σお前ほんと雲雀嫌いだな!!?」 「ムカつくだろ、あの如何にもなカリスマさが」 そう言ってにっこり笑った鈴尋さんは「ごゆっくり」と手を振って去っていく。 もう片方の手は骸音の腰に回されているあたり本当にラブラブだ。 ……いいなあ。 わたしも琉吉さんと……。 「―――俺らもする?デート」 「あ、はい。……………って、え?」 「家の近くまで送ってやるよ。プチデートってやつになるのか?これ」 手を差し出される。 ゴツゴツして骨ばった男の人らしい手。 ……どう、しよう。 「お願い、します…!///」 一瞬でも合コン来てよかった―――!!なんて思っちゃった。 「……綱輝」 「なんですか?」 「今思ったんだけど、お前ここで何してたわけ?1人できたのか?」 「えっ!」 「………合コンだった、とか?だから紀本いなかったんだろ?…俺、邪魔した?」 「い、いやいやいやいや!!ち、違いますから!!た、確かに合コンだったけど無理やり連れてこられただけで!!」 「ふーん」 こ、これは信じてもらえてるのかな!? あ――っ、も――!!最高なのか最悪なのか分かんなくなってきちゃったよ―――!!! 「ってことがあって…。琉吉さんに誤解されてたらどーしよ…」 「フフフ。琉吉くんはそんなことで誤解をするような人じゃないと思うけどなあ」 「でも…!」 「大丈夫、綱輝は可愛いんだから自信を持って。ボクが保証するよ」 「ほんと…?でも芽人のカワイイは信用ならないし…!」 「えー酷いなあ。綱輝は可愛いのに」 「で?どうだったわけ」 「何が」 「少しくらい進展して帰ってくると思ったぼくがバカだったのか。……このヘタレ」 「こっちの俺はヘタレてないの!」 「こっちのとか言うなよ。メタいだろ?な?」 「ハ、ハイ…。 っていうか綱輝の態度があからさますぎてどうしようもないだろ。あいつがもうちょっと落ち着いたらどうにかするよ」 「あ、気づいてたんだ」 「そこまで鈍くねっつの! (っは――。綱輝が落ち着くのっていつ頃だよ……。俺、もしかして一生彼女できないんじゃねーのかなぁ)」 前 / 次 |