時は夏、7月7日。
今日は七夕の日で、織姫と彦星が年に一度会える日だった。




雲雀「ふぁ、」




その日の夜、瑠香は雲雀に呼び出され並盛中の屋上にいた。
午後11時。
いつもの瑠香ならば明日に備え睡眠をとっている時間。
欠伸をした雲雀に口元だけで笑みを浮かべ、瑠香も欠伸を零した。




瑠香「………あ。あれって……笹、ですか?」

雲雀「今更だね、気付くの遅すぎるんじゃない?」




目線を寄越した彼に苦笑を返して笹に近付いてみる。
すると1つだけ短冊がぶら下げてあった。




瑠香「(紫の短冊……多分雲雀先輩のでしょうね……。)」




なんとなくそんな風に思い、振り返る。
彼はメイペースにも小さく寝息を立てて眠っていた。
瑠香は鞄から持って来ていたタオルケットを取り出して、彼の体に被せる。





瑠香「夏だからって風邪引いちゃいますよ?」

雲雀「僕がそんなもの引くわけないでしょ」

瑠香「!、もう……、(仕方ない人なんですから)」




黙って受け取ってはくれなかったけれど、返されることはなかった。
少しだけ嬉しくなって、瑠香は笹のところへ戻り笹を眺め始める。
屋上の隅にちょこんと置いてある笹は綺麗に飾り付けしてあるというのに短冊が1枚だけというおかしなものだった。




瑠香「えーと…先輩のお願い事は………」




<風紀を乱すな 雲雀恭弥>




瑠香「(…願いことじゃないです!!!!)


これじゃあ命令じゃないですか〜…、もー(小声」




―――とんとん




そんな時背後から肩を叩かれる。
後ろを向くと其処には………




瑠香「草壁さん…?」




風紀委員会副委員長の草壁がいた。
いつも理不尽な目に遭っている人であり、風紀委員随一の苦労人といえるだろう。
瑠香も入会当初はよくお世話になったものだ。




草壁「どうぞ。願い事を書いてつるしたらいかがでしょう?」

瑠香「!、ありがとうございますっ」




瑠香に渡されたのは雲雀のものとは違う真っ白な短冊。
少し灰色がかっているが、瑠香はそれを一瞬で気に入った。




瑠香「これ………」

草壁「嫌ですか?なら取り替えますが」

瑠香「…いえ、私これを気に入ったのでこれで結構です。
ありがとうございましたっ」




お礼を言うと日下部は軽く頭を下げて屋上から降りて行った。
今校舎内に居るのは瑠香と雲雀、草壁を含めた風紀委員だけだ。
理由はよく分からないがとりあえず風紀委員が校舎内にいるのだけは確かだった。



瑠香「(願い事……かぁ)」




鞄からペンを取り出し、何を書こうかと考える。




瑠香「(何が良いんでしょう…?
考えるんじゃなくて私の今一番願いたいことを書けばいいんでしょうけど……それがよく分からないですし、)


うーん…」

雲雀「ん…、…」

瑠香「っ…!?」

雲雀「………スー…」




雲雀は身動きをしただけで起きてはいなかった。
安堵から方を撫で下ろす。
もし、起こしてしまっていたら咬み殺されてしまうだろう。
最悪の事態を想定すると体がぶるっと震えた。




瑠香「(そういえば……先輩の願い事は<風紀を乱すな>…でしたよね。

なんだか凄く頭に残ってます。
思い出すたびに笑みが零れちゃうっていうか……)


ふふっ…」




―――グイッ




その時腕を横に引かれる。
当然横にいるのは誰でもない雲雀なわけで………




雲雀「何笑ってるの?」

瑠香「ひ、ひひひばっ、雲雀せんぱ…っ!?


(お、おこ、起こしてしまった…!?)」

雲雀「短冊?………ああ、あれか。



………そうだ」

瑠香「え?…あ…っ!」



雲雀は瑠香から短冊とペンを取り上げ勝手に何かを書いてしまう。
その上瑠香が届かないであろう笹の高いところにくくり付けてしまった。
瑠香からすれば10cm以上も高い背の相手がくくり付けた場所など台がないと届くはずもなく。




雲雀「これで君は短冊書けないね…くす」



雲雀が意地悪そうに微笑する。
それを見て瑠香は顔をほんのり朱に染めると俯いた。




瑠香「そういうの意地悪って言うんですよ…!?


(この人に惚れてるのも何ででしょう?惚れた弱みってよく言ったものですよね。
あんな風に笑われたら強く言えませんよ…うう)」

雲雀「何とでも言えば?」




その上雲雀は瑠香を座らせるとその膝を枕代わりにして再び眠り込んでしまったのだ。
少しの身動ぎも出来ない。
それだけでも辛いと言うのに、瑠香にはそれ以上の拷問でもあった。



瑠香「(…うぅ、付き合ってるわけでもないのにこんな事されると勘違いするのでやめてください…!
心臓がばくばくいって落ち着かないじゃないですか。つ、伝わらないとは思いますが……伝わってたら…!!)


もう…!タオルケット…何処ですか…?」




そう思って周りを見ると丁寧に鞄に入れ直してある。
どうやら雲雀が畳んだらしく、きちんと畳んであった。




瑠香「(だ、から…だからあなたを怒れないんですよ…)


意地悪…」




翌朝、雲雀は笹を回収しに行った。
そこには誰も居ない。
そこは昨日の夜、満樹瑠香と過ごした屋上。
一夜明ければ学校は再び学生の喧騒に包まれており、静かな空間を探すほうが難しそうだった。




雲雀「(………そういえばあの子、なんて書こうとしてたんだろう)」




雲雀のもつ瑠香への感情は<興味>でしかない。
だが好き、嫌いで言わせれば好き(like)なのだろう。




瑠香「風紀委員にいれてください…っ!」




自身を恐れず真っ直ぐに見て、彼女はそう言った。
ゆえに雲雀はあの少女を傍においている。
あの時抱いた瑠香への<興味>が薄れない限りは、彼女を傍に置き続けるだろう。
自身とは違った観点で者を見て草食動物であろうとまるで自身と<平等>のように扱うのだ。




雲雀「人は、決して平等じゃないのにね」




昨晩くくり付けた自身の短冊を手にとってぐしゃりと握り潰す。
風紀を乱す存在は自身で刈り取ればいいと自己判断したからの行動だった。




雲雀「(彼女みたいな人間は、好きじゃない。自分が優越感に浸りたいから人を助けるような偽善的な人間は。
満樹瑠香はそれを無自覚でやってのけてる。そこに<興味>は感じないし、それどころか不快……違うね、<嫌悪>の念すら感じるよ。


もしかすると僕が考えている彼女と本当の彼女は少し違うのかもしれないけど……ね)」




<満樹瑠香が 雲雀恭弥>



昨晩瑠香の短冊を奪ってペンを走らせた。
だが途中で書くのを止めてしまった中途半端な短冊を見つめてあの少女のことを思い出す。
あの少女は自分の大嫌いな<群れ>のにおいがしていた。
否、それどころか彼女はきっとひとりでは生きていけない人間なのだと勘で悟った。




瑠香「あ、ここにいたんですね。おはようございます、先輩!!


あー!短冊見せてくださいっ!!」

雲雀「ダメだよ。これは委員長だけの特権だから」

瑠香「そんなぁ…!!」




七夕大会




それでも少女を傍に置いたのは―――どうしてなのだろう。




草壁「委員長!老人ホームの壁が破損したそうです。犯人は沢田綱吉一行だとか」

雲雀「………。


―――咬み殺す…!!」

瑠香「え…ちょ…!!


押さえてください!!雲雀先輩、押さえてくださいってばぁ!」




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