体を起こした琉輝がリリアの前に立ち、利里を視界に捕らえる。 リリアが感じるに琉輝の旋律は常時でも怖いほど激しいものだ。 けれどとても暖かい旋律をしている。 リリアはそんな琉輝の旋律が好きだった。 何故ならそういう旋律をしている人ほど仲間思いで、優しい人だからだ。 家光や東眞伝いで知り合った九代目も年からか緩やかにはなっているがとても綺麗な旋律で、ツナも激しくはないが彼なりの音色で仲間思いの心が伝わってくる旋律を奏でている。 リリアはそういう人の気持ちを旋律として感じることができる特殊体質のようなものだった。 琉輝「ボンゴレ匣、開匣」 開匣されたボンゴレ匣から出てきたのは月狼(ルーナ・ルーポ)のオルトだ。 尾に月の炎を纏わせた主人と同じ色の瞳をした銀狼が琉輝の足元で吠える。 リリア「まあ…!(ビリビリと空気が振動するほどの咆哮……素晴らしいですわ!)」 琉輝「オルト、いけるな?」 オルト「ウォーン」 琉輝「はは、元気なようで」 犬のように月狼とじゃれている琉輝相手に利里が容赦するはずもなく再びの音波攻撃。 それをリリアの指示で避け、物陰に隠れると耳打ちで作戦を話し合う。 リリア「あれを浴びると精神が狂わされて幻覚睡眠状態になるようですわ。 利里の属性は雪。雪の特徴は<溶解>ですから、きっと音波と霧の炎を雪の炎で結びつけ放ったのでしょう。 あの音を直接聞いては致命的な一打撃を与えられてしまうこと間違いなしですわね」 琉輝「あぁ、分かってる」 リリア「ですが、きっと単調なる攻撃は雪の炎で溶解され無効化されてしまいます」 琉輝「利里が獄寺や鈴音みたいに多属性使いの可能性もある。 此処に来る前の雨の炎はスクアーロのものを利用してたみてぇだし、霧はあいつ自身のもんだろ?他の属性はまだ分かんねぇ。気をつけて損はねぇだろ」 リリア「ええ…。 それに月の属性は<共鳴>。雪の炎のように炎同士の同化は不可能。雪属性相手には相性がよいとはいえませんわ」 琉輝「あぁ、分かってる」 雪は<炎同士>を溶かし新たな特徴を生み出す。 月の炎は<炎以外の物質>―――例えば岩と岩をくっつけて大岩にするなどの力しかない。 実質月の特徴は自然の中や霙の物質創造の補佐があって始めて役に立つというものだ。 対するリリアは霧属性だが利里に対抗してあの音波を防ぐには無理がある。 音波は打ち消さなければ完全に防ぐことは出来ない。 リリアが霧の炎のみを込めて音波を放っても利里の音波に雪の炎が紛れていたら放たれた音の炎まで溶解して威力が上がってしまう恐れがあるのだ。 琉輝「そーいえばリリア、お前あの音波浴びても平気なのか?」 リリア「これでも術士の端くれですわ。アレくらいなら自分で相殺できます」 琉輝「………そうか。じゃあ決まりだ!お前は自分を守ること!俺が利里を倒す」 リリア「ええ…!!?」 琉輝「任せとけ。その代わり、自分の身は絶対に守れ。俺は晴属性を使えない」 リリア「…っ、はい!」 琉輝の瞳から真剣な色が窺えて、リリアは息を飲んだが確りと頷いた。 リリア「(本気なのですわね。ならば、わたくしは反対いたしません。その代わり、) 精一杯の補佐をいたします!勿論、自分の身を守ることは忘れていませんからご安心を」 琉輝「サンキュ」 利里「ねぇ、終わった……?」 リリア「!!」 琉輝「あぁ!こいよ、利里」 利里に居場所を見つけられ、構えた琉輝が懐から<ナニカ>を取り出す。 それは…… 利里「え…ナイフ…?」 琉輝「ん?あぁ、まあ…任せとけって」 にっと笑んだ琉輝がハープを奏でだした利里に向かって走っていく。 利里とぶつかっていたリリアには分かる。 利里は音を操っていて、音を圧縮して音弾として放つ事で敵を倒しているのだろう、と。 リリアはそれを高音で地面へと叩き落すことで攻撃を防いでいた。 その所為で先ほどの陥没が出来たのだがそれはもう終わった話だ。 それよりも今は利里の技のことについてである。 元より音は視認出来ないもの。 耳で戦うしかないこの状況を、目で戦う琉輝がどうやって制すのか、リリアには疑問でならなかった。 ナイフ1つで勝てるとは到底思えないのに、彼女はナイフ1つで踏み込んでいった。 オルト「ウゥ……ウォォオ―――ン」 リリア・利里「!!」 琉輝「音に対する対策が1つもないわけ、ないだろ?月の特徴は<共鳴>。炎以外の物質ならなんだっていけるんだぜ? っつーことで、今お前の音を打ち消すために周りの音とお前の音を共鳴させて打ち消した……なーんてな!」 利里「な…、」 リリア「(そんな無茶苦茶で当てずっぽうな戦い方をしていたというのですか…!?)」 利里「そんなの…ありえない、」 琉輝「オルトの叫び自体にお前の音を打ち消す効果はねぇよ。降参しろ、利里」 そういって琉輝は利里の<首>にナイフを―――当てた。 切れるか切れないかギリギリの位置で止まったナイフからひやりとした冷たさが伝わる。 利里の表情は変わらないが小さく息を呑んだのだけはわかった。 だがそれはナイフに怯えているからではない。 利里「、ッ…」 リリア「(ま…待ってください。琉輝さんは利里から離れていたはずですわ。 少し修行の相手をさせていただいたこともありますがあんな速さ見たことがない。陸上選手のそれを上回る……否、まるで瞬間移動のような…!)」 利里が息を飲んだのは琉輝がいきなり目の前に現れたからだ。 勿論実力差があればそう見えることも多々あるがこの場合は利里の方が彼女たちより強いという圧倒的な自信があった。 それだというにこんなことになっているのだ。 利里はぐっと唇を噛み締めて、琉輝を強く睨みつける。 利里「降参なんか……したら、」 琉輝・リリア「?」 利里「(紅蘭に、捨てられる…!!!) すぅー……」 リリア「!! 琉輝さん耳を塞いで!!!」 琉輝「!?」 琉輝がバッと耳を塞いだのと同時に甲高い音が響き渡った。 琉輝「っっ…!?」 リリア「なん、っ」 オルト「クゥン……」 琉輝「オルト…平気か?」 オルト「ウー……」 琉輝「耳、辛いよな。俺も、…辛い」 甲高い声の所為で頭がぐわんぐわんとして、目の前がくらくらする。 リリア「何だったのでしょう?」 琉輝「わ、わかんねぇ……」 リリアが琉輝の方に近づいたとき並盛神社の屋根の上に利里が座っているのに気付く。 その姿はどこか異形で大きなハープを抱えていた。 藤色の髪が白に染まり、赤の瞳が紅色へと変わっている。 そして服装は死神を思わせるような真っ黒の装束に変わっていた。 リリア「あれは…一体…?」 利里「教えてあげる」 琉輝・リリア「?」 利里「人間を超えた、綺麗な音色。死の旋律を……」 利里の指に嵐と雨と雪の炎が宿る。 多属性使用者ではないかと疑っていたこともあり、そこまで驚きはしなかった。 琉輝「嵐と…雨?」 リリア「……、まさかっ!」 琉輝「リリア?」 リリア「あの音色は体を壊す音色……!?」 琉輝「は?」 利里の指がハープの弦へとかけられる。 リリア「嵐は<分解>。雨は<沈静>。 憶測ですがあの音色は体の細胞を破壊しわたくしたちの体を衰弱させ死へと導く旋律なのではないでしょうか…!」 琉輝「なっ…!?」 どうすればいいのだろう。 リリアの属性は霧で、琉輝の属性は月。 あの旋律を止める手立てなど…どこにも存在していない。 琉輝「っくそ!オルト、形態変化!」 リリア・利里「!!」 琉輝「俺は…ッ、こんなとこで死ぬわけにはいかねーんだよ!!!お前倒して、あの場所に戻る…! 鈴音がいて、クロームがいて、城島や柿本がいるあの日常に!10年前の楽しかった日常に戻りたい! あたしは綱吉や皆のいるあの場所に―――っ戻るんだ!!!!!」 * * * リボーン「おいツナ」 ツナ「何だよ、リボーン?」 リボーン「琉輝からの連絡はまだねぇのか?」 ツナ「琉輝? あっ、そうだよ!!どーしよー!!修羅開匣とか知らないんじゃないかな!?」 ど、どうしよう。琉輝に知らせなきゃ…!! ツナはそう思って無線を入れるが不幸なことに無線は全く繋がらない。 央樹「無線の連絡はつかないんで…切ってますね」 ツナ「Σそんな―――!!!っ、琉輝…!!」 リボーン「やべぇんだがな」 ツナ「え……?」 リボーン「リリアは音使いだ。そのリリアがあの敵に反応したとなると相手も音使いだぞ。どう考えても琉輝が音に対抗できるとは思えねぇんだ」 ツナ「そん、な…!」 「っあーもー、うるせーな! 俺だってリリアと同じだぜ。今までの生き方に悔いなんてねーし、悔いもしねー。それに………もう負けもしねーよ。 言ったろ。俺は報復すんだよ。それまで、死ぬわけには行かねー」 「黙って送り出せよバーカ」 そう言った琉輝の顔はよく見えなかった。 ツナ「(泣いてるのか笑ってるのかすら声音からは窺えなかったけど、それでもきっと琉輝はどっかで泣いてたんだ…!) 助けに行かなきゃ…!」 リボーン「バカツナ。お前が行ってどうすんだ」 ツナ「でもッ!!!」 リボーン「お前が行っても役に立たねぇだろうが」 リボーンがツナの頬をペチッと軽く叩いた。 ツナはぐっと唇を噛み締めると、拳を握り締め胸の内を吐露する。 ツナ「じゃあ、どうしろっていうんだよ。琉輝さんとリリアを此処で見殺しにしろって言うのかよ…っ!」 鈴蘭「綱吉くん」 ツナ「鈴蘭、さん?」 鈴蘭「琉輝は負けないから」 ツナ「え…?」 鈴蘭「絶対に負けないから、大丈夫よ」 ツナ「でも―――、っ!」 鈴蘭はゆっくりとツナの両頬を包みこむように触れた。 琉輝に似た顔で優しく微笑んだ鈴蘭がこつん…と額をくっつける。 鈴蘭「貴方が信じてあげなくて、誰が琉輝を信じるの?」 ツナ「!」 鈴蘭「琉輝を好きだというのならずっと側であの子を信じてあげて?ぐるぐると回り道をするあの子を、信じて待っていてあげて。 そうしたらきっと、貴方の元に、帰って来てくれるから」 ツナ「鈴蘭…さん、」 ―――ジジ…ッ ツナ「―――!!」 《…は綱吉……いる……場所に―――っ戻……だ!!!》 ツナ「!!! 今の声、琉輝だ…っ!」 鈴蘭「大丈夫、あの子は戻ってくる。ね?」 ツナ「、はい……!」 リボーン「それが月の守護者…か」 ツナ「?」 リボーン「初代月の守護者は医者だったらしい。 自警団という役柄上怪我が多かった初代たちに対し容赦なく拳骨を落とすわ説教をするわである意味恐れられてた存在だったんだ。その上武術も相当の腕だった。 そんな初代月は戦いの最中だろうが負傷者を見つければ手厚く介抱したし、消耗しているものがいればそれを配慮し別の人員をいれる等死亡率を減らす工夫をしていたらしい。 そんな初代月を見て初代はこう言ったそうだ」 「あいつがいるから、俺はまっすぐ戦えるんだ。あいつはいつも真っ直ぐだから俺が間違えていれば真摯に話を聞いてくれるし道を正してくれる。 あいつは………そうだな―――」 ―――まるで夜道を照らす月の光のような奴だ。 リリア「あれが…琉輝さんの…ボンゴレ、匣…!」 月の攻撃 ―――真っ直ぐで陰らず暗闇を明るく照らし続ける白銀の月、ケートの医具!!! 戻る |