とある部活の日常。




「裸体とは、神秘だと思わないかい!?」

「「………。」」




いきなり部室に入ってきたと思えば挨拶もなしにおかしなことを言い出した部長に後輩の如月共々固まる他なかった。
何でいきなり裸体だ、何でいきなり神秘だ。
話の脈絡が全くないのは最近絡んでくる後輩の女生徒と同じだろう。
ガタタ…と俺の目の前の椅子を引いた部長が腕を組んで、裸体は神秘だよ諸君、などと再び変なことを言い出した。
もうこうなったらどうしようもないから放っておくのがいいだろう。
あの後輩はそれをよしとないだろうが。




「……先輩……裸体が、神秘…って…?」

「いや、ほらヴィーナスを改めてみていると…こう、妙に包まれたい気持ちになってね」




ああ、もうこの時点で本当に意味が分からない。

見目だけはいい部長を見ながらスケッチブックに目の前の存在を書き写すため鉛筆を手にとって構図を決める為頭を悩ませる。
どこから書いても綺麗(部長の褒めるところなんてそこくらいしかない)な部長をどう書けばより美しくなるか、だとか、どの角度から書けばベストか、とか色々と考えている内にも部長と如月の会話はどんどん迷宮入りしていく。
このまま放っておけば部活どころではなくなるだろう。
それだけは遠慮したい。




ガラッ、




「逢野くんいますか?」

「―――……川南?」

「あ、よかった!此処にいたんだね!…学級旗の事なんだけど…ちょっといいかな?」

「……構わないけど、」




あんな空間にいるよりは。




「うちのクラスの学級旗、逢野くんにデザインを任せたいの」

「なんで?」

「この前美術部が美術館で展示会したでしょ?私お父さんとお母さんと見に行ったの。そしたら逢野くんの書いた空の絵があってとっても感動したんだよ♪」




だからかな、なんて笑う川南の差し出してきた学級旗のテーマ(これ決めたとき半分以上聞いてなかったな)が全てを包み込むような大空≠セった。
空の絵を描くのは得意だし、人物画より気楽で人を相手にしなくていい分楽しい。




「…………空の絵を描くだけなら別にやってもいい」

「わぁ、ホント?ありがとう!」




にこっ、と学園のマドンナの再来≠ニ呼ばれている川南が笑って、お願いね!、と手を振って去っていく。
その瞬間…―――。




「圭人、君も隅に置けないじゃないか!」




部長が背後から肩を組んできてそう言った。




「…川南先輩……でしたね…」

「マドンナに頼み事をされるなんてフラ、ぶっ!」

「ぶん殴りますよ部長。触らないでください」

「(もう、殴ったあと……です、)」




床で顎を押さえてフルフルと震えながら痛みに耐えている部長を如月が心配しながらあたふたしてて俺は知らないフリをする。
此れが何時もの日常で美術部三人の変わらない時間だった。




「(そら。)」




川南の言った展覧会での絵。
あの時書いた空はただ衝動的に書きたくなって携帯で取った写真をそのまま絵に残したもの。
あの時の空は空の青と雲の白と太陽の光のコントラストがとても綺麗だったのだ。
あの空のよさが分かる川南に頼まれたなら多少は書いてやろうって気持ちにもなる。
手元の紙を見つめてから窓越しに空を見上げると嫌なくらい真っ青な青空で光が多すぎる上に白が足りない、なんてぼんやり思った。














☆圭人クラスメイト☆

川南 杏奈(カワナミ アンナ)

母親に似て天然な川南諒と笹川京子の娘。
志希の思い人たる杏奈ちゃんは彼女である。




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