01 あの日は普通の日だった。 長かった諸々の戦いが終わって平和な日々を過ごしていた中、少女たちは異世界へと飛んだ。 「ん?おぬしら、一体どこから現れた?」 そこで出会ったのは奇妙な老人。 * * * 〔鈴音Side〕 カランコロンと下駄の音が鳴る。 〈ハンター試験会場〉の場所を探してもうどれだけ歩いたことか。 「お〜い、鈴音〜。こんな街中にあんのかよ〜??」 「だって住所、この辺りなんだもの」 「マジか」 〈ザバン市、ツバシ町の2-5-10〉と〈ステーキ定食、弱火でじっくり〉。 それが私たちに与えられた義祖父様からの最大のヒント。 ただし道案内をしてもらった時点で失格という難関付き。 この世界に来て3ヶ月。 その上まだ世界に詳しいわけでもないから容易にはたどり着けないのだ。 (義祖父様の元を出てもう2ヶ月だっていうのに情けないわね……) 「多分…ここ、じゃないかしら?」 「お〜、でけ――っ。やっぱこれくらいデカくなくちゃ」 「そっちじゃなくて、…向こう」 「へっ?」 琉輝の頭を掴んで後ろを向かせる。 そこにはなんてことない定食屋が存在している。 〈ウソ――!?〉と叫んだ琉輝を沈めて中に入る。 間違っていてもちょうどお腹が減っているから恥ずかしくはない。 「いらっしぇーい!!ご注文は――?」 「ステーキ定食」 「弱火でじっくり、で…よろしく」 「あいよ――」 「お客さん、奥の部屋どうぞー」 そう言って通された部屋には真面目にステーキが用意してあった。 中に入ればそのまま扉が閉められてエレベーターのように下降して行く。 (どうやらあの定食屋はカモフラージュのようね) 「ん…、あっこれうまい!」 「そう、良かったわね」 「なー鈴音。ハンターの資格取ったら何すんの??」 「……何、するのかしら。取れって言われたから来ただけだし」 「いや、そうなんだけど。…やりたいことってねーの? えっと、怪物、財宝、賞金首、美食、遺跡、幻獣…だっけ??稀少な事物を追求することに生涯をかけるのがハンターってやつなんだろ?」 「…………そうね。どうせなら一攫千金狙って財宝でも探してみる?」 財宝になんてこれっぽっちの興味もないけど。 怪物はどうでもいいし、賞金首なんて狩ったところで心が荒むだけだし、美食は別に興味ないし、遺跡も見つけてどうするんだって話だし、幻獣は……。 「幻獣って何かしら」 「知らん。けどヤな予感がするからそれだけはやめとけ?」 「そう」 そんな会話をしていればチン、と音がして地下100階についた。 (どんだけ深いのよ、ここ。) 中に入れば予想以上の人間がいて一斉に視線を受ける。 その視線の鋭さは相手のレベルを教えてくれた。 「(案外簡単かもな)」 「(思っても声に出さない方が利口だと思うわよ)」 「(ハハ、了解)」 何をすればいいかも分からず周囲を見渡していれば〈ハイ、番号札〉という声がして丸いプレートが手渡される。 番号は……225番と226番。 「なんか中途半端っていうか……微妙?」 「いいんじゃね?」 番号札を胸元につけて壁際の方へ行く。 これからどれだけの人数が集まるか知らないけれどしばらく退屈になりそう。 ……と思っていたのも数分前まで。 「よっ俺はトンパ、よろしく」 「「………。」」 「君たち新顔だね」 「は?なんで分かんだよ」 「なにしろ10歳から35回もテスト受けてるからさ」 「「(バカなんじゃないの、こいつ)」」 なんで35回も受けて1回も受かっていないのか不思議でならない。 そうとう腕が悪いのか頭が悪いのか、どちらかかしら? 「おっとそうだ。お近づきの印だ、飲みなよ」 そう言って差し出された缶ジュース。 とりあえず受け取ってはみたものの怪しいから飲まないことにして足元に置いて座り込んだ。 トンパは〈飲まないのか?〉と言ってくるが残念なことに水分補給は30分前に済ませたばかりだ。 「過度の水分摂取はしない主義なの」 「あとで飲むから、またなー」 とりあえず彼から離れた場所に出て缶ジュースは丁寧に処分させていただこう………と思ったのだが。 「おねーさんたち、それいらないなら俺にちょうだい」 「? …いいけど、マジで飲むの?」 「いいよ、別に。何が入ってても効かないから」 「「?」」 首をかしげていれば缶ジュースを受け取った少年はごくごくとそれを飲み干してしまった。 後でどうなっても私の責任にはならないはず…よね。 「ぷはっ。……ありがとねおねーさんたち。 でも不用意にこういうの受け取らない方がいいぜ。何が入ってるか分かんないんだからさ」 そう忠告して去っていく少年の背を見送って私たちは顔を見合わせた。 ……ところで、彼は誰だったんだろうか。 ×
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