第三章
二十三話





俺より小さな背中が階段を下りて行く。昔からアキネはそうだった。誰にも言わず、一人で泣いて、姉ちゃんが気付くまで誰にも何も言わないんだ。気付いてやりてェけど俺ってば、その、姉ちゃん曰く『ドンカン』ってやつらしーから全然気付いてやれなくて……。


「アキネー!頑張れってばよー!」


結局こんな風に応援する事しかできねェ。でも、アキネは何時も笑って返してくれるから、俺も甘えちまう。


「カカシ先生はズルいってば」

「何がずるいって?」

「そうよ、何言ってんの?ナルト」

「だって、アキネの影に気付いてる」

「!(ナルト…お前、)」

「俺は、何時も気付けないままだってば」


だから、きっと、アキネは昔みたいに笑ってくれないんだ。


「狐原アキネ、灰野トロワ、両者異存は有りませんね?」

「はい」

「ええですよ」


クスリと笑みを浮かべたアキネの対戦相手が背から楽器(サクラちゃん曰く三味線)を抜く。


「さあ、はじめましょか、と…言いたいところ何やけども」

「うん??」

「あの少年……あー、アンを傷つけた子…ミヒロくん、やっけ?」

「うん、そう、だけど……」

「あの子なぁ…第二試験の時、僕の三味線の弦、全部切りはってなぁ…」


確かに楽器の弦は全部切られていた。カカシ先生曰く切り口は真っ直ぐでミヒロの刀使いの上手さが伺える…らしい。やっぱりサスケもミヒロもムカつくってばよ!!!いっつもあいつらばっかだもんな!!


「困った事に……これ、使えへんのよ―――」


 ガッ!!!


「が、は…っ!」

「―――楽器としては、な?」


一瞬の油断をついて、アキネの腹部を三味線で横からなぎ払った敵。アキネは抵抗も出来ず壁へと叩きつけられた。


「アキネェ!!!」

「ゲホ…ッ…、ハハ……油断、しちゃったかな…。ミヒロに怒られるや、」

「んー?ミヒロくん?何でそこで彼の名が出るん?」

「油断大敵…敵が会話をするとき、必ず隙を狙ってくる、油断するなって……習ったんだ、ミヒロに…ね!」


ヒュッ!!と飛ばされたクナイ、其れをも三味線で叩き落したトロワが笑む。だが、その隙にガムを口に放り込んだらしいアキネがガムを噛みながらニタリと意地悪く笑った。あー…ああいうところ、なんかアキネの父ちゃんに似てるってば。


「んじゃ、いっくよー!!!ガム……」

「?!」

「爆弾!!!」


 ボフン!!!


アキネが床にガムを叩きつけた衝動で広がった紫の煙が視界を覆う。


「視界を覆ったつもりなんやろうけど……こんなん、風遁使えば全部吹き飛ぶわ」


風遁を使い、煙を吹き飛ばした次の瞬間、かかった!!という声と共に敵のいる場所へと大量のクナイがつき刺さる。やったってばよ!!!あれ喰らって無事なわけ―――…


「咄嗟に避けんかったら針山になるとこやったわ…」

「うっそー……今の刺さってくれても良かったんじゃないのー?!…んぐぐ…」


…ねェのに…。たった一歩横にずれただけで全部避けるとか……!


「そんな…!!」

「一瞬にして全部をよけ切る方法を見出した…って事ね。相当強いよ、彼。アキネちゃん…負けちゃうんじゃないかな」


カカシ先生の言葉に絶句した。アキネが…負ける?


「ナルトくん、アキネ…貴方たちどんな忍者になりたい?」

「えー…っと…」

「ハイハイ!俺、火影になるんだってば!!だからー…そう、強い忍者になりたい!」

「!、うちも!うちも、強い火影ー!」

「アキネは駄目だってば!」

「なんで?!」

「だって…その、」

「???」

「アキネは…俺を一番に認めてくれた奴、だから…怪我して欲しくねェんだってば」

「忍者になったら怪我はするわよ」

「じゃあ、じゃあ、忍者も駄目ー!!!」

「まあ…」

「んー…んー…じゃ、じゃあ、絶対負けない!」

「「?」」

「ナルトの為に、負けない。うちは、ナルトの為に強くなるの!ナルト、うち、負けないから!絶対!」



アキネは……


「アキネは絶対負けないんだってばよ!!!!」

「ナルト?」

「アキネは…アキネは負けねェ!!!」


…アキネは…負けねェんだ。














「アキネは…アキネは負けねェ!!!」


ナルト……、そう、だったね。うちは、ナルトの為に、負けないって…昔、約束したもんね。ナルトを……守りたいから強くなったんだ。こんな場所で、負けられない…!!でも、どうしよう。正直言うと、さっきので策は使い果たした。うち、馬鹿だから思いつかないしなぁ…。猪突猛進で言って勝てる相手じゃないし、狐原の瞳術も完璧じゃない。残ってるのは―――…


「…うう…」


超、不安だ。でも……ミヒロにも、静那にも、頼りになるって思い知らせたい。ナルトとの約束も、守りたい。だけど、そうするには、精一杯の力を出しきらなきゃいけない。あー…本当に不安だけど……うう。


「掛巻も 恐き稲荷大神の大前に 恐み 恐み も白く 朝に夕に 勤み務る 家の産業を 緩事無く 怠事無く 彌奨め 奨め賜ひ 彌助に 助賜ひて 家門高く 令吹興賜ひ 堅磐に 常磐に 命長く子孫の 八十連屬に至まで 茂し 八桑枝の如く 令立槃賜ひ家にも身にも 枉神の枉事不令有 過犯す事の有むをば 神直日 大直日に 見直 聞直座て 夜の守 日の守に 守 幸へ賜へと 恐み恐みも白す」


祝詞を唱えれば目の前に現れる刀。それに血を這わせ床に突き刺す。


「口寄せ―――天陽…!!」


ボワンと刀が消え、其処に現れたのは一匹の狐―――の耳と尻尾を生やしたおにーさん。


「………、…」


ぐわんと此方を振り向いたおにーさんがきらきらっと目を輝かせてすりすりとすりよってくる。その光景に回りは唖然……デスヨネー。だから呼びたくなかったんだ…!!


「あぁ……アキネ様!今日も、しっとりとしたお肌が……、!!、あ、あ、荒れている…!何故っ?!ああ…アキネ様の柔肌が…!アキネ様の純潔が…!私と言うものが有りながら…!酷いです、アキネ様」

「違う違う。それに天陽ともそんな関係じゃないし」

「今日の体温は36.5…ああ、平熱ですね。身長…少しお伸びになられて嬉しい限りです。体重…少し減っていますね。ダイエットなんてもっての外ですよ、ダイエットならわたしがお手…いえ、なんでもありません。髪も少し痛んで…お肌のケア同様、きちんとしていただかなくては。目も少し充血していますね、目薬をどうぞ。爪も少し伸び気って入るようですよ。唇も少し荒れて……ああ、お労わしやアキネ様……。私がついていながら…!どうか、この刀で首を…!」

「ちょっと待て――!!!呼んだ瞬間首はねさせるの?!」


ああ、ほら、だから嫌だったんだ!!!某漫画のボディガードが如く『これ』だから嫌だったんだ!!!変態だよ、変態が此処にいるよ――!!!いやああああああ!!!!


「?、では何故お呼びになったのですか?私が出てくる理由など貴方様の健康管理兼ボディガード以外に何が?」


そのボディーガードはいらないから、そこは口寄せとしての役目果たしてよ、うん。ガードはしなくていいからさ……ね?


「早くしないと、平手打ちするから!!」

「あぁ…!なんと嬉しいご褒美でしょう…!」


ああ、やっぱり訂正。変態じゃなくてこれドMだった。


「ですが、貴方様の手を傷めてしまいます。叩くときはどうかこれを、」


渡されたのは鞭だった。本当に叩いてやろうか、この口寄せ。……いや、これでも狐だもんね!…そう思えば許せてしまう、うちコノヤロウ。


「では、戦闘モードへ移行します」

「最初からそうしてくれたら助かったんだけどな!!!」

「テヘペロ☆…という事でどうでしょう?」


ボフン、煙を出しながら消えた天陽が肩の上へとよじ登ってくる。ああ、こっちの姿は可愛いな、うん。………尻尾が胸触ってるのは気になるけど!


「…あらまあ…かいらしい、狐やこと」

「狐?あれー…何言っちゃってんの?」

「ん?」

「お狐様!!!リピートアフタミー!!!」

「……ふふっ、…さあ、はじめましょか?」

「負けないよ」


その言葉と同時に、天陽の目が鋭く光った。




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