Princess Lover


神官と外交


「紅珀〜」

「わ……!」




背後から肩に力をかけられよろける。
それを後ろから抱きすくめられて、肩口からひょいっと顔を覗かせたのはジュダルだった。
妙に面倒くさそうでダルそうにしているジュダルの表情を見て、これはまた何かあるのだな、と悟る。




「オヤジたちが又俺についてこいって言うんだぜー?外交なんて懲り懲りだっつってんのに」

「外交も、貴方の大事な仕事、でしょう……?」

「はぁ〜?!俺がそういうの苦手だって知ってんだろ〜?!興味もねーって」

「そうは言っても……。
 それよりもジュダル、貴方は聞いていて?紅玉ちゃんが、結婚するらしいのだけど……」

「ババァが?」

「ええ。なんでも相手はバルバッドの王様だとか……」

「……アイツか」




紅玉ちゃんの結婚のお話は結構前に出たお話だ。
最近ジュダルと会う機会がなかったから話すのはこれが初めてになるのだけど……。


バルバッド=B


国名を出した瞬間グッと顔をしかめたジュダルは、バルバッド王の事を知っているらしい。




「知っているの…?」

「知ってるも何もアイツはとんでもねーブタ野郎だぜ?よかったな、紅珀。お前が選ばれなくてよ!」




それは余りにも紅玉ちゃんが可哀想ではなかろうか。
けれど私は今回の婚約に自分が選ばれなくてよかったと強く思っていた。

実父の血族となる娘なら私や紅玉ちゃん以外にもいるが殆どが嫁いでいて禁城にはいない。
いるとすればまだうら若い紅玉ちゃんと、将軍として活躍している私のみ。
選ばれるとすれば私か紅玉ちゃんだけだった。

そんな中選ばれたのは紅玉ちゃんのほうで、私は至極ホッとしていた。



ジュダルが『よかったな』と笑って、その笑みにズキリと胸が痛むのは、やっぱり―――。




「………ねぇ、ジュダル。よかったのは、私だけ…?」

「………!」




紅覇も紅玉ちゃんが選ばれた後「紅玉には悪いけど、紅珀姉が嫁がなくてよかったしぃ!」と喜んでいた。
嬉しいと思った。

けれど、予想していたほどの嬉しさではなかったの。
これはつまり、そういうことなのでしょう……?


私は私が思っている以上にジュダルが、好きなんだってこと、よね?




「俺は、」




困ったように眉根を下げて、目線をそらしたジュダルにハッとする。
困らせるつもりはなかったのに、どうしてあんなことを言ってしまったのかしら…。




「ごめんなさい、ジュダル。私、勝手なことばかり……。貴方を困らせてしまったわ、」

「―――……お前が嫁いだって、関係ねーよ」

「!!」

「お前の心は、お前より強くなかったら奪えねーんだろ?アブマドの野郎にお前の心が奪えるわけねーからな」

「……っ…ジュダル」

「だからまだ待ってろ。俺がお前より強くなるまで」

「……私、もっともっと強くなる、わ…」

「はぁ?!勘弁しろよ!!」

「ごめんなさい。でもね、貴方がいつまで私に勝てなくてもいい。私はずっと、待ってるから。
 私はもっと強くなる……。なりたい。貴方や紅覇……あにさまたちを、ずっと、守りたいから、」




そう言って笑えば、ジュダルは呆れたようにため息を漏らしてから、笑った。




「なら、ずっと待ってろよな。約束破ったら、」

「……破ったら?」

「俺がお前を殺すぜ?」




ハハハ!


笑うジュダルに、ぽかんと間抜けな表情を晒す私。
殺す、といったの?私を?




「というか紅珀よぉ。俺が何のためにお前のとこ来たか分かってねぇだろ?」

「え……?」

「バルバッド行こーぜ!お前がいれば退屈な外交も、楽しくなるからよ!」




そう言って笑ったジュダルに腕を引かれ、禁城を出ていこうとしている絨毯の上へと放られる。
その後に絨毯に乗り込んできたジュダルの姿を見ると組織の者たちはそのまま絨毯を宙に走らせた。
拒否権なく行われた一連の作業のような流れにポカンとなるものの、すぐさまハッとする。
私はジュダルの公務についていけるほど暇ではないし、城から勝手に出るわけにはいかない身分。
許可さえもらっていないのに勝手に姿を消せるほど身軽ではない。



わ、私、誰にも何も告げていないのに、勝手だわ………!




「ジュ、ジュダル…!私っ、」

「紅炎には許可取ってあんぜ?」

「………い、つのまに…」

「いいだろ、別に。それよか紅珀、メガネがお前の下敷きになってんぜ」

「メ、ガネ………?」




ジュダルに言われるがまま下を見れば、そこには紅玉ちゃんの従者である夏黄文がいた。




「ご、ごめんなさいね、夏黄文」

「い、いえ。紅珀様の下敷きになれるのであれば光栄であります!」

「え、…ええ……?」




夏黄文はビシッと姿勢を正すとそういった。
私が困惑している間も宙を進んでいく絨毯は、少しずつバルバッドへと近づいてきていた。



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