Princess Lover


皇女と神官


「知らねえんだよ……。む…無理だって…魔風壁≠フ解除なんて……俺たちが出来る訳ねえだろ……」




どうにかして魔風壁≠解くためにエルザちゃんが鉄の森を締め上げて、私はそれを他所に悶々と考え込む。

闇ギルドは悪い組織。
その闇ギルド―――鉄の森が狙っているのは権力。
今の魔法界で大きな権力を握っているのは評議院。
けれど評議院なんて大きな場所を早々狙えるはずもない。

まずは手近な権力から狙って、その力を試すはず。

なら、その手近な権力は―――?


「気に入った仕事あったら私に言ってね。今はマスターいないから」

「あれ?本当だ」

「〈定例会〉があるからしばらくいないのよぉ」

「〈定例会〉?」

「地方のギルドマスターたちが集って定例報告をする会よ。評議会とは違うんだけど……う〜ん…ちょっとわかりづらいかなぁ?」



っ、まさか…!




「エルザ――!!紅珀――!!」

「グレイか!?ナツは一緒じゃないのか?」

「はぐれた。
 つーかそれどころじゃねえっ!!鉄の森の本当の標的はこの先の町だ!!じーさんどもの定例会の会場……奴はそこで呪歌ララバイを使う気なんだ!!」

「大体の話は彼から聞いた。紅珀はまだ知らなかっただろうが」

「憶測はたってました。……ですが、今この駅には魔風壁があって外には出られませんよ」

「ああ、さっき見てきた!無理やり出ようとすればミンチになるぜ、ありゃ」

「こうしてる間にもエリゴールはマスターたちのところへ近づいているというのに」




鉄の森のメンバーたちに解き方を聞いても誰も知らず、結局のところ解けていない。
武器化魔装も試そうとしたがエルザちゃんが「お前には後で戦ってもらわなければならない」と余計な魔力マゴイを使うことを止められてしまったので、魔風壁は未だ健在。

どうやったらこの魔風壁を解くことができるの?




「!
そういえば鉄の森の中にカゲと呼ばれていた奴がいたハズだ!!奴は確かたった1人で呪歌ララバイの封印を解除した!!」

解除魔導師デイスペラーか!?それなら魔風壁≠焉I!」

「私はしばらくここに残って解除できるか試してみるわ。2人は解除魔導士を」

「あぁ!!」




カゲという男を探しに駆けていく2人を見送って、魔風壁≠見つめる。
これを特には解除魔導士が必要だろうけど、もしかしたら解けるかも知れない。




「怠惰と淫乱の精霊よ……汝に命 「なぁ」 …?!」




双鎖連刃を構えて全身魔装をしてこの壁を吹き飛ばそうとした時、風の向こうから声をかけられた。
警戒して双鎖連刃を構えて体勢を変えて後ろに飛び退く。
その瞬間風の向こうから、にゅ…と腕が伸びてきて額に汗が伝う。。


何が起きているの…?
この先にいるのは一体、誰―――…?!


その手はどんどんこちらに伸ばされてだんだんと姿があらわになっていく。

金の腕輪。
黒のアラビアンパンツ。
胸元を覆い隠す黒の上着と白い布。
長く伸ばされたふわふわの三つ編み。


あ……あの、姿、は―――。




「お前こんなとこで何してんだよ?」

「…じゅ、だる……?」




カラン…、


双鎖連刃が掌から溢れて、床に落ちる。
手で覆い隠した口元が震えて、目元はじんわりと熱くなって、視界が揺れる。


だって……そんな…、貴方が、目の前にいるなんて!




「な、何泣いてんだよ…?!」

「…会いたかった…、」

「!」

「会いたかった、わ……」




この世界には誰もいないものだと思い込んで、積極的に調べることはしなかった。
私が知らなかっただけで煌帝国は存在していたのかもしれない。

もっと早く、調べていれば良かった。

もっと、もっと早く―――。




こっちのが、会いたかったっての

「?


 …ジュダル…今何か言った…?」

「何でもねぇよ。涙ふけっての、辛気臭ぇから。
 つーか覚えてねーならいいけどよ、お前戦で変な奴の魔法にあたって消えちまったんだぜ?お前追ってこっち来たら、お前は変な乗り物乗ってっし、変なのに挑んでるし……紅覇が見たら卒倒モンだろ」

「…私は…」

「覚えてねぇならいいって。それよりさっさと帰ろーぜ。紅炎たちも心配してんだからよ。
 ………とか言いたいとこなんだけどなぁ…」




ガシガシと頭を掻いたジュダルがだるそうに空中にあぐらをかいて口を開く。
瞳は気まずそうに宙を彷徨っており、言おうか迷っているようでもあって……。
私が双鎖連刃を拾い上げながら首を傾げれば、彼は諦めたように息を吐いて話してくれる。




「 帰り道分かんねーわ 」

「………どういうことなの?ジュダル」

「し、仕方ねーだろ!俺だってあの時は一時も早くお前を迎えに行ってやろうと必死だったんだよ!紅炎たちもこっち来てるはずなのにいつの間にかいねーし、参ってるのは俺も同じなんだぜー?」

「なんだぜー、と言われても困るわ。
 まぁ、今すぐに『帰りましょう』と言われてさっさと帰るほど薄情になった覚えもないのですけど」

「はぁ?」

「今お世話になっている場所があって、そこには恩があるからすぐには戻れないの」




あにさまたちもこちらに来ていらっしゃるなら、きちんと説明しなければならないのかしら……。

悶々と考え込んでいれば、ジュダルはふあぁ…と欠伸をして空中で寝転がり、完璧に昼寝の体勢をとってしまっていた。
どうしてそうすぐに寝れるのか。

神経を疑うわ。




「紅珀!!」

「……エルザちゃん?」

「すまない。カゲを無事に連れてくる予定だったのだが…!」

「え?」




それから数分、エルザちゃんたちが戻ってきた時ジュダルは地面に倒れる鉄の森のごとく床で爆睡していて、怪しまれる以前の問題だった。
それよりもエルザちゃんたちの連れてきたカゲという男性の怪我具合の方が気になってしまう。
ナツくんがやったにしては刺し傷のようですし……全く別の人間がやったと考えたほうが良さそう。

それよりも―――。




「その人を助ければいいんですね?」

「何?できるのか…?」

「少し待っていてください。
 調和と友愛の精霊よ、汝と汝の眷属に命ず、我が魔力を糧として、我が意志に大いなる力を与えよ。……出でよシーシア!!」




胸元の飾りが光を放ちゆらりと揺れる羽衣へと姿を変える。
淡く透ける羽衣はゆらゆらと私の周囲で揺れて、私を包み込んでいく。

シーシアの武器化魔装では私の姿が大幅に変わることはないので羽衣のみが嫌に存在を主張してしまう。
けれどエルザちゃんたちに見せたことのないシーシアの能力のこともあるから妙な羽衣を換装したとでも思ってもらえればこれ幸いです。





女神の抱擁シーシアル・ラビリア




円状になった羽衣から光が降り注ぐ。
女神の抱擁シーシアルラビリアは羽衣から照射される光の範囲内にいる人間の治癒力を上げる技。
治癒専門の力もあるもののあれを使うと非常に疲れるのであまり使わないことにしている。




「で?カゲの傷が癒えるまでどれくらいだ」

「人によるけれど……大体1時間かしら」

「な!
 くそぉおおっ!!こんなモン突き破ってやるぁっ!!」


バチィィ!!


「ナツ!!」

「バカヤロウ。力じゃどうにもなんねえんだよ」




私の治癒が遅いと知るやいなやナツくんが魔風壁へと突っ込んで怪我を負う。
急がなければマズイけれど、どうにもならない。


さすがのジュダルでもこの魔法は解除出来―――……そうです、ジュダルに頼んでみればいいのでは?




「ジュダル!」

「んぁ……?」

「あの魔法を解ける?」

「あぁ、あの変な5型魔法のことか?解くのは簡単だけどよ、」

「なら解いてくれないかしら?私たち先に進まなきゃいけなくて、」

「でもよぉ、5型魔法ならお前のが得意だろ?」

「だ、だとしても流石にベルファは……」




戦っている間に魔力マゴイが枯渇したときに使えるのが自然からルフを吸収するという方法。
戦いもしないのに武器化魔装なんてしても意味はない。
それどころか魔力マゴイの吸収しすぎで容量オーバーが起きるだけ。


分かっているくせにそんなことをいうくらいです。
ジュダルに手伝う気はありませんね………。


じとっとジュダルを睨みつければ、彼は『仕方ねぇなぁ』と言わんばかりにぐっと伸びをして立ち上がる。
ペタペタと石の床を歩き魔風壁へと進んでいくジュダルの後を追えば羽衣が自然と私を追ってきた。

カゲさんの治癒力はだいぶ上がっているはずですし、もう照射はいらないですよね。




「なぁ紅珀」

「何…?」

「この壁ぶっ壊したらなんかくれんのかよ?」

「は……、」

「なーんてなっ!お前にこんなとこで手ぇだしたら面白くねぇだろ」

「?、??」

「紅覇の前手正々堂々奪ってやるっつってんだよ。
 それより見てろよ?こんな壁俺がルフに命令さえしちまえば……」




ジュダルがルフを杖にまとわせ魔風壁へと伸ばす。
この世界の魔法が元の世界の魔法と同じかはわからないけれど、マギであるジュダルがいうのだからあの方法でどうにかなるのだろう。

バチィ…と弾かれるような音がしながらも魔風壁に杖を差し込んだジュダルは魔力を放出する。




「凍っちまえ!!」


ピキ、……ピキキ、


「風が凍って…?!」

「………疲れんだぜ、これ。他人の魔法を書き換えるなんて一瞬しか出来ねーんだからよ」




『早く行こーぜ』と凍って開いた穴から外に出ていくジュダルに倣って外に出る。
エルザちゃんに目配せをすれば彼女たちもそこから飛び出て来た。

しかし―――。




「きゃ?!」

「うわ?!閉まっ……」

「ルーシィ!!」

「ハッピーも!!」




ルーシィちゃんとハッピーくんが中に取り残されてしまった。
慌てていればジュダルが『なんか変なの増えたぜ』と呟くので首を傾げていれば地面に穴が開いて、2人が飛び出てきたので驚かざるを得ない。




「お前どうやってここに来たんだよ?」

「星霊よ。バルゴの力でここを出られたの!」

「おぉ、あの時のメイドゴリラか!



 ……痩せたな?」

「あの時はご迷惑をおかけしました」

「痩せたっていうか別人だから!!さっきは突っ込まなかったけど…あんた、その格好…」

「私はご主人様の忠実なる星霊。ご主人様の望む姿にて仕事をさせていただきます」

「前の方が迫力あって強そうだったぞ」

「では…」

「余計なこと言わないの!!」


「へぇー星霊か。かわいらしいじゃねえの」

「ルーシィか、やはり流石だ」




ルーシィちゃんたちと現れたのはこちらの世界で言うところの侍女の服を着た桃色の髪を持つ女性の星霊。

星霊とは、いろいろな力を使えるのですね。
姿かたちも自由のままだなんて。




「それにしても、強い風……。髪が、」




シーシアの羽衣を飾りへと戻して、魔風壁の風で暴れる髪を押さえる。
ジュダルは髪を遊ばせていて特に気にしてはいない。
……自慢の髪だという割に気にしていないなんて『こんな風で俺の髪が痛むかよ』ってことかしら。

羨ましい。




「急ぐぞ!!」

「姫!!下着が見えそうです」


ぶあっ


自分の隠せば。


「無理だ……。い…今からじゃ追いつけるハズがねえ……。お、俺たちの勝ちだ…な」

「無理でも追いついてみせますよ。――意地でも。」

「!
 (この女の目………目が離せ、なく―――…)」

「………。


 つーか紅珀よぉ、」


ぐい


「な、なな、なに?ジュダル///」




後ろに引かれて体勢を崩す。
それと同時に顔を覗き込まれて至近距離でジュダルと見つめ合うことに。

ち、ちちち、近いのだけど…?!




「その髪俺とオソロじゃん」

「………そ、それだけ?」

「あ?それだけ、って他に何があんだよ」

「………。」




私の胸のときめきを返して欲しい……。




「?……何怒ってんだよ?


 ………つーか1人いなくね?」

「え?」




顔を近づけてまで言うことか、と恥ずかしくなった数秒前の私を殴ってやりたい気分。


……と思えたのも少し前まで。
ジュダルの言葉で1人いないことに気づいた私たちは辺りを見渡してナツくんとハッピーくんがいないことに気づく。




「あっははは!?置いてかれてやんの!俺が連れてってやろーか?」

「!
 ジュダル、まさか…」

「あぁ、あんぜ絨毯」




これでナツくんたちを追える……!

勝手にエリゴールを追って行って心配をかけたんですから、それなりのお説教は覚悟してもらいますよ、ナツくん。



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