豊臣には三成に似た人形(ひとがた)がおる。
目付きは女子にしては鋭く、女子にしては表情が少ない。
雑賀孫市も表情は少ないが多少の笑みは浮かべる。
だが……―――。




「………雪…」




此れは余りにも表情が変わらぬ上に言葉も少ない。
まァ、観察するのにこれ以上適した女子はおらぬがな。
ふわりふわりと落ちてきた白い花弁の様な雪が女子……名前の着物に落ち溶け行く。




「やれ、庭におっては濡れてしまうぞ」

「…ぁ……大丈夫ですよ、吉継さま。…私より…吉継さまこそ、お風邪を召さぬよう……」




名前は胸の辺りの紐を解いて羽織りをわれの肩へと掛けた。
ほんに夫より男らしい女子よ。
そっと羽織りに触れればじんわりと伝わる熱。
嗚呼、先ほどまで名前が羽織っておったからか…。




「(高い体温よ…)」




風邪を引いた訳でもないのに高い熱を持つ名前は冬には最適であろうなァ…。
まァ、身体の関係もない上に手も繋いだ事はないが…な。




「刑部!刑部はいるか!」

「あいあい、こっちよ、コッチ」

「中々出仕してこないから何かあったのかと思ったぞ」

「嗚呼…今日は寒いゆえな、も少し温まってから行こうと思っておった」

「?
こんな場所でか?」

「こんな場所でよ」

「…そうか。…ところで、名前、貴様は其処で何をしている?」

「………雪見、でしょうか?」

「何故疑問符が付く?!」

「………さあ、何故でしょう…?」

「…はぁ…」

「ヒヒッ!三成もお手上げの様子と見た。
さて、そろり行くか。羽織は此処において行くぞ。見送りはよい」

「……分かりました。行ってらっしゃいませ、吉継さま」




名前がぺこりと頭を下げた反動で長く伸ばされた紫銀の髪がさらりと垂れ下がる。
其れを見て輿を浮かせれば三成が背後に付いて来た。




「刑部、」

「どうしやった?」

「……子は成したのか?」

「…やれ。われは急に耳が遠くなったぞ、何も聞こえぬなァ」

「………刑部、何時までも病を気にしていては血を絶やすぞ。其れは豊臣の為にならぬ事だ。
…先に行く」

「あい。



………なァ、三成…われはな…ぬしの言う事が正論だと分かっておる」




分かっておるのだ、十分分かっておる。
だが、ぬしと同じで無垢なあれを穢すのは些か気分が悪いのよ。


そして……―――。




「………病があろうと人は人……、違いますか?」




触れてしまえばあれを人目に晒さず、奥へ奥へと押し込めたくなってしまうゆえ…。
われにとってあれは……毒、よな。





(われには分からぬ、似て否なる、忌むべき存在。)




「姫さま?」

「ぁ…」

「どうかなさいましたか?」

「………ううん、何でもないの。さ、お稽古しましょう?」

「はい。では、今日は花を生けましょうか」




きっと、吉継さまが何時も見送りをいらないと言うのは私がきっと駄目な嫁だからよね…。
もっともっと、頑張らないと…。




title by 夕庭
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