市姫様の婆娑羅≠フお力でどうにか破壊だけを免れた刀はわたしの手によって婆娑羅屋金ヶ崎店へと修理に持ち込まれた。
あの婆娑羅屋は全国にちぇーん店(どうやら奥州で教えられた言葉らしい)を展開しており、どこの国の婆娑羅屋にも優秀な鍛冶が存在し、数々の婆娑羅者の武器を作ってきたという話を聞き及んでいる。
もちろんこのわたしもどこぞの婆娑羅屋で作られた一品モノであり、婆娑羅に耐性を持つ武器の一人でもあった。
―――このように意志を持っているのはどうやらわたしだけのようですが。
「うーむ、次の出陣場所はどうするか……」
「織田の復興を考えて出陣せねば…!」
今日も今日とて仕事もせずにただただ半狂乱をこじらせている我が軍の兵たちは次の出陣場所を考えている様子。
わたしはその部屋の前を通り過ぎ半壊状態である屋敷の奥へと歩き出す。
半壊しているのは屋敷の始めの方のみで、奥の屋敷は以前の輝きのままの姿であろう形を残している。
市姫様のお部屋はそこにあり、先日助けた殿方はその右横の少し離れたお部屋で介抱している。
傷は出血を止め、(効くかわかりませんが)兵から貰った傷薬を塗り、包帯を巻きこの屋敷にある数少ない布団へと寝かせた。
もしわたしの憶測通りであるならば婆娑羅屋での修理が終わった暁には綺麗さっぱりお元気になっていることだろう。
「市姫様。名前でございます。」
「名前……?市に何か用……?」
「申し上げにくいのですが近々出陣の予定があるようでございます。兵どもが話しておりました」
「……市、何処に行けばいいのかしら……」
「それは今話し合っておりますゆえ少々お待ちを。最近の戦場はおかしな化物が出ていると聞き及んでおります。聞いた話によると偵察に出た越後の忍殿も大怪我をなさったとか」
「いや……!市、怖い……。そんなところ、行きたくない……」
抱きついてこられる市姫様をそっと抱き止め、囁く。
大丈夫、貴方様をお一人には致しません。
その為にわたしはここにいるのですから。
「わたしもお供いたします。市姫様のお側で戦うことをお許しいただけますか…?」
「ほんとう……?名前も、来てくれる…?」
「はい」
「市、嬉しい。名前……ずっと、一緒にいてね…」
ええ、もちろんです。
わたしが壊れるその日まで、何時まででも共に………―――。