その戦場にとどまりすぎたせいか検非違使≠ニいう強敵が出現して俺たちは予想以上の苦戦を強いられていた。
そんな中刀装が全て破壊され、清光に敵の刃が迫る。
「きよ、っ」
ビキ、ッ
嫌な音が響いて加州清光、その本体が傷つく。
折れる寸前になり清光が血を吐き、地に倒れる。
「清光っ!!」
「俺、……」
「清光、ダメだ!消えちゃダメだ!」
「はは……、俺…って、最後まで愛されてた、みたい」
そういった清光が消えていく。
いやだ、いやだ。
「清光っ…!……死ぬなよ、っ!!」
戦場だからまともな処置はしてやれないけどありったけの力を注ぎ込んでどうにか破壊だけを防ごうとする。
それは思惑通りどうにか成功した。
俺がそうやっている間に検非違使をなんとか倒してくれたらしい同じ部隊の面々も多かれ少なかれ怪我を負っていて、これはすぐに本丸に戻らなければならないと思った。
ギリギリ破壊寸前の清光を抱えて俺たちは本丸へ戻った俺たち。
けれど同じ部隊だった面々の傷が癒えようとも、本体が新品のような見た目を取り戻そうとも、清光が現れることは終ぞなかった。
* * *
「―――名前、名前」
何かに取り憑かれたかのように半狂乱になるばかりでまともな仕事をしない兵たちの代わりに屋敷周辺の見回りを行なっていれば、かのお方の泣きそうな声が聞こえてくる。
先ほどお眠りになったばかりの上に、先程まで泣かれ衰弱していたのだ。
これ以上泣かせてなるものか、と自身を引っ掴んでかのお方の部屋へ入る。
襖をそっと開け中を見ればかのお方は潤ませた瞳でわたしを見て、そっともたれ掛かってくる。
それを受け止め背を摩れば怖い夢を見たの……≠ニ嗚咽交じりの声が漏れる。
怖い夢≠ニはきっとかの殿方が出てくる夢であろうと思い至り、慰めるように声をかける。
「市姫様=c…名前がここにおりますゆえ、何も恐ろしいことは起きませぬよ。ゆるりとお休みになってくださいまし」
「でも、名前は…市が起きると…いつも、いないから……」
「も、申し訳ありません。いつも見回りに行っておりまして……」
「ううん……いいの。名前が市のこと、守ってくれているのは…市、わかってるから……。
市、いい子……?」
「市姫様は悪い子などではありませぬ。もっともっと名前を頼ってくださいまし」
「うん…うん……」
そう言いながらうとうとされる市姫様を布団へ寝かしつけようとした時、市姫様がゆるりと立ち上がりどこぞへと歩いていかれる。
市姫様がご自分からどこぞへと向かわれる事は少ないので何事かと思いながらも静止はかけずその後ろに追従する。
何かあればわたしが守れば良いだけだから。
「見て…?あの人…もうすぐ死ぬわ……」
「あの人=c…?」
市姫様が指を指された先には血を流し倒れる殿方が一人。
その近くにはボロボロになった刀剣が落ちている。
―――まさか、彼はわたしと同じ……?
「……もし、そこの方」
「……ぅ。……あ、んた……?」
「意識はあるようでございますね。
姫様、失礼を承知で申し上げます。かの殿方、救ってはいただけないでしょうか」
「市に……できる…?」
「はい!」
市姫様にやり方を教えると、殿方の近くに落ちていた刀剣が黒い魔の手に飲み込まれてゆく。
殿方はギョッと目を見開くとやめろ……!≠ニ小さな抵抗をなさるが、その抵抗で血を吐き再び血に伏せてしまう。
「市姫様は悪い方ではございませぬ。わたしは名前。貴方様のお名前はなんと仰るのですか?」
「…………………おれは、」
そこまでいうと彼は完全に目を閉じてしまう。
けれど浅いながら息はあるので彼を背に担ぎ、ゆらゆらと散歩でもするように半壊の屋敷へと戻ってゆく姫様の後ろに続く。
帰ったらこの方のお手当をしなければ。
資源は沢山という程はないけれど、あるにはある。
綺麗に治せるかわからないけれど婆娑羅屋ならばそれなりにきちんと直して下さるでしょう。
「直られた暁には貴方様のお名前、お聞かせくださいましね」