「そういえばさー、小さい頃の名前姉ってやたら白龍を構いたがってたよねぇ」

「え…?そう、かしら」

「そうそう。僕の姉様なのにーっていっつも嫉妬してたんだよぉ?」




腕に腕を絡めて上目で見上げてくる。


あざとい。
我が弟ながらあざとい。


その仕草が似合ってしまうのだからこの子の可愛さには参る。
私と紅覇、逆の性格で生まれてきたほうがよかったのではないかしら…?




「ご、ごめんなさい……紅覇。でも…あの、……その、ね?私の一番は、紅覇…よ?紅覇が一番大好き……愛してる、」

「〜〜〜っ、僕も好きだしぃ。姉様のこと、愛してるよぉ?
(臆面もなく言えるんだもんねぇ……。あーぁ。この好意が家族のものに対するものじゃなければ、いいのになぁ)」

「……ところで、どうして白龍くんなの?」

「たまたま思い出しただけだよぉ?」




それ以外の理由などない。
弟の顔からはハッキリとそれが伝わってくる。

白龍くんは現皇帝の四男であり、義弟に属する。
私たちからすれば目上の相手に当たる。

幼い頃見た彼は弟と年が近く、兄や姉と楽しそうに過ごしている姿をよく見たものだ。
本来ならば目上の相手を甘やかしたいなどと思ってはいないのだろうが当時の私にはそれが分かっておらず白龍くんをなんだかんだと甘やかしていたものだ。

それを見た紅覇が私の部屋へと駆け込んでくるのもほぼ恒例行事で。

思い出して思わず笑みを零せば紅覇がきょとんとした顔で私を見上げてくる。




「なんでもないのよ」

「そう?」




そう言って紅覇を安心させて。


すると後ろから駆け足で誰かが近寄ってくる。
誰かしら?と振り返ればそこには話の渦中に出た人物がいた。




「名前殿!少しお時間よろしいでしょうか」




律儀に手を合わせ真っ直ぐな目でそう言う。
そういうところが白龍くんのいいところだと思う。
私はこんな風に、出来ないから。




「構わない…けど、……どう、したの?」

「時間が空いたので名前殿さえよければ先日の頼みを聞いていただけないかと思い探していたのです。お暇なら、お付き合い願えないでしょうか」

「先日の…頼み………?」

「あ。お忘れ……ですか?ならば、よいのです。失礼致します」




残念そうな顔で頭を下げた白龍くんが背を向ける。

先日……あ、もしかしてお茶会の日の…?

あの日は色々と約束をしたから思い出すのに時間がかかってしまった。
けれど蔑ろにするつもりは一切ない。
誰の頼みも全て引き受けてしまったのだから、引き受けたものは完遂するべし、です。




「…白龍、くん。…修錬に、付き合っていただけません…か?」

「!
名前殿……。っ、勿論です。喜んで!」




嬉しそうな顔をした白龍くんと共に修練場へと向かう。
紅覇は面白くないといわんばかりの顔をして部屋に戻ってしまった。
あとで何かご機嫌を直してもらわないと。

そして少しだけ怒らないと。
あんな風に誤解を招くような立ち去り方をしてはならない、と。

白龍くんが困惑したような表情で私を見てくる。
まるでお邪魔でしたか?≠ニ言わんばかり。




「平気…よ?拗ねてる、だけ……。白龍くんは、悪くないから」

「ならば…よいのですが。それは嘘ではありませんか?」

「こんな嘘は、つきません。紅覇のことは……誰よりも、分かっているつもり」

「!
そうですよね。すみません」




お互い木で出来た薙刀を手に取る。

最近やっていなかったけれど、腕は鈍っていないかしら。
白龍くんに負けてしまわないかしら。

何だか少し不安になる。
けれど、やらないことには始まらない。




「行きます!!」

「どうぞ」




中段の構え……つまり、まずは普通にやるということでしょうか?
あれは基本的な構えであり、攻撃にも防御にも転じやすい。
基本中の基本、ですね。




「ふっ…、やっ……はっ!!」




上下振り、上からの斜め振り、横振り、下からの斜め振り。
それを全て避け、受けることはしない。
何故なら戦場で刃を受けることは危険だから。
あれ他の敵に狙われてしまうと瞬時に反応できないんですよ。


……私だけかもしれませんけど。




「惜しいですね、白龍くん」




体勢を瞬時に落としそのまま身体を回転させるようにして足をかける。
卑怯だとは、言わせません。
体勢を崩し倒れた彼の首元に切っ先を向け、終了。




「え……!?…わっ!!あ、足払い…?」

「ルールは決めていません、よね?戦場なら、何でもありです」

「、はい。…もう一度、お願いします!」

「……まぁ。…ふふ、強くなったのですね。……うふふ、」

「(あ。なんか不味いものを呼び起こした気がしてならない。)」




うふふ、少し血が滾ってきました。




「さあ、楽しみましょう?ねぇ、白龍くん。…うふ、うふふふふ」

「助けてください神官殿ー!」

「!?
お前なんでこういうときだけ俺に助け求めんだよ!!」

「お好きでしょう?こういう女性」

「………。
っだ――!!!こいよ、名前。遊ぼうぜぇ!!」




予定変更。
対戦相手ジュダル。














レディファイト!














「……さて、と。俺はこの間に退散するとするか」




結局また、修錬らしい修錬を出来ずに終わったな。
ハァ。
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