戦に出る時必ず任されることがある。
主さまはそれをやらせることを厭うていらっしゃるようだけれど、これが僕の能力で誰よりも一番にずば抜けていることだから仕方ない。
本来なら隊長となる者がやる役目を大抵僕が負い、この本丸のシステムは成り立っている。
それでなくとも成り立つとは思うけれど周りの刀剣たち曰くお前がそれをやった時の負傷率とやらなかった時の負傷率は段違い≠轤オい。
そう言われたらやるしかなくて、自分の役目をそこにしか見いだせていないという思いもあった。
―――…ここに来てもう半年が経つけど、僕には何ができるんだろう。
「今日もよろしく頼むぞ、苗字」
そう言って笑う今日の隊長である三日月さん。
今日の出陣の人数は最大である6人。
太刀の三日月さん、大太刀の蛍丸さん、打刀の加州さんと初期刀の歌仙さん、短刀の小夜。
そして脇差(仮)な僕。
主さまに見送られながら本丸を出て今日の出陣場所へと向かう。
僕は誰よりも先に先行して敵を素早く偵察≠キるだけだ。
* * *
主の本丸だけにいて、他のどの本丸にもいない世界で唯一一本だけの脇差、名前。
俺は正直アイツが疎ましかったし女というだけで主にベタベタに甘やかされて育った奴が戦場で何ができるんだ≠チて思ってた。
けど、少し前に俺の中での印象はころっと変わった。
アイツは大人しくなんかないし、甘やかされて育った女子供なんかじゃなかった。
胸の奥に黒いものを埋め込み、おどろおどろしい殺気を出し、命を奪うことにも躊躇なくただ命じられるがままに切り捨てて。
ああ、これが忍≠ニいうものだったっけ。―――とぼんやり思った。
冷酷で 冷徹で 心なんてなくて。
無情で 卑劣で どんな手段も厭わない。
忠実で 姑息で 己の手を汚し、誰かを守る。
意思なく 心無く ただ無情のままに刃を振る。
「お前って、カワイソウなヤツなんだね」
忍ってやつは大概自分の意志を持っていない。
自分の心のままに動けなくて、ただ命があるまで待ち続ける。
……俺は、そんなの嫌だけどな。
主には人一倍俺のことを愛して可愛がって欲しいから。
「……………カワイソウ=c…。ええ、きっと、そう。あの人≠ヘ可哀想な人だった……」
「……?」
本丸に帰って俺がかけた言葉に虚な瞳で声を返すと名前は主に申し訳程度の言葉をかけるとさっさと廊下の奥へ消えていった。
やーな、ヤツぅ。
「ただいま、主!」
「おう、おかえり清光。怪我はないな?」
「まぁ……アイツがいたしね」
俺が今回無傷で帰って来れたのも、全員の刀装が若干傷ついただけで終わったのも、全部アイツのおかげ。
嫌な奴だけど役には立つから憎めない。
俺にとっての名前って、そんな感じ。
「清光もなんかあだ名つけて呼んでやったらどうだ?」
「やだ。俺、別にアイツとそこまで仲良くする気ないし」
「強情だなぁ、お前は」
「それよりも、さ。後でまた爪紅塗ってよ。ちょっと剥がれちゃった」
「自分でやれ」
嫌いじゃ、ないよ
(ベタベタする意義が感じられないだけ)
「あ」
「……おはよう、ございます…」
「ちょっと。女なんだからもうちょっとくらいかわいいカッコできないわけ?」
髪ボサボサだし。
ああ、もう、仕方ないなあ。
「(俺、そんなに世話焼きな性分じゃないのに)」