ポツ、ポツ、ポツリ、
雨が降るある日、その少女はやってきた。
* * *
「やあやあお嬢さん、お暇かな?」
「!!」
雨が遮られた。
目の前では不気味に笑んでいる少女が一人、傘をさしている。
私の上に傘を差し出し自身が濡れるような格好になっているのにも関わらず彼女は嫌な顔一つせず私に傘を押し付けた。
「いやあ、こんなに雨降ってちゃ敵わないよね。お嬢さんもそう思うだろ?」
かはっ、と笑った彼女が私の横に腰掛ける。
パンツが見えても気にしないかのような座り方に何だか違和感を覚えた。
見た目は美少女なのに可笑しな子…。
「お嬢さんびしょびしょだね。どしたの?」
「………」
答える気は―――ない。
だって私が誰かと話すとその子まで不幸になってしまうから。
この子はきっと後輩だろう、だから何も知らずに私に話しかけてくるんだ。
「ありゃ、黙秘?…んー…まあ別にいいけどね、お嬢さんへの興味は薄いし」
「……」
「ただ私が聞きたいのはさ、苛められて楽しいのかな、って事」
「!!」
知っていた。
この子は私が苛められてるのを知ってて話しかけてきてる…!!
何で、どうして、ウソでしょう…?
* * *
「助けてあげてもいーよ?お嬢さんなんか匂うんだよね、」
「…え…?」
「兄貴的に言うと妹の匂いって奴?あ、違うかな。裏の匂い、かな。お嬢さん、家賊って訳じゃなさそう」
妹って感じじゃない。
匂うのは―――裏の匂いだ。
それを探って此処まで来て、私服で潜入したわけだけど………苛めは良くないよな、うん。
イジメなんて傑作だぜ。
うん、まあ殺人鬼である私がこんなことを言うなんて戯言だけどな。
「貴方、誰…?私服でこんな場所来たら…、」
「かはは!心配してくれんの?ありがとー。でも、だいじょぶよ、私強いから。でさ、とりあえずうち来ない?」
〈最近家賊で住み始めた高級マンションなんよ〉とお嬢さんを立たせて腕を引いた。
背後でビクビクしているお嬢さんには悪いけどこのまま連れ去らせてもらおう。
一応木の実さんに学校出るまで空間製作頼んであるから誰にも見つからないしね、うん便利。
「っと…学校の外来たな、うんうん」
「あ、あの、私…」
「大丈夫大丈夫、その内迎え来るって」
にしても服濡れすぎた。
雨脚強すぎるだろ。
そんな事を思っていたら目の前に車が止まる。
わーい、今日の迎えは潤ちゃんだ。
「やあ、哀川さん基潤ちゃん」
「あたしの事を苗字で呼ぶなっつんてんだろ、イア」
「うん、相変わらず私の事を〈絞殺戯画〉のイアと呼ぶんだね、人類最強」
〈まあいいけど〉と言いながらコブラへ乗り込む。
濡れてる事を予想済みなのかタオルが何重にも引かれていた。
流石潤ちゃん!人類最強!
「で?そいつどうすんの」
「あー、お嬢さんも一緒に乗る?」
「え、でも、…それ、2人乗り…」
「かははは!法律ってのは破る為に有るものだって。ほらほら!」
腕を引いて私の膝の上に乗せ出発!
* * *
「またお前拾ってきたのか」
「違う違う。匂うの、裏の匂いっての?」
「……あー、確かに普通の奴とは違うな。まあ本人気付いてねぇみたいだけど」
「?」
「それはそれでいいんだよ、気付かないほうがマシだ。で、それはいいとしてさ?この子苛めうけてんの」
「はぁ?」
「あれだよ。クラスの女の子が自分ひとり愛されてりゃいーみたいな思考持ってて」
「そりゃなんつーか、ある意味王道だな。王道は好きだが苛めは嫌いだ」
「だと思った。ってことで預かってくんない?」
「は?あたしが?」
車を運転しながら話す赤い女の人と私を連れ去った女の子。
苛めの事、詳しいんだ……。
なのにどうして〈楽しいか?〉なんて聞いたんだろう。
「そりゃ、こいつ頭可笑しいからだ」
「―――?!」
「潤ちゃん読心術朝飯前なのだよ、気をつけても仕方ないからもう晒しちゃったほうが楽っていうかさ?」
「そう、なんだ……」
「お前、名前は?」
「笹川京子…です、」
「ふーん。じゃあ、きょーたんな」
シニカルに笑んだ女性が〈哀川潤〉と名乗る。
何でも苗字で呼ぶのは敵だけだとかで潤ちゃんと呼ぶ事になった。
「お前の事は情報操作して死んだ事にするから」
「え……??」
「多分、お前は表じゃもう生きていけないと思う」
さっきから表と裏って、何の話なんだろう?
「表と裏に付いては後で教えてやる。とりあえず、お前は今日から哀川京子、あたしの娘な」
「むす、め……」
そっと片腕で頭を撫でられた。
ああ、人の体温は何時振りだろう。
ああ、人と話すのは何時振りだろう。
家にも、学校にも、何処にも居場所はなくて……、
「京子は必ず俺が守ってやる!極限にな!!」
ただ一つ心残りなのは……お兄ちゃんの事だけ。
「笹川兄は私がどうにかしてやんよ」
「?」
「そいつも匂うってか」
「まあ…、石凪っぽい匂いがすんの。でも、お嬢さんからは別の匂いがするんだよね、よく分からないけど」
いしなぎ…?別の、匂い…?
「ついたぞ。風邪引かないうちに帰れ、ほら」
「かはは!心配性だな、潤ちゃんは!じゃあな」
私を座席に下ろしタンと警戒に車から飛び降りた彼女がひらひらと手を振る。
あ、名前……聞いてない。
「あいつの名前は名前。まあ別の偽名(なまえ)もあるけどな」
「名前……」
「で、〈絞殺戯画〉なんて呼ばれたりもする。だからあたしは、イアって呼んでる」
〈絞殺戯画〉……かぁ。
「その内きょーたんにも出来るはずだ。楽しみにしてな」
再び撫でられた頭に、なんだか無性に泣きたくなった。
「……(名前がなんて付けるかが、一番問題なんだけどな。)」
* * *
「かはは……傑作だ。
……ただいまー」
ガチャ、
「!
名前お姉さん!おかえりなさいですよ〜!」
ぎゅう!
「うな?!び、びしょ濡れじゃないですか!」
「あー…雨の中ちょっと語り合ってたんだよ」
「理解出来ません……今お風呂沸かしますね!」
パタタと駆けていく舞織は義手をつけていなかった。
まあ、袖パタパタして可愛いから見てる分にはいいんだけど……
「((ゲッソリ」
「お疲れ、」
「あ?おー………
ってお前びしょ濡れじゃねーか!」
「まあ、色々有ったんだよ」
…舞織の世話をする人物がいなければならないわけで、その犠牲となったのがどうやら人識らしい。
…ドンマイ、人識。
「兄貴は?」
「買いもん」
PS3のコントローラーを動かしながら人識が答える。
因みにカセットはゾンビの出てくる奴だった。
まあ、実際殺した感覚はないけど殺せるからね、ちょっとは発散になるよね。
その内マジで殺したくなってくるから厄介だけど。
「名前戻って来たっちゃ……か?」
「軋兄貴、ハロー」
「びしょびしょの状態で歩くと廊下がびしょ濡れになるっちゃ!!」
〈阿呆か!〉とハリセンで頭を叩かれた。
痛っ、元々ネジ緩々なのにこれ以上緩くなったら如何してくれる!!!
まあ、釘バットじゃないだけマシだろうけど。
「雨に濡れた名前の姿も……悪くないな。詩情をかきたてられる」
「どんな詩だよ……」
「多少艶やかにはなるが美しい音色だ」
どんなだ。
「お風呂沸きましたよー。早く入っちゃわないと、 ガチャ !!!、お姉さん、早く!!!!」
〈諸悪の根源が!!!〉と言わんばかりの勢いで風呂場に押し込められた。
ドアの外には舞織がスタンバっている。
つまり帰ってきたのは兄貴と言う事だ。
「かはは、流石の兄貴でも覗きは 「舞織ちゃん、そこをどうにか!」 ?」
「駄目です!絶対!」
「数日間名前を見てなかったんだ!お願いだから!私の妹を……!!!」
……兄貴、ちょっと見損なった。
「今扉開けたらオープンな覗きとして通報するからな」
「人識よく言った」
「レン、流石にそれは犯罪だ」
「皆武器持ってスタンバイ!?」
何だろう、一家の連携怖い。
続かない\(^o^)/