きっと幸せは刃物のようだから
―――はらり、
赤が宙に舞った。
ウザったいほどに伸びた其れが俺によって刈られる。
くつりと浮かび上がる笑みが抑えられない。
「久しぶりだな」
「うん」
落ちた赤はあいつを縛る色だ。
落ちた赤はあいつが一番嫌う色だ。
落ちた赤は―――…。
「目、どうした?」
「怪我しただけ」
あいつが、家族だと自慢する男のものだった。
昔、此処で修行した時はらりと一房髪を切り落とした事がある。
あれから一週間カイアはブチギレてて手に負えなかったってのに…。
「………来いよ」
「!」
今はどうだ?
会って早々伸ばされた髪を肩辺りまで無造作に切り落としたってのに怒りもしねェ。
ムカついて腕を広げれば、カイアはにこりと笑って俺に抱き付いた。
「サスケが仲間だったら良かったのになぁ…」
「ふざけんな」
お前のいる場所にはイタチがいるだろうが。
そりゃ勿論カイアといれたらどんなにもいい事か分かりゃしねェけどな。
「さ、すけ…?」
「もう、離さねェからな」
「…うん…離さないで……ずっと一緒にいて?」
「…今も、これからも…か?」
「うん、ずっと………」あの日俺とカイアは誰にも知られず永遠≠誓った。
恋とか愛とか生ぬるい永遠じゃねェ。
「痛いか」
「え?」
「目」
「ふふ…大丈夫」
そっと眼帯を取れば其処には封威眼の紋様が浮かんでいた。
そして其の眼球は白が見当たらず、充血したかのように真っ赤。
「お前、まさか…」
「自分でやったんじゃないよ。家族がしたの」
誰だ。
カイアに、傷つけやがったのは。
ふつふつと沸く怒りに眉を顰めればカイアはくすくすと笑って眼帯をつけなおした。
「いいんだよ?傷つけても」
「何…?」
「私は、壊れるだけなんだから。壊れているほうが、いいんだって」
どういう、意味だ。
「ううん。私は壊れるしかないの。壊れていくだけなの」
「違う、だろ」
「違わないよ。だってそうでしょ、サスケ」
そっと伸びてきた手が俺の頬を捉える。
前よりも痩せて白くなった手だった。
「サスケが望んでイタチへの復讐に突き進むように、私も望んで堕ちて壊れるの。だから、壊れるしかないんだよ」
くすり。
笑ったカイアが不愉快だった。
「ただいま」
「カイアさぁ〜ん!!」
駆けてくるトビを受け止めれば強く抱きしめられた。
大丈夫だよ。
どれだけ堕ちても、どれだけ駄目になっても、どれだけ壊れても…もう、私の帰る場所は貴方のところしかない。
「ねえ、」
「ハイ?」
「近くに家借りて2人で住もうか」
「「「「「ブッ!!!」」」」」
「カイア――!!?何考えてんだ!?うん!!」
「不純異性交遊なんてリーダーは許しませんよ!!!」
「相手はトビ…!?許さないわ…!」
「ちょ、待ってくださいよー!!やだーもう!カイアさんも何言って、」
「トビはいや?」
「「「!!」」」
爆発物、技の準備、おりがみとそれぞれ構えを取る三人を見てトビが激しく首を振る。
「ちょ、ちょーっと待ったー!!!」
ぐいっと腕を引かれ離れた場所へ。
「何を考えている…?」
「だって、ここじゃあオビトは私と話をしてくれないから…」
此処での貴方はトビという仮面を被った一人の仲間。
それなら別の場所に行けばいい。
そうすれば貴方は私と真摯に話をしてくれるでしょう?
それに…―――。
「これ以上、思い出を持っていたら…私は壊れるのが怖くなってしまう…!」
きっと幸せは刃物のようだから「…怖くなどならない」
「…え…?」
「お前はただ、自分の心にまっすぐ生きればいいだけなのだから」
ま、っすぐ…?
真っ直ぐってどうだったかな。
ねえ、教えてオビト。
真っ直ぐって……どこをどう進めば真っ直ぐなのかな。
「(此処から先は、真っ暗で何も見えない闇の世界なの、)」
真っ直ぐが、分からないよ。
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