二人の幸せがないのなら、


 ドガァッ!!!


「ハァ…ハァ……予想以上に手間取ったな…」


自分が敵…か、予想以上にしんどい。
それに嫌な予感がする、急がなきゃ……!
一気に転身して初めの場所へと帰る。
少し体に無理を強いてでも急がなきゃ。


 ズザ…ッ


「?!」


何で、こんなバラバラ…?!
サクラも、チヨさんも、誰もいない。


「サソリさーん!!いるなら返事してくだ……、」


壁に押さえつけられているあれは……サソリさんの…!
……でも、胸のパーツがない。
なら、どこかにいるはず……サクラたちあれを倒したからって油断してどこかに行ったんだ。
ああ、じゃあ、サソリさんはまだ何処かに……!


 ガ…ッ


「………?」


足元には長い髪の女の人を模した傀儡が倒れていた。
黒い円の様な術式の向こうには赤い髪の男の人。
サソリさんじゃ……ない。
其処から視線を少しずらせば胸に刀が二本刺さった傀儡がある。
赤い髪の―――傀儡。


「………仕方ないなぁ、サソリさんは」

「………。」

「こんな場所で、寝たらダメじゃないですか」


何してるんですか、サソリさん。
起きて、私にバカだって言って下さい。
こんな所で何してるんだって、言って下さいよ。


「ねェ…サソリ、さん…」


そっと傀儡を裏返せば刀の刺さったパーツと血に濡れた地面、そして罅の入った顔が合った。


「怪我とかしたら許さねェ」

「許す許さないじゃないですよね。それに、怪我なんてしませんよ、護衛くらいで」



「ねえ…怪我したら駄目って言ったのはどっちですか、」


 ポタ…、


「…あー、こちら台所のカイア。どーぞー」

「こちら、洗面所のサソリ。どうぞー」



「まだ馬鹿な事やり足りないですよ…」


 ポタ…、


「ただい…ゴフッ!?」

「Σカイア―――!!??」



「まだただいまって言い足りてません…おかえりも、まだ聞いてません、」


 ポタ…、ポタタ、


涙が溢れて止まらない。
何で、どうして、ねえサソリさん…私、まだ一緒にいたい。


「ねえってば!!!!起きてください、サソリさん!!!!」

「………。」

「起きて……起きてください、ねえ―――サソリさん!!!!!」

「………カイア、」

「っうるさい!!!!!」

「!」


サソリさんは死んでなんかいないんだ。
サソリさんはまだ生きてる。


「生きてるもん!!死んでなんかいない!!!」


核の止血をしながら刀を抜き取る。
お願い、ねえ、サソリさん……死んだ振りだと言って。
私の頭を小突いて、『バカだな』って笑ってよ。
じゃないと私笑えないよ、どうやって笑ってたか分からないよ。


「ったく…仕方ねェな、俺の娘は」


そう言って私の事を抱き締めて…!


「ねぇ…お父さん…っ」


サソリさんは私のお父さんだ。
誰が何と言おうとサソリさんは私のお父さんだ。
だった、なんて…そんな言葉は使わせない。


「う…、ふ…っぅ…ぁあ、…ああああああああああ…!!!!!!!」

「カイア…泣きたいなら胸貸すよ?」

「いらない!私は…っ、サソリさんが「いないよ」…っ」

「サソリは…もう、いない」
「現実見ロヨ」

「………」


分かってるよ、分かってるよ、分かってるよ、分かってる、分かってるけど…!


「分かりたくなんてない!!!!!」

「カイア…」


聞き訳のない子だって思ってるんでしょ。
いいよ、それで。
でも、私は認めたくなんか………、


 ギ、ギ…ッ


「…?」


ぎこちない動きで動かされた指は壁に押さえつけられている本体を指し力尽きた。
さ、そり…さん…?何を、伝えたかったんですか…?
本体の方に近付き無理矢理封印を外した時コンと封筒の角が頭に当たる。
蠍のマークが書かれたそれは傀儡につけられるマークだった。


「…宛先は……カイアだね」
「読ンデイインジャナイカ?」

「………うん」


 カサ…、


封筒を開いた先にあった言葉はたった一つだけだった。


『最愛なる娘カイア』

「……っ」


それを裏返せば幼い私とサソリさんが一緒に写った写真で……。
私は………愛されてた。


「あのな…俺も、愛してるぜ」

「!!、はい…お父さんでもあり最愛の人でもあり旦那でもあり師匠でもあるサソリさんが僕は大好きで、愛してます」



「サソリ、さん」


 ポタ…、


「サソリさん、サソリさん、サソリさん、……っお父さん!!!」


何であの時封印を解いちゃったんだろう。
何であの時トラップを無視してでも戻ってこなかったんだろう。


 キラ、


「!」


これは……私があげた、解毒剤。


「ハ、ハハ……なぁんだ、」

「?」

「サソリさんを殺したのは、私じゃないか。解毒剤なんかあげなかったら、サソリさんは死ななかった…!」

「それは違うよ、カイア。どうせ解毒剤を作って持ってきてた」

「じゃあ、なんで?!何でサソリさんは…!!!」

「木ノ葉に殺されたんだよ。卑怯で惨い手段で」

「?!」


ひ、きょうで…むご、い……しゅ、だん?
そ、れって………。


「木ノ葉が忍界大戦の時、どさくさに紛れて闇月一族を滅ぼしたのと同じだ。木ノ葉の者にはそういう血が流れてる」
「違ウカ?違ワナイダロ?イタチノ事モソウダ」


闇月を……イタチを……。


「うちはが滅ぼされる事になった理由も余りにも一方的なものじゃない?」
「脅威ニナッタラ滅ボス、ソレガコノ世界ダ」


脅威になったら滅ぼす、か。
そっかぁ……だからナルトの事も迫害して、我愛羅くんも阻害して、S級犯罪者も殺して、"暁"を目の仇にして、サソリさんを―――殺した?


「そういえばカイアは知らないよね?君の両親を襲って父親を死に至らしめたのは―――木ノ葉の忍だよ?もうそいつは死んじゃっていないけどね」

「!!」


《どうしたい?》


闇が、囁きかける。
私に、誘いかける。


《憎くないか、木ノ葉が》

《貴様の父を殺したのが木ノ葉の連中だとしたら如何する?》

《貴様の母の一族を滅ぼしたのが木ノ葉であったら如何する?》

《地位や名誉があったばかりに、不幸な道を辿るとすれば……餓鬼、貴様は如何する?》



あの日の囁きが蘇る。


「二年前に言えなかった言葉、言ってもいいか?」

「!」

「………好きだ」

「…っ、遅いです、…バカ…先生の、バカ…!」



ごめんね、カカシさん。
この世界はあまりにも"暁"わたしたちに優しくない世界だから―――消さなきゃ。
余りにも酷いじゃないか。
木ノ葉の所為でイタチはS級犯罪者として里を追い出されて、
サソリさんは脅威になったからと卑怯で惨い手段で殺されて、
お爺ちゃんたちは木ノ葉の策謀により一族ごと抹殺されてさ、
お父さんとお母さんは木ノ葉により引き裂かれてしまった…。
このままじゃあ、皆、皆、殺されてしまう―――!!!!!


「私………」


《どうしたい?闇月の餓鬼》


私は―――!


二人の幸せがないのなら、せめて綺麗な思い出で終わらせて


堕ちる、堕ちる、堕ちる―――闇の中へ、堕ちて行く。
其処に在るのは一筋の月明かりのみ―――。



 
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