彼はどうしようもないダメ人間だ。
健康に良くない葉巻を一日に何本も吸うし、顔が真っ赤になるほど酒を飲むし、ギャンブルが好きなくせして負けっぱなしだし、それが原因で借金を抱えている。
彼はどうしようもない大人なのだ。
どうしようもない大人なのに少年のような無邪気でカラリとした笑顔を見せる。そして仕事モードに切り替わると真剣な目をして船に向き合う。
船大工であることを誇りとする彼は借金取りを撒いて今日も1番ドッグで船をつくっている。
そんな彼の仕事姿がどうしようもなくかっこよくて、私は彼を諦めきれない。
1番ドッグの扉の横からガレーラカンパニーの仕事場を眺めていたら、私の姿を見つけた彼が「レナ!」と嬉しそうに私の名前を呼んで手を振る。大きく腕全体を使って振る彼が可愛くて、その笑顔を見れば溜まっていた不満は消えていく。
結局、私も彼に惚れているのだ。
どうやら、どうしようもないのは私のほうだったのかもしれない。
私は小さく笑ってはじめて手を振り返した。私の行動に驚いた彼は口から大切な葉巻をポロリと落とした。
「パウリー! 大好き!」
そう言ったら彼はどんな反応をしてくれるだろうか。