※ちょっくらぬるい。

「……ッ、う、ア゛」
ゾクゾクと足の指先から頭の天辺まで快感の波が上がって滑稽な程に膝が笑った。卑猥な水音が鼓膜を酷く犯して湿った吐息が口唇から絶え間無く漏れ出す喉奥から吐き出される声は妖艶な嬌声とは違い苦悶の其れだ。殺してくれ、とでも懇願するように己の腹の上で腰を振る男の顔を見上げそのしなやかな背中に回した腕の爪で思い切り肉を抉ってやった。
「い、……った、」
低く、掠れて濡れた声色。憤りを見せる処か苦笑すら混じったその声に一層腰が震えた。愛しげに落とされた死んだ魚の様に鈍く光る眼球に己の顔が反射して律動に沿ってゆらゆらと揺れる。呑み込まれそうな気がして思わず双眸を逸らした。臆した事実に言い様の無い敗北感に苛まれ途端に目の奥が熱を孕み目尻には泪が滲む。筋肉と骨がぎちぎちと軋み合って関節が悲鳴を上げ自力で抜け出そうとも完全に弛みきった四肢は男のされるがままに糸が切れたソレの如くがくがくとだらしなく揺れる。もう辞めてくれ、と切羽詰まった酷く枯れた喉で懇願しようにも穿つ衝撃が声帯を潰して言葉にすら成らない。興奮した荒く生暖かい息遣い蒸れた空気に充満した汗の臭いと青臭い臭いそして目の前の男の体臭。酷い悪臭が鼻腔を刺激し充分に酸素が脳味噌に行き渡らず酸欠に見舞われ一瞬でも気を緩めたら最後、意識を手放して気絶しそうだ。いっそのこと気絶して、目が醒めたら、本当は全て悪い夢で、無かった事になれば何れ程良かった事か。
「ライナー、……ライナー、」
じっとりと吐精の後が残る腹の上に白濁以外の色が混じった、生暖かい感触がぽたぽたと上から降ってきてその出所を視線でなぞれば思わず唇を噛み締めた。何故、御前が泣くんだ。泣きたいのは此方だと言うのに。そう言って一発くらい思い切りぶん殴ってやりたいのに名前を連呼しながら一層強く穿たれ視界にちかちかと白が散った。腰がどれどろと焼き爛れそうな程熱い。中に埋め込まれた男の屹立も限界が近いせいか小刻みに痙攣しているのが粘膜を通して伝わってくる、嗚呼、畜生、そんな顔をするな。
「嫌だ、嫌だ、嫌だ。置いて行かないでよライナー、僕は君しかいないんだ、嫌だ、嫌だ嫌だ、」
しわくちゃに丸めた新聞紙の様な歪んだ表情で子供の様に懸命に首を左右に振りながら懇願する男の顔を目の前にすると怒鳴るタイミングを完全に失ったと失念する反面ほだされてしまったこの自覚がじわじわと彼の自我を殺しているのだと思うとやるせなかった。
「ベル、トルト、……――ッ゛!」
上体を浮かせ背中に回していた2つの腕を男の首に巻き付けそのまま体重を掛けて引き寄せた。その途端不覚にも悦点を抉られ四肢が大きく震えては反動で反射的に背中を逸らせた。どくりと腹の奥に注がれた白濁を搾り取るが如く屹立を締め付け男は小さく呻き、ぶるりと震える。もう何度迎えたかも分からない絶頂の余韻に酩酊感に似た目眩覚える。ぐらぐらぐらぐら。頭が茹だりそうだ。巻き付けた彼の首にぐったりとぶら下がり無理矢理視線を合わせれば、枯れて嗄れた声で低く告げた。
「……後、少しだ、故郷に、俺達の故郷に帰れる。……御前は俺が絶対に死なせない。」
乱れた呼吸を呑み込みながら力強く抱き締めてやると男は顔を肩口に寄せ嗚咽を殺すことなくしゃっくりを上げながらぼろぼろと涙を溢した。
「僕は、ライナーが、生きている限り生きるよ、でも君が死んだら、意味がない。僕は君無しじゃ生きていけない。」
途切れ途切れに言葉を紡ぐなり肩口がみるみる内に濡れて零れた雫は肌を伝って、消えた。
「ライナーがいない世界なんて意味がない、君が死んだら人類も巨人も、何もかも滅ぼして僕も死ぬ。君がいない世界で他の生き物が呼吸をしてるなんて許せない、間違ってる。だから、」
「ベルトルト」
「今すぐにでも、君に近付く憎たらしい人類共を全て食い殺して――、」
「ベルトルト!!」
狂気を孕んだ呪詛を吐き出しながらがちがちと歯を幾度も鳴らす彼の名を咆哮し強制的に遮断した。すると身体をビクつかせて直ぐ様肩口に埋めていた顔を上げて此方を向けば気を害したとでも思ったのだろう申し訳無さそうな顔をしながら眉根を下げていた。言葉を遮った本当の意味など彼は知ることなど無いのだろう。不安そうに此方を見詰め何か云いたげに口籠るそいつを目の前に深々と溜め息を吐けば、そっと鼻先に口付けを落として、強く、強く抱き締めて、耳朶に唇を寄せて囁く。
「ベルトルト、よく聞け。御前も、アニも、エレンも、ユミルもそして勿論俺も。皆で故郷に帰れば全て終わる。後、少しの辛抱だ、だから、泣くな。」
泣くな、と言ったのにも関わらずまた肩をひくりと跳ねらせながら泣き出した。仕方無いとばかりに彼の両頬を両手で包み込み額同士をくっ付けた。
「相変わらず泣き虫だな、御前は。」
慈しむように親指の腹で彼の涙を拭いながら苦笑を溢すとくしゃくしゃと毛先の柔らかい彼の黒髪を乱してやりこのまま遣り過ごせるかと油断していたも束ぬ間――――…、

途端に内臓を引き摺る感覚が襲った。

「…ア゛…ッ」
ずるずる。容赦無く内壁を割り裂き引き抜こうと蠢く杭に意識を集中させ四肢を強張らせると至極嬉しそうに声色を踊らせ男は口を開いた。
「……は、約束だよライナー。さっき言った事、忘れないで。」
そのまま引き抜かれるかと思われた屹立は先端部を食い込ませてぴたりと動きを止める。まさかまさかと嫌な予感に従って脂汗がじわりと沸き、身体全体が戦慄した。双眸を刮目させて網膜に映る彼の顔は、見馴れた、顔の、筈なのに、

「ヤメッ、……――ウ、アア゛!!」

悲鳴を最後に、目の前が真っ暗になり意識は溝に沈んだ。


(君は僕だけの戦士だ。)


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なんてガン堀されるライナーくれとると!
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