Hope ※過去作品。

(DRRR!!)

かどたとおりはら

(!)のんけかどた、ほもはら。

あいつはとても意地が悪く我儘で自由奔放で、そんな、そんな、おかしな人間で。あいつは人間が好きな人間だった。苦しんで、嘆いて、狂う。そんな人間達をあいつは心から愛していた。だが、人間から愛された事など一度もなかった。騙して、掻き回して、乱して、狂わせて、全てグチャグチャにして人間が自分に催す何かを探していた。ただ、ただ、愛されたいがために。愛を欲するばかりに、愛を知らない男は“無い物ねだり”をしたのだ。

「俺は、ただ愛したいだけなんだよ」

あいつは決まってそれを口にした。俺は何も言わなかった。哀れんだからでは無い。同情したからでもない。強いて言えば興味が無かった。それだけだった。あいつの趣味が嗜好が性癖がどうであろうと自分には関係の全く無いことだとただ相槌を打っていただけだった。きっとあいつもそれをわかっていたのだろう。俺が興味を示していないことに。だからこそ偶にやってきては下らない戯言を聞きもしない俺に言っていたのだろう。理由は簡単だ。あいつも余り自分の事に干渉される事が嫌いで、だが何か話さずにはいられない。まるで小学校から帰ってきた子供だ、と本の活字を追いな
がら思った事がある。あいつの話の内容は九割は「平和島静雄」に関する事だった。静雄とあいつは馬が合わず毎日毎日飽きずに喧嘩をしているようであいつは毎日のように体中が傷だらけで痛々しかった。治療は岸谷がやっているようだが傷を治療し終わった後ふてくされ顔で俺のもとにやって来るのは日常となっていた。
「…ったく、 早く死なないかなぁ、静ちゃん」
「お前がちょっかい出すからだろうが…」
クスクスと言う含み笑い。他愛もない会話。余りいい天気とは言えない白く濁ったような空に生暖かいような空気。すう、と息を吸ってみれば頭が冴えるような新しい空気が肺の中で循環する。その息をゆっくりと吐き出し読んでいた本を閉じた。

そんな、生温い日常に浸かっていた俺はやがて熱湯と冷水をぶちまけられるなんて事思ってもみなかった。

梅雨になった。夏休みを迎えた俺は適当に外にぶらつき休憩がてら木陰で本を読んでいたときだった。「やぁ、奇遇だねえ」と聞き慣れた声がし僅かに顰蹙する眉を隠そうと頭に巻いていたタオルを下にずらした。「酷いなぁ、そんなに邪険にすること無いじゃないか」とケラケラと渇いた笑顔を見せていたが今の俺にはバレていた事を悔や
むよりもその言葉を無視しただ黙々と活字を追っているだけだった。
「…その本、面白いかい?」
「まあまあ、な」
「あれ、君ってそういう気があったんだ?」「…なんの事だ」
不意に本を下げ目線を臨也に合わせるとそいつはにんまりと口を弧を描き子供のような無邪気な笑顔を見せた。
「嫌、この本って… 確か死刑囚と警官の男が愛し合う話じゃ無かったか、って思ってさ」
「ああ、確か内容はそんなような話だったような気がするが。それがどうかしたか?」
「……意外だなぁ、そういうものに偏見は無いんだね」
「…そういうもの?」
「同性愛だよ。同性愛」
「まあ……あんまり理解出来るものではねえが偏見はねえよ。そいつらが愛だって言うなら愛なんだろうしな。それに俺はそういうの関係なしに本のジャンルを増やしていきてえと思ってんだ」
俺は本が好きだ。というより何に拘らず面白いものが好きだった。時代劇や歴史とかそういう渋いものも好きだしそういう書物も読んだりするのが好きだった。いつも本ばかり読んでいるせいか臨也や新羅には活字中毒と言われた覚えがあるが特に気にした事は無かった。今読んでいる本も同じで臨也の言うとおりこの本は少しばかり同性
愛という同性同士が異性に抱く感情と同じようなものをもち愛し合ったり又、そんな行為をする。偏見はないとは言え理解するかどうかは別である。臨也の質問に答えた後俺はまた目線を本に戻しまた活字を追う。だがその瞬間本は臨也の手によって奪われ反射的に手を伸ばすが簡単に避けられ変わりに臨也が俺の懐へと入って来た。
「…臨也、本を返せ」
「ねえ、俺とヤってみようよ」
「…は?」
「愛の形に偏見は無いんだろう?、ならいいじゃないか。俺、ドタチンの事結構好きだし。ヤってみたら病み付きになっちゃったりして」
「馬鹿言ってねえで早く返せ」
「そんなに俺が嫌い?、いいじゃん。子供が産まれる訳でも無いんだしさぁ、」
「あのなぁ、 そういう問題じゃねえだろ…」
深い溜息を吐く。溜息を吐いても何も状況は変わらず手を自分のこめかみに当て億劫だとまた意味もなく溜息が零れる。
「…君はヤりたくない?」
「ヤりたくねえな」
「俺はヤりたい」
「その辺の女とでもヤってろ」
「酷いなぁ、いいの?、俺がその辺の女犯して子供孕ませても」
「俺には関係ねえ」
そうだ。関係のないことだ。こいつが。折原臨也が。誰とヤろうが。孕ませようが。キスしようが付き合おうが。例え、死のうが。俺にとっては関係のないことだ。一見すると冷たい奴だと非難されるかもしれないが当たり前の事だ。こいつとの関係は抱き合うのでも愛を語るのでも増してや接吻や性交をする仲でもない。ただ偶然会って、話をする。ただそれだけの単純な関係だ。好きだとか嫌いだとかそういう問題でもなくて、ただ、根本的に俺達の紐帯は学校が一緒だからという誰にでもある偶然が招いた事であって運命や必然などと浮き世めいた事の訳でもなくてただ、……−−−、
「…ごめん。こんな事言うつもりじゃなかったんだ」
「臨、也…?」
「君が俺に興味がなかった事は知っていた。だからこそ俺はそれを君の優しさだと思い込んで利用していたんだ。きっと。ごめん。ごめんよ。ドタチン」よく見ると臨也の体は微かに震えていてさっきの面影など微塵も無くなっていた。ごめん、と連呼し続ける様はとても稚拙な感じがして不思議と申し訳無い気持ちになってくる。
「…もう謝るな」
「……」
「本、返して貰うからな」
下を向いたまま動かない臨也からするりと本を抜いた。一瞬顔を上げ寂しそうな顔を見せたがまた顔を下げてしまった。
「臨也、そろそろ雨降るだろうから俺はもう帰るぞ」
「……」
「……後、な。さっきお前は俺がお前の事を嫌いだと言ったが、」
「…ッ」
「…嫌いじゃねえから安心しろ。寧ろお前といる時間は楽しかったしな」
「…あり、がとう」

最後の言葉は聞かなかった事にした。俺は臨也に背中を向け足を進めた。行く宛もなくただ歩きたいがために。どこでもいい。どこか。どこか今の複雑な気持ちを紛らわせる所へ。どこかあいつのあの顔が離れる場所へ。どこか、どこか。探しても、探しても。無数に人は流れ俺をすり抜けていく。それがどこか虚しくて、唇を軽く噛んだ。鼻先にぽつりと雫が落ちる。冷たいと感じた時にはもう遅くて雨は容赦なく地へ落ちて砕けたような音を響かせる。本が濡れるとわかっているのだが足は動かなくて、風邪を引くとわかっているのに体は動かなくて。まるで、“お前はここしか場所がない”と誰かに言われているようで。忘れることを誤魔化すことを許すまじと雨は俺に訴えているようだ。と苦笑して見せた。

ふと、脳裏に浮かんだのは

雨に濡れた、そう。

俺と同じような あいつの姿だった。

(御前も俺もどこにも行けない。)
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