(CAGE-open-)

やがさき、こんの

(!)総てを知らされた後矢ヶ崎も相庭も生きてる。紺野が後程矢ヶ崎に追求したところ。所謂ifの世界。やんでれ注意。

「御前は俺を忘れとったやないか!!!!!」
怒号が部屋全体に響き、訴える様なその声は耳を貫通して鼓膜を強く揺らした。次に言うべき言葉が出ず視線を斜め下へと下ろして申し訳なさそうに目尻を落としては口を噤んだ。その姿を見て諦めたように、又は呆れたように溜息を吐けばその苛つきを露骨にしながら無言のまま後頭部を乱暴に乱してやる。
「それは、矢ヶ崎さんが、嘘吐いてたから、」
違う。こんなの言い訳だ。分かってる。俺は矢ヶ崎さん、嫌。七川くんを忘れていた。あの誰にでも優しくて賢いフミくんの事ばかり頭にあって怖くて乱暴者な七川くんの事は、正直思い出せなかった。いつも、いつも三人で遊んでいたのに。それにあの約束はフミくんとしかしなかった。七川くんが居なかったからじゃない。理由なんて覚えてない。約束の内容は指一本一本に意味が合って親指の1は生きてること。人差し指と中指の2と3で23歳に会うこと。薬指の4は鹿羽。親指の5は紺野のこん。後は何だったか忘れたけど。鮮明に掘削されていく思い出はそこまでで後は掠れて全く思い出せない。でもあの時、全てを知ってしまった。相庭が言った全てが真実だとは些か信じがたいが実際矢ヶ崎さんは肯定していたし矢ヶ崎さんが七川くんであることは勿論、相庭がフミくんで、矢ヶ崎さん――七川くんはフミくんに御父さんを殺させて、七川くんはフミくんと俺の約束を奪って、七川くんは、七川は、七川は。呪詛の様に紡がれていくその名を俺は忘れてはいけなかったのに。俺はフミくんの事だけがただただ懐かしくて、あんな形でも会えた事が嬉しくて嬉しくて。下唇を強く噛んだ。どうして、俺は。一人葛藤する俺を余所に矢ヶ崎さんは訝しげな細い視線を此方へと送り追い討ちを掛けるように言葉を吐き捨てていった。
「……は、だから言ったやろ、1から5までは合っとる、合っとるけどな。6から8は彼奴の、相庭の住所。御前は6月8日、7で七川、9で首吊り……俺の親父が死んだ日やって思っとったみたいやけどな、……、コン、俺はな、御前を殺そうと思っとったんや。御前みてるんやもん、俺の親父が死んだとこ、……、んで、御前の親父を殺した相庭、嫌――フミくんをな。」
ごくり。嚥下した生唾は血の味がする気がした。忽ち嘔吐感が込み上げてきて思わず嘔吐きそうになった。嗚呼、ああ。思い出した。真っ黒いフミくんの姿を。血にまみれたフミくんの姿を。そして、この人は今俺になんていったんだろう。殺す?ころす?コロス?俺を?確かに俺は七川くんのおじさんが首吊りで死んでいたのを見た。そんなことも知らずに俺は言った、七川くんを苛めないで欲しい、と。それでも何も答えなかったおじさんに嫌いだ、と無責任な言葉を置いて俺は、おじさんを、結果的に見捨てた。
「頭の悪い御前の事やから忘れてるもんだと思っとったんやけどな、」

違う。

「5から先は一度白紙にしてまた思い出したらホンモノ、っていうのを御前は素直にやりよったからな、」

違う、違う、違う。

「……、せや、もう死ぬか、コン」

違う、違う、違う、違う、違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う―――――、

「そんな、約束してません、」
「……、」
「七川くんと俺は、そんな約束、」
「黙れや、」
「七川くんは、」
「黙れって言ってるやろ!!」
「黙りません!!!!」
七川くんは怖かった。すぐ怒るし殴られそうにもなったし。その反対にフミくんは誰よりも優しかった。だから俺は七川くんよりフミくんが好きだった。皆、俺も妹達も弟もそうだ。本が読むのが好きで、何でも知っていて何でも教えてくれるフミくんが大好きだった、でも、でも。俺は、貴方が、
「俺は矢ヶ崎さんが好きです」
「……、」
「矢ヶ崎さん、」
「……、」
「……俺を殺したいなら、殺せばいい」
矢ヶ崎さんの眉根がぴくりと動いた。なにか言いたそうに唇を動かすがその唇から漏れるのは言葉にもならず微かな空気が吐かれるのみで。驚いたような又は蔑んだような視線を感じながら俺は目を閉じた。正直、この人にだったら殺されてもいい。でも矢ヶ崎さんはきっと俺の事が好きなんだと思う。俺も矢ヶ崎さんが好きだ。だから矢ヶ崎さんは俺を殺したいんだと思う。でもね俺には判るよ。貴方は俺を殺して平然と生きていけるような強い人じゃない事は。もうあのゲームのせいで俺も、貴方も皆、壊れてしまったんだ。嫌、最初から?、ああもういいか。だからそれ以上壊れないように俺が貴方を一人にしないから、俺が貴方を、

一息、吐いて。

「―――その代わり、貴方は俺が連れていくんで」

(この時、俺はちゃんと笑えていただろうか。)



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