きよしとひゅうが

(!)両片想いなきひゅうちゃん。

いつかはこの手を離さなければいけない時が来ると頭の隅の方でいつも考えてはいた。だが心とは実に不思議なもので頭では理解してるものの心はその真逆で、だからオレはお前から離れられずにいる。こういうのを依存と言うのだろうか執着といってもいいかもしれない。どうしたってオレは御前がいないと駄目で何の根拠も無いけれど御前が必要で、出来ることなら一生手放したくは無い。いっそのこと閉じ込めてしまいたい。この関係にいつか終わりが来るならば自然に壊れるよりも先に、オレが関係も、御前も全て壊してそれこそ永遠にもう壊れる事の無い御前を抱いて息を殺していたいとすら思う。でも変に臆病なオレはそんなことは出来ないし何より御前の為では無いと思ってるんだ、そう。頭では。

「日向、」

何気無く彼の名を口にしてみた。すると目の前を歩いていた自分より頭一つ程小さな青年は少し不機嫌そうな、それでいて心底億劫そうな顔を浮かべながら此方へと振り向いて、なんだよ、と何が気に食わないのか地を這うような不満気な声にて返事を返した。そのなんとも怪訝そうな表情にきょとんとした呆けた面を向ければそれを見かねた彼は眉間に深い皺を刻み大きく息を吸って、吐いた。

「さっきから辛気くせー顔しやがって、オレに言いたいことあんならはっきり言えよ、」

それだけ言うとまた此方に向けていた顔を外方に向かせずかずかと大股で前へと進んでしまった。半場置いてかれた形になれば急いで彼と同じ歩幅に合わせ今度は隣で一緒に歩くようにすれば、彼の方を横目で見遣る。いつもよりも三割増し位の仏頂面だ。思わず唇を噛んだ。これはなんだろうか。何も知らないこの男への葛藤か。何も出来ない自分への葛藤か。前者か、後者か。それとも、両方か。
「言いたいことは無いな、」
「じゃあ何で俺の名前呼んだんだ、」
「……、呼んだか?、」
「呼んだ」
「……、まじで」
態と呆けた振りをした。でもそれがまた仇となってまた険しくなった彼の顔を見下ろせば苛立たしく舌打ちが打たれる。とうとう本気で彼がこんなにも荒れている原因が解らず頭上に疑問符を浮上させて首を僅かに捻れば、これは一番聞いてはならない事だろうに彼はそんなことさえ判らないほどの鈍い感性の持ち主だった為か問い掛けてしまったのである。
「なあ、何をそんな怒ってんだ?、」
その問いを境に、ぷつり、と空気が変わった。序でに言うと歩いていた足も止まった。同じ様に歩を止めれば唐突に隣から腕が伸び己の胸ぐらを掴めば一気に引き寄せられ、驚き半分の中、目の前に見えたのは自分が良く知った彼の顔では無くて、しわくちゃに丸めた新聞紙の様な、表情筋を強張らせ悔いるような目で食って掛かるか鋭利な眼孔で此方を睨み付け吐き捨てるかのように、

「やっぱ、御前は嫌いだ、」

何処か苦し気な声色で告げられたその台詞は鉛よりも重く胃を貫通して、落ちた。彼から嫌いだと言われる事は決して初めてでは無いがこの時の、彼の顔を目の前にして言われてはどうしようもなく心臓が締め付けられた。声を出そうにも喉に何かが引っ掛かって出すことが出来ない、心無しか息苦しくて下の方から競り上がってくる全てを吐き出したい衝動に駆られた。
「……、ひゅう、」
「呼ぶな、喋んな。」
漸く出た言の葉を途中で制止され胸倉を掴んでいた五つの指はゆるゆると力無く解かれ胸板を伝って、彼の方へと戻ってしまった。近過ぎた距離は段々と遠退いていき無言のまま歩き出した。その背中はいつもよりも小さくそして悲しげに見えて追ってはいけない気がして其の場から踏み出すことはどうしても出来なかった。
「…、…」
未だ彼の温もりが残る掴まれた場所を緩く撫でて、握り締めた。ごくりと喉を鳴らしながら生唾を下して気付けば片足は前に進んでいて。大股で、速足で、彼の背を追って、手を、伸ばした。



―――いいのか。オレは御前を好きになってもいいのか。御前の幸せを奪っていいのか。御前が将来、オレを忘れて、誰かと結婚して、子供が出来て、所帯を持って、そんな幸せを俺は奪っていいのか。そんな未来を壊していいのか。なあ、教えてくれよ。その後ろ髪を引いて、手を掴んで、引き寄せて、抱き締めて、それから、それから。何度駄目だと判っていても惹かれて焦がれて、気の迷いだと首を振っても消えちゃくれないんだ、御前が、

「日向、」

頬を伝うこの汗も、融けるくらいに照る日差しも、今日も空が青いのも。全部忘れて、今はただ御前と、


(××な××がしたい)



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