あにとおとうと

(!)ろいえど、にいさんに恋するある。だが、しかし大佐は出てこない。ちょっくらぬるい。

「おい……!、止めろ、って、」
声は自分の耳に届いているのに、頭の中では警笛が煩い位に鳴り響いているというのに、今まで実兄として慕ってきた目上の存在を意図も簡単に組み敷いて見下ろしている、そんな背徳的な状況に歯止めが効かなくて所為をあからさまに露呈するような彼の粟立った首筋に残った赤い痕を憎々しげに見下ろした後、自分でも何を思ったのか思い切りそこに歯を食い込ませた、びくりと面白いくらい跳ねる身体それら全てに煽られて思わず興奮で本心からの笑みが零れ、喉が鳴った。噛み付いたら次はうっすらと歯形の残ったそこを沿うように丹念に舐め上げる。
「…ッ、…アル、止めろって、なあ」
止めろ、止めろってさっきからそればっかりだね。そんな事を脳裏で思いながら首筋から舌を退いた。無意識に舌を舐めずり改めて正面から見下ろして見ると一言で言えば酷い顔だ。少し語弊があるだろうが元はもっと端正な顔をしてるのが今は眉根や口角を困り果てた様に下げ目尻には涙が滲んでいた。掴んでいる両腕は女の子まではいかないが僕より細い。幾ら抵抗されても兄さんが僕に力で勝てるわけがない。
「……これ、大佐?、」
相手の言葉を何一つ聞き入れる事なく自分が付けた歯形と赤く鬱血した痕を人差し指と中指で軽く撫でた。すると感触に身を震わせたのか、己が口にした男の名前に反応したのか兆した彼に薄く笑みを浮かべれば「やっぱり、」と冷たくそして重たい声色で頷く。ぎちり。掴んでいる腕の骨が軋む音がした。それと同時に声にならない呻き声に似た悲痛の叫びを上げる彼を無視して口許に弧を描き今度は優しい声色で言葉を紡いだ。
「怖いの?、兄さん」
小刻みに震える身体を目端に捉え揶揄するようにくすくすと笑えばす、顔を近付けた。暗闇でも判る自分と同じ少し潤んだ金色の瞳。凛々しささえ感じる目元。綺麗だ、と双眸を細めた。
「…御前が、わかんねえよ、俺」
質問には答えずに嗄れた声で返答をされれば、一度、きょとんと目を見張ればまた表情を柔和なものえと変えて、
「判らないなら解ってよ、理解できないものを追求せずに簡単に理解出来ないと言うのは兄さんらしくないよ、」
「…、この状況でよくそんなことが言えるよなあ…、」
呆れたように苦笑を溢しながら溜息を吐けば肩を竦めた。すると拍子抜けしたのか何なのか意外に飄々とした態度を取る彼に面を食らってしまえば半場正気に戻り押さえ付けていた二本の腕の力を抜き、そのまま彼の上へと倒れ込んだかと思ったら抱きすくめるかのように腕をまわして、
「……、それは、兄さんも同じだよ、」
と自虐的に呟いた。肩口へと顔を埋め鼻先をねだるように擦り寄せた。シャンプーと石鹸の香りが鼻腔を擽る。その温もりと心地よさに目蓋を下ろした。途端に目の奥が熱くなった。何も悲しくはないのに、情けなくて、どうしようもなく空しくて。鼻を啜れば嗚咽を溢さないように唇を強く、強く噛み締めた。
「…アル?、泣いてんのか?、」
心配するような声色で声を掛けられれば、泣いてない、と直ぐにでも否定を述べようと口を開く、――だが、

がばり、といきなりと自分の背中に腕が回された。

「兄、さ」
抱擁に驚きと焦りで声が裏返ってしまった。急いで身を起こそうとするが離すまじと絡められた腕が力を込める。振りほどこうと思えば直ぐにでも出来るのだがそんな気にもならず軈て諦めて素直に身を落とした。まるで母親が赤ん坊をあやすかのような動作で頭や背中を撫でる感触が迚いじらしく感じる。そんな複雑な心境な中瞳だけそちらに向かせればいつもと変わらない様子で、
「明日も早いし、寝ちまおうぜ」
と言われてしまった。言い返す言葉もなく暫し黙りこくった末、重たい口を開き声帯を震わせた。彼の名を呼ぶために、自分だけしか呼ぶことはない特別な、呼称を。
「兄さん、」

だが返事は無かった。段々と不安になりゆっくりと顔を上げてみれば実に穏やかな表情で健やかなる規則的な寝息を立てて寝ているではないか。いつの間にか眠りに付いていた兄の姿を見下ろせば流石にもう呆気に取られてしまい言葉も何もなかった。全く起きる気配のない彼の表情を暫時眺めればこんなときに零れたものは溜息ではなく苦笑する他ないようで、何とも言えないやるせなさに溜息を吐いた。ふと、首筋に映えた痕と先刻付けたくっきりと凹んだ歯形へと頬を撫でる序でに滑らせては眉根をを顰蹙させて軽く唇を噛んだ。悔やんでも悔やみきれない後悔で打ちのめされそうだだった、嫌、逸その事這い上がれないように打ちのめされた方が良かったのかも知れない。だが彼はそうしない。何時でも責める事なく受け入れてしまうのだ。そう。そうだ。今日の行為はただの八つ当たりに過ぎない。自分が良く判っている筈だった。だが何でも頭では判っているつもりでも認知する事を拒絶する自分がいて、
「……、」
兄さんはあの人が好きで、あの人も兄さんが好きで。こんな数式も方程式も要らない簡単な事なのに、
「…やっぱり、兄さんは酷いなあ、」

その声は誰に届く事なく空しく闇へと溶けていった。


(その罰は僕にはあまりにも酷過ぎた、)



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