(DKN)

よしたけとただくに、

「タダクニ、好きだ」
「…、は?」
シュールとは、「超現実、現実を超えた状態」「理屈・理論では説明が難しい状態」「奇抜さ」と言うことをいうらしい。何故行き成りこんなことを説明し出したかは二つの理由がある一つは俺の目の前にいる男は癖なのかなんなのか何かしらあると他者にとっては其処まででもないことを過剰に捉え態とらしくも取れる反応や行動をする傾向があるからだ、二つ目は今、現在進行系でそんな現実を超えた状態で、理屈・理論では到底説明できないような状態で奇抜というよりも何とも複雑な展開に局面しているからである。余りの衝撃に貧血を起こしたかのようにぐらりと前倒しになりそうな体を無理矢理利き足で止め大きく深呼吸を吸ったり吐いたりと新鮮な空気をゆっくりと肺で循環させる。
「…シュールだな」
「お前が言うのかよ!、」
誰のせいだ、と許りに声を張り上げるが。何のことだと心底不思議そうな顔を向けてくるので呆れて次ぐ言葉が出てこない。先程まで醸し出されていた複雑な空気は此の男の発言により霧散されていったわけだが何だか此方にしてみれば大変割に合わない。そんなことさえ億劫になり肩を竦めて背後にあった取っ手へと腕を掛ければ凭れるような体制を取り若干薄めになりながら相手を見据えて変に渇いた喉から声を搾り出した。
「御前ホモだったのか?、」
「そんなわけねーだろ、」
「あのよ、俺男なんだけど?、」
「?、其れがどうかしたか?、」
この男の事について補足する事項が増えた。此の男は破滅的な或意味天才的な馬鹿だ。過去に自分の胸毛を剃るがために剃刀で乳首ごと剃り落としたり仲間の為にと態と妹のパンツを頭に被ったりともう言ってしまえばただの馬鹿である。今の会話でも話が通じていない。そもそも今自分たちがしている事が会話なのかさえも危ういところだ。こうなると変に話が拗れて予想だにしない結末が待っていることだろう。そんなことは死んでも嫌だと必死に首を振れば亦大きく息を吸い込み二酸化炭素を吐き出すと共に詞も吐きだした。
「…御前、本当に俺が好きなのかよ」
「ああ、」
「何でだよ」
「そんなもん好きだからに決まってんだろ」
支離滅裂なのにも関わらず自信満々に胸を張って鼻を鳴らす相手にもう真剣に会話を試みようとしている自分が可哀想通り越して馬鹿馬鹿しくもなってくる。眉間に寄った皺を解すように隻手を眉間に置いて深々と溜息吐けば何時しか悶悶と、「先ほど言った言葉を忘れているか或いは意味を理解していないか」や「それとも此奴にはこんな事普通のことであって俺の方が過剰に捉えて意識しすぎなだけではないか」や「男子校にいる人間は何時しか自然と同性に好意を抱いたような錯覚を覚えてしまうのは当たり前のことではないのか」等と差ほど良くもない頭で施行を低回させていた。暫時ぐるぐると考えていたがこんなことを考えていたら気狂いしてしまいそうだと頭を抱えた。上目で相手を一瞥してみる、いつもと変わらない何を考えてるのか今一掴めない真顔と言うべきか無表情というべきかそんな見慣れた友人の顔がそこにあった。
「友愛って奴か」
「…ヒデノリにも抱いたことねえな」
「ヒデノリの事も好きなのか?」
「…彼奴はダチとしてはいい奴だがそういう風に見たことはねーよ、」
「じゃああれか、本当は何かの罰ゲームでヒデノリの奴がどっかで覗いてるとか…」
「罰ゲームでもなんでもねえって、つかヒデノリの奴は今田舎の方に行ってるじゃねーかよ、」
「…、そういえばそうだったな」
然して長い沈黙。もう誰でもいいから助けてくれ。モトハルでも名古さんでももうそこらへんにいるおっさんでも誰でもいい。誰か此の空気をぶち壊してくれえええ。嗚呼、あの凸面鏡に写った彼女は今頃何してんのかな…。
「タダクニ、今直ぐに振るなり何なりしてくれねーかな、」
痺れを切らしたであろう男が詞を発した事によって凸面鏡に写ったあの無邪気に笑う美少女は跡形もなく消え自分は再び現実へ引き戻されたという結果になる。閉じていた瞼をゆっくりと開けばいつのまにか男は目前まで迫っていて思わず後ろに後ずさってしまった。
「…何、だよ」
「答え、」
「は?、」
「どうなんだって、」
「…、どうって、」
「タダクニ、」
「…………考えさせてくれよ、」
「…わかった、」

俺は逃げるようにその場を後にした。

違う、実際に俺はその場から逃げた。全力疾走で家に帰って、馬鹿みたいに心臓鳴らしながら馬鹿みたいに肩を上下させながら馬鹿みたいに頬に額にと汗を伝わせながら。本当ならあの場で答えなど直ぐ出せたのに、俺は言わなかった。どっちにしろ俺たちの関係が壊れそうで怖かったからだ。

「馬鹿野郎、」

そう、小さく吐き出すことしかできなかった。



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