(HTF)

英雄と軍人、

(!)一部流血表現や暴力表現有、

彼奴は唯の偽善者だ。だが己の証言を信じる奴など殆どいないだろう。違う。そうじゃない。もう証言する人間も信じる人間も信じない人間も誰一人存在しない。辺りを見渡すと地面には夥しい程の死体が無造作に転がっている。土や岩などにこびり着いた血や臓器は噎せ返るような生臭いを発して見ているだけでも嘔吐感が込み上げてくる。見渡す限りの死体、死体、死体。常人ならば気が可笑しくなっても過言ではないそんな場所で一人の男は口端を大きく歪め鮫のような獰猛な歯を見せながら狂ったように笑っていた。
「出てこいよ、偽善者野郎ぶっ殺してやるからよお…、」
軍人服を身に纏い双眸をギラギラとさせ隻手に握り込んだ刃を振り下ろしながら空に叫ぶ。息を荒くさせ横暴に地面に転がった死体を踏み付けながら足を進めていけば木の後ろから人影が見える。其の影を見ればさらに口元を歪めて走り出す。素早く影へと回り込みその影を捕えれば一瞬の迷いもなく切りつける。飛び散った血液を浴びながら恍惚とした表情を浮かべるがその表情は直ぐに違うものへと変わった。
「…、っち、身代わりかよ」
「嗚呼、…何てことをしているんだ君は…!、」
「だったら手前が切られてりゃよかっただろうが…っよ!、」
小気味よく舌打ち鳴らせば切りつけた死体をその場に投げ捨て姿を現した相手を切り掛る。だが振り下ろした刃の先には何もなくそのまま体制を大きく倒し落ちる。
「ははっ、どん臭いなあ君は、転んじゃったのかい?、」
地面に体を寝かせ僅かに顔をあげれば目の前には飄飄とした態度で手を差し伸ばす全身青いタイツで身を包み目元を赤い布で覆った男が一人。
「うる、せえ…!、ぶっ殺す!、」
差し出された手を振り払い握っていた刃で切りつけようとしたがその手には刃は握り込まれておらず抵抗も虚しく風を切ればそのまま踏みつけられぐりぐりと地面に押し付けられる。痛みに顔を歪めれば顔を突っ伏させ上目で相手を睨み付けた。
「落ち着きなよ軍人君、もう怖くないよ。もう誰も殺さなくてもいいんだ」
「…っるせえ、…恐れ何かねえ、“俺等”は殺される前に殺すのがモットーであり使命だ、」
「…使命、か。でも此処は戦場じゃないし自分が殺される心配もないよ。…それに、君の仲間はもういないよ?、」
笑顔の侭宥めるように言う男に対し平伏す男は視線を下げ静かに怒りで身を震わせて唇を噛みうっすらと血を滲ませる。地面にこびり着いた血の腥さと額に滲む汗、全てが煩わしい。全てを殺したいという衝動。殺されるという恐怖。殺した時の達成感、そして全てにおける快楽。生唾をごくりと飲み込めば口に滲んだ血を吐き捨て苦渋に歪ませていた表情を狂喜とした表情に変え片方の空いていた腕で其の足を思い切り殴り付けた。だが其の攻撃は当たらず男は軽やかに宙返りし地面に降り立つ。
「…、ちょこまか逃げやがって、」
「君が愛を持って俺を殴るというのなら甘んじてうけるよ?、悪人の愛情を受ける英雄なんて僕くらいだよね、違うな僕は英雄として君が好きなのではなく僕として君がすきなのかもしれ…、はっ。ということは君と僕が結ばれればハッピーエンドとして終わるんじゃないか…!、よし軍人君。今から僕と結婚し…っぐふ、」
だらだらと持論を続ける男に対し腹に一撃を食らわせればそのまま後ろに倒れ込む。
「…、馬鹿なこと言ってんじゃねえよ、頭沸いてんのか」
肩で息をしながら倒れ込んだ男を見下ろせば地面に落ちた刃を広いそのまま振り下ろす。だがその先は地面に突き刺さるだけで刃が血に染まることはなかった。
「いいパンチだね軍人君。その拳を正義の為に振り下ろすべきだと思うよ。無論そのナイフ捌きもね、」
と後頭部を人差し指で軽くつつかれた。
「…ってめ、」
直ぐ様後ろを振り返れば刃を掴んでいた隻手を引かれ咄嗟に顎を掴まれていた。突然のことに双眸を白黒とさせていればその内に相手の顔が迫っていて、額に、あの青い髪が、掛かって、それで、それでそれでそれでそれでそれで、――、

唇、に、―――、

















「…―あ、あああ、あああああああああああああ、ああ、ああああああ、!!!!!!!、」
「え、ぐ、軍人君…?!、」
劈くような雄叫びを上げればそのまま意識暗転した。薄れゆく意識の中であの憎たらしい男が俺を抱えて唇を動かして何かを言っているのは分かった。だが内容まではわからない。自分は読心術などわからない。そんなことよりも、この、

優しく微笑み掛ける此奴の顔を今すぐにでも潰してやりたいと思った。


(此の世界で御前は何を救おうというのか)


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