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「クーラーウード! またどこかへ行くの?」


ティファは、ごく自然に話しかけようと努めていたが、その表情はどこか心配そうで。


「ああ……」


しかし、クラウドはそんなティファとまともに目を合わすことなく、そのまま部屋を後にした。




あの、メテオ事件が終わってもう3ヵ月。この星が負った傷は想像以上に深かったものの、ようやくティファ達は平凡な日々を取り戻しつつあった。
笑うことが少なくなってしまったマリンやバレットも、最近ようやく笑うようになってきた。
しかしそんな中でクラウドは、逆に前よりも表情を表に出すことが無くなった。
しかも、ここ1ヶ月前からクラウドはたった1人でどこかへ行くことが増えたのだ。


「クラウド……どうしちゃったんだろう……」


クラウドが出て行き、1人になったその部屋でティファはため息をついた。




禁じられた遊び




右手に白い花を、左手に小さなロザリオを持って、クラウドはその場所に立っていた。ミッドがルから少し離れた小さな村。その村のはずれにある草原。
その真ん中にそびえ立つ1本の木の根元には、たくさんの同じような花と、それと同じ数だけあるロザリオ。


「ノエル……」


そう、その場所はクラウドの親友であり、英雄となった男のものでも、星の危機を救うために自らの命を捧げた女のものでもない。
もう1人の人間が眠る場所だった。




*




あれは、まだ己がアバランチとして仕事を行うよりも前。
そう、まだ「なんでも屋」という仕事自体を始めたばかりの時。


「え? 友達……?」


「そうです……お嬢様は幼い頃にとある事情で呪いにかかりまして……後、数週間の命なのです。しかし呪いを恐れてか、住人は皆、お嬢様とは関わろうとはしないのです……」


「だからせめて最期の時ぐらいは、友人と過ごしてほしいものです……」と、老いた執事が静かに語る。


変な依頼だ。友達として接する仕事なんて。
一応、「なんでも屋」の仕事はなんでもするのだろうが、今まで「元ソルジャー」という事を宣伝にしていたからか、仕事は農場を荒らすモンスターの退治など、戦いものが多かった。
当然仕事は命を失うかもしれないというリスクを背負いつつも、たった1人でこなすことになったが、人と接することがあまり好きではないクラウドにとってはむしろそれは嬉しい話だった。
ただ、今回の依頼は違う。クラウドの命が失われる危険は全くない。しかし、目の前で1人の命が失われる瞬間を見なくてはならない。しかも、それまでその人と接していかなければならないなんて。


……断ろうか?一瞬その言葉がクラウドの頭をよぎる。
別に今、クラウドはそこまでお金には困ってはいない。他の仕事もだって、待っていればすぐに入ってくるはずだ。
したがってこの依頼を受けなければならないという義務はない――そう思い、「興味ないね」といつものようにあしらおうと思った時だった。


「どうかお願いします……あなた以外に頼める人が他には誰もいないのです……」


電話越しに聞こえる声は、かなり震えていた。
その言葉に、クラウドは断りきれずに、思わず「分かりました」と返してしまった。


「ありがとうございます……」


そう言った執事はどこか、嬉しそうな感じがした。




*




それから数日後、クラウドは依頼のあった村に来た。
「到着した」と言うことを電話で知らせ、その家へと向かおうとすると「今、お嬢様は家にはいない」という事を告げられた。
執事の話によればその「お嬢様」とやらは、村のはずれにいるらしい。


「てっきり、もう弱ってるかと思ったけど」


仕方なく、クラウドはそこへ足を運ぶことにした。




村のはずれには広い草原がひろがっていた。とても美しい緑色の海。そしてその中心にぽつんと立っている1本の木。
その木のすぐそばに、その人はいた。


「……だれなの?」


クラウドが近づくと、彼女はそう話しかけてきた。とても綺麗で元気なな娘だった。あと、数週間でこの世を去ってしまうなんて到底見えない。
その返答にクラウドは一瞬迷った。しかし、迷ったところで結論などでるはずもなく。


「俺は……君の友達だ」


自分自身、どこかで聞いたことのあるようなセリフと同じようなことを言ってしまった。
言った後に、さすがに見ず知らずの他人からいきなり「友達だ」などといわれてもな……と少し後悔していたが。


「よかった……私のこと、嫌いじゃないんだね……私はノエルっていうの! お兄さんの名前は?」


ノエルと名乗ったその娘は、何も疑うことなくクラウドに微笑む。


「クラウドだ……」


その表情を見て、思わずクラウドの顔にも笑みが浮かんだ。
ふと、クラウドが娘に目を落とすと、娘の首にはそれには似つかわしくない、黒い紋章が刻まれていた。




初めはこの仕事を引き受けては見たものの、消極的だったクラウド。
けれど日が経つにつれていつの間にかそんな気持ちは消えうせていて、ノエルとよく遊ぶようになった。遊びといっても、ただトランプのポーカーなどのゲームではない。ただ、あの草原で花を摘み、そして流れる雲を眺めるといったことだった。


「あの木……何なんだ?」


草原の真ん中に立つその木。ノエルは毎日ここに来る。白い花と、ロザリオを持って。そしていつもそれを木の根元に置いていくのだ。
もちろん、クラウドがここに来てからもずっと。


「あれはね、目印なの」


ノエルは、そこに今まで置いたロザリオの束をまとめながら言った。


「お母様が出かけるとき、ここで私と約束したの」
「どうしてそんなにたくさんのロザリオを?」


クラウドは、その様子をただじっと見つめていた。


「お母様が言ってくれたの。『このロザリオを1000本置いたときに、またお母様に会える』って」


「だから、楽しみなんだー」と、ノエルは笑う。そして、今度はその花を枯れてしまった花と取替え始めた。
クラウドは驚いた。おそらくその『1000本目を置いた日』こそ、ノエルが永久の眠りにつく日だろう。それなのに、彼女は母が言ったその言葉の真意を知らない。
それにそこに置いてあるロザリオの数は、かなりの量だった。


「そのロザリオは何本目?」
「うーん……999本目だよ。だから明日でまたお母様と会えるんだ!」


そう言ったノエルの首の紋章は、今にも顔に届きそうなくらいにまで広がっていた。
「明日が本当に楽しみ」と言うノエルにクラウドはどういう顔をすれば良いのか分からなかった。






しかし、ノエルが1000本目のロザリオをその木に置くことは無かった。




正確には『1000本目のロザリオを置く日が訪れたとき』がその呪いのタイムリミットだった。




その日の朝、クラウドがいつものようにノエルの家に向かうと、中から出てきたのはノエルではなく、あの執事だった。


「……ノエルは?」


クラウドのそう質問しても、執事は答えずただ俯いているだけ。
その様子に、かなり嫌な予感がする。
そうでないことを心の中で必死に祈りつつ、無言のまま執事と共にノエルの部屋に行くと、非情にもその予感は当たってしまった。
ノエルは、そのベットの上で眠っていた。とても幸せそうな顔をして。


「ノエル!!」


クラウドは彼女の名前を呼んだ。何度も何度も。
けれどもノエルの眠りが醒めることは、二度と無かった。


「クラウド様……少しお話しておきたいことがあるのです」


執事がその重々しい空気の中、静かに口を開く。
そこでクラウドは初めて執事から彼女についての真実を聞かされた。


ノエルの呪いは彼女の両親が金に困った末、ある組織に頼み込んだときの交換条件だったこと。


その後、両親は彼女を置いてある日突然消えたということ。


それなのにノエルは両親が己を捨てたことも知らず、毎日両親を待ち続けていたということ。


それを聞いたクラウドの頬には、自然と涙が流れていた。
自分が泣いてしまうなんて――クラウドはそう思った。しかも、数週間前に出会ったばかりの人に対して。
出会った時からいずれ死ぬ運命にあったノエル。それは十分に分かっている。だから泣くなんて事はありえないと思っていた。


しかし、実際には次から次に涙が零れてきて。
それを止める術はクラウドには分からなかった。


ベッドの横にあるサイドテーブルには、今日その木に持って行くはずだったロザリオと白い花が、朝日を浴びて輝いていた。




*




「ごめん……」


メテオ事件のせいと言ってしまえば言い訳になってしまうが、自分は不覚にもノエルの死を忘れかけていた。
それはクラウドにとっては、とても重大で残酷な罪。


「謝ったところで許してもらえるとは思っていないが……」


クラウドはそれを静かにその場所へ置いた。


「これからは、ちゃんと遊びに来るから……」




十字架立てて 花をかざり
二人きりで 遊んだ日の
忘れられぬ あの想い出
胸にひそめて




End








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