「私はあなたを食べる事しか出来ない」
蛇はそう言うと愛おしそうに鳥に寄り添いました。
「私はあなたに食べられる事しか出来ない」
鳥もまたそう言うと蛇に愛おしそうに口づけました。
蛇と鳥は愛し合っていました。
お互いを愛して愛して愛して、蛇は鳥を食べるくらいなら飢え死にした方がマシで、鳥は蛇と離れるくらいなら食べられてしまう方がマシな程に。
蛇と鳥は二人だけの秘密の場所でひっそりと一緒に暮らしていました。
蛇は鳥が他の蛇に食べられてしまわないように。
鳥は蛇が他の鳥を食べる事で苦しまなくていいように。
蛇は鳥の為に他の鳥を食べる事を止め、鳥は蛇の為に家族と仲間を捨てました。
蛇も鳥もお互いの為にたくさんのものを犠牲にして添い遂げました。
それでも所詮蛇は蛇、鳥は鳥。
蛇は鼠を食べてもカエルを食べても、お腹がすけば鳥を食べたくなります。
鳥は蛇が本当は鳥を食べたい事を知っています。けれど食べたく無い事も知っています。
鳥は鳥が鳥である事、蛇が蛇である事で蛇が苦しんでいる事に苦しんでいました。
蛇は蛇が蛇である事、鳥が鳥である事で鳥が悲しんでいる事に悲しんでいました。
「私はいつかあなたを食べてしまうかも知れない」
蛇は言いました。
「私があなたに食べられるなら良かったのに」
蛇はそう続けながら鳥を強く締め上げるように鳥を包容ました。
「私はいつかあなたに食べられてしまうかも知れない」
鳥はそう言いました。
「私があなたを食べてしまえたなら良かったのに」
鳥はそう続けながら蛇の包容を受け入れました。
端から見れば捕食者が獲物を捕まえているようにしか見えないその光景は、しかし蛇と鳥にとっては精一杯の愛の形でした。
絡み合いも連れ合うように結び合う雌雄の蛇。空を並んで飛ぶつがいの鳥。
蛇と鳥はそれらを美しくも眩しいと思いながらも、羨ましいとは思いませんでした。
蛇は蛇、鳥は鳥。
それでも今日も、明日も、明後日も、蛇と鳥は互いの苦しみを苦しみ互いの悲しみを悲しみながら、互いを愛し慈しみながら暮らしていきます。
「私はあなたを決して食べない」
鳥を締め付けながら蛇は言いました。
「私はあなたに決して食べられない」
蛇に締め付けられながら鳥は言いました。
蛇と鳥は愛し合っていました。
一匹と一羽は優しくお互いを見つめ合い、慈しみ合うような、穏やかで優しい口づけを交わしました。