〜これが本当の『可愛いは正義』〜


 なにコレ可愛い。
 遅めの昼食の片付けを終え、「次の仕事だ」と案内されて来た小屋の中には・・・ヤギさんとウサギさん。

 「ラビちゃんにケロちゃんだ」

 ラビちゃん?ラビットのラビなの?何故戦国時代に外来語?しかも英語だし。確かまだ英語圏と国交無くね?あとヤギなのにケロってどこから?―――とか色々突っ込みたいけど・・・そんな事どうでも良くなるくらい・・・可愛いッ!!!
 しかしワイルドイケメン兄貴な大木さんがこんなファンシーな生き物を飼っていらしたというのには少々びっくりだ。
 牛とか馬とかならまだありそうな気はするけど、ヤギはまだともかくウサギさんとは・・・。

 「ワシが畑仕事をしとる間、お前さんには家の中の事とこいつらの世話をしてもらいたい」
 「え!?」

 家の中の事ってまだ料理くらいしか出来ないし、動物の世話だってウサギの世話は飼育当番でやった事あるけど小屋掃除して餌あげるくらいしかやったことないし、ヤギの世話なんか何していいかなんて全然わかんないんですけど。

 「なんだ、動物は苦手か?」

 慌てる私に大木さんは意外そうな顔で問う。

 「いやいや、そう言う事ではなくて!私まだ料理だって大木さんに手伝ってもらってやっと作れた所なのに、家の中の事とか動物の世話とか全然未知の領域ですよ!?」
 「ガハハ!そんなもんやっとるうちに覚える!どこんじょーだ!・・・まぁ始めのうちはワシも手伝ってやるから安心しろ!」

 手伝っていただけるのはありがたいんだけどそういうのってド根性でどうにかなるものなのかなって不安なんですけど。
 私のそんな不安を知ってか知らずか―――いや、仮に知っててもきっとこの人、そういうの関係無いタイプの人だ絶対―――拳を高々と掲げでかい声で「どこんじょー!」を繰り返す大木さんに若干の頭痛を覚えた。
 しかしながら拾っていただいた上、居候させていただいている身分。「やれ」と言われた事は出来るようになるしか無い。

 「どこんじょー!!!」
 「・・・どこんじょーう・・・」

 青々とすんだ午後の空。若干あきらめを含んだ私の声が大木さんの声に重なった。





 小屋の掃除は思ったよりずっと楽だった。
 普段から奇麗にしてあるようで新しいフンや抜け落ちた毛などが所々にある程度で、汚かった学校の飼育小屋とは大違いだ。

 「あんた達、可愛がられてるんだね」

 水入れの水を新しい水に換え、掃除の間、小屋の隅の方で大人しくしてくれていたラビちゃんをなでなでする。
 あ・・・あったかい・・・!もふもふや・・・!
 平成の世の室内飼いウサギのようにブラッシングでもしているのか、ラビちゃんの毛並みは高級ラビットファーのようだった。
 たまらず何度もなでなでしていると後ろから大木さんが覗き込んで来た。か・・・顔近い!顔近い!

 「おお!ラビちゃんが早速懐くとは!やはりワシの目に狂いは無かったようだな!」

 大木さんが相変わらずでかい声で笑う。それ、耳元だとちょっと辛いかも・・・。

 「え、いや、そんな。ただ大人しいだけじゃないんですか?ウサギってだいたい大人しいじゃないですか」

 謙遜・・・っていうかそんな過大評価されても困るので思ったままそう口にした。
 飼育当番時代、チャボは軽くトラウマになるくらい凶暴だった覚えがあるけど、凶暴なウサギなんて見た事無いし。

 「いやいや、ラビちゃんはこう見えて結構な人見知りでな!気に入った人間以外にベタベタと触られるのは好まんのだ」
 「へぇ、そうなんですか・・・」

 先に言えや。不用意に撫でちゃって怖がらせちゃったり嫌われちゃったらショックじゃないか。私が。
 くりくり目のピュアハートな動物さんに嫌われるなんて私のおぼろ豆腐並のメンタルが更に崩れて豆乳鍋並みになってしまうではないか。
 ・・・と、まあそんな失礼な事は口に出さないが―――顔を手に擦り寄せるように自分から撫でられに来るラビちゃんを見るに、確かに好いてくれているような手応えを感じる。というか胸キュン。アニマルテラピー胸キュン過ぎる。これがキュン死か。

 「焼けるのぅ。ラビちゃん、湊ばかりでなくわしにもなでなでさせてくれぃ」

 おどけながら拗ねたような事を言い、私の横でラビちゃんを撫で始める大木さん。
 やめて。可愛く拗ねるワイルドイケメン兄貴と胸キュンアニマルのコンボとか本当に死んじゃうからやめて。しかも今さり気なく名前で呼ばれたし。あんた天然タラシか。
 




 「めぇ〜」

 私がラビちゃんと大木さんで心臓を過活動させている所に、小屋の外に出していたケロちゃんが「私も撫でて」と言わんばかりに近づいて来た。
 ふわっふわや!最高級カシミアセーターや!
 すりすりと私の手に触れたケロちゃんの毛並みは、ユニ◯ロのカシミアセーターなどアクリルの合ポリ地とかと大差ないのではないのかと思わせる程、柔らかくなめらかだった。

 「おお、ケロちゃん!お前も湊が気に入ったか!そうだろうそうだろう!何せこいつはワシが拾って来たやつだからな!」

 私は捨て猫か捨て犬か。誉められているのか失礼なのか良くわからない発言への反応に困る。大木さんは全体的にそうだから冗談じゃなく困る。
 ・・・いや、まあこの場合拾われたのは事実ではあるのだけれども、もう少し言い方がね?・・・って大木さんにそういうのを求めても無駄か。

 「ほれ、何をぼーっとしとる。ケロちゃんが撫でて欲しがっとるぞ。撫でてやれ」

 大木さんがラビちゃんを撫でながら顎先でケロちゃんの方を指してみせる。
 大木さんに促されるように、私の手に鼻をこすりつけてくるケロちゃんの額辺りをそっと撫でる。
 するとケロちゃんも気持ち良さそうに目を細め、「もっともっと」と言うように自分から身体を擦り寄せて来た。
 可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。なにこれホント可愛い。
 生き物の暖かい体温を帯びた体毛が柔らかく私を包み込む。
 ケロちゃんの身体は、今まで来たどんなセーターやマフラーなどや毛皮製品よりも遥かに心地良かった。


 


 ラビちゃんとケロちゃんをなでなでしまくった後は餌やりタイムで、大木さんの畑で作っている野菜や干し草などをあげる。
 小屋の掃除はちょっとした仕事かも知れないけれど、胸キュンアニマルズとの戯れタイムなんて仕事どころか癒しでしか無いんですけど。





 掃除道具や餌の場所、あげ方などを大木さんに一緒に作業しながら教えてもらい、本日の作業は終了。
 後はまた大木さん宅へ帰って晩ご飯の準備である。
 水道も無いしコンロも炊飯器も無いからご飯一食作るのにも結構な時間のかかる一苦労だけれど・・・なんだか今、凄く楽しいかも。






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