〜誰かとご飯は心の洗濯〜


 お昼ご飯を作った。
 お昼というには結構遅くなってしまったけれど、竃や飯釜の使い方とか火の起こし方とか、井戸で水を汲んで来たりとか大木さんに教えてもらったり手伝ってもらったりしながらやっとやっと出来たお膳だった。
 朝早くから朝ご飯を用意してもらったり、畑仕事したりで忙しかった筈なのに、本当に大変申し訳なくて頭が下がる。
 因みにずっと大木雅之助氏と御呼びしていたら「長いし畏まって面倒くさい!大木で良い!」と怒られてしまったので大木さんと御呼びする事になった。
 「別に名前でも構わんぞ」と言われたけれど流石に会ったばかりの、しかもこんなにお世話になってる人相手にそんな馴れ馴れしくは出来ない。
 ていうか学生時代の同級生くらいしか男性を名前で呼んだ覚えのない私にはハードル高過ぎる。
 ・・・しかも昨日は腕の中でボロ泣きしながらいつの間にか眠ってしまったのだ。この心のもやもやは吊り橋効果的なものであろうとはいえ、そんな心情を抱いてる相手を名前呼びとか気恥ずかし過ぎる。
 



 「なんだ、美味いじゃないか!」

 ご飯炊いたりとかは器具の使い方などは教えてもらいながらかなり大木さんにやっていただいたのだが、食材の下ごしらえや味付けは殆ど私がやったのだ。
 出汁とかまで一からとったりするのはかなり久しぶりではあったけれど、伊達に飲食業を何年も続けては居ない。味覚にも味付けにも結構自身はあったけれどもやはり色々慣れなくて不安はあったので、誉めてもらえてホッとした。

 「ありがとうございます!良かった、お口に合って!」
 「飯が炊けんどころか井戸水の汲み方さえわからんようでは、最初はどうなる事かと思ったがな!」

 だははと大口をあけて笑う大木さん。うん。教えてもらいながら、だいぶ自分がアレだった自覚はありますごめんなさい。 

 「大木さんが色々教えてくださったお陰ですよ。色々お忙しいのにありがとうございます!」
 「何にも出来んのではこの先が思いやられるからな!だが釜も使えんし火も起こせんのに味付けは美味いというのは不思議なヤツだな!」

 『この先』、というのは私は大木さん家の飯炊き係となるという事であろうか。
 大木さんの言葉に、慣れない作業に夢中になる事で忘れていた現実を思い出させられる。
 どうもタイムスリップだかなんだか的なものをしてしまったらしい私は、勿論戦国時代らしい今の時代に行く当てなど無いし、元の時代に帰ろうにも戻る方法もわからない。
 かと言って「自分は未来から来たので行く場所も帰る場所もありません」とかも、100%異常者か不審者扱いされるだろうから言うわけにもいかず・・・。
 今はこうして「なにか事情があるのだろう」的な大人の配慮なのか、何も聞かず、言わずいてくれる大木さんのご好意に甘えてしまっているが、いつまでもそういうわけにもいくまい。
 何をどう言うべきか、何を言わざるべきか。


 
 「食わんのか?」
 「あ、いや。・・・いただきます」

 暫く無言でご飯を食べる時間が続く。
 ・・・なんて言うか、この不自然な沈黙は絶対気遣われてる。
 大木さんは私の事、どう言う事情だと思ってるんだろう?
 まさかタイムスリップして来た未来人とかは普通考えないだろうしなぁ・・・。っていうかこの時代にタイムスリップ的な概念とか発想があるのかすら謎だし。
 あり得そうな話としたら村が戦で焼けちゃってその生き残りとか・・・にしちゃ格好がなぁ。あとそれだと炊事洗濯何も出来んってのもおかしいし。
 やっぱりどっかのお嬢さんが家を抜け出して来たとかかな?でもそれじゃぁ昨日ボロ泣きした理由がわかんないか・・・。
 色々と考えながらご飯を食べていると―――

 「別にお前の事情を説明しようとか、そんなことせんでもかまわん。行く所が無いなら見つかるまで居ても良い。見つからんでも別に追い出しゃせんから安心してちゃんと飯食え」

 私そんなに態度に出てましたか。それとも大木さんは読心術の使い手なのだろうか。

 「あの・・・でも、私、どこの誰かもわからない変な格好の怪しいヤツじゃないです?そんなのホイホイ家に置いちゃっていいんですか?もしかしたら凶悪な犯罪者とかかもしれないのに・・・」
 「自慢じゃないがワシは人を見る目はそれなりにあるつもりだ。昨日今日お前さんを見とって、嘘をついたり、何か狙いがあって演技をしとるようには見えんかったからな。・・・しかしお前さん、普通自分でそういう事言うか?」

 そう言うと大木さんはちょっと呆れたように笑った。
 ヤバい。また泣きそう。っていうか今度こそ本当に惚れそう。貴方男前過ぎるだろう!

 「ほれほれ!わかったらちゃんと味わってとっとと食え!まだまだやる事はあるんだからな!」

 いつの間にかすっかりご飯を食べ終えていた大木さん。
 貴方こそちゃんと味わったの・・・?と、いうツッコミは置いておいて私も急ぎめで残りのご飯を平らげた。
 

 やることかぁ。
 次のお仕事、なんだろうなぁ。





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