〜安眠はラッキョウの香り〜


 電気製品が無え。給湯設備が無え。いやむしろ水道が無えよ。
 オラこんな村〜嫌だ〜・・・って吉幾三かよッッッ!!!
 




 「どうした?そんな所にぼーっと突っ立って」

 命の恩人のワイルドイケメン兄貴・・・もとい、大木雅之助氏は田舎を通り越して古代か秘境みたいな家の中を極当たり前のようにドカりと土間縁に腰を下ろした。
 迷って行き倒れていた所を拾われ、案内されたのは江戸時代より古そうな造りの住居であった。
 「どうやって暮らしてるんだこの人は」とか本気で頭の中が?マークで埋め尽くされた。
 もしかしてここは白川郷かな?あれ?私いつ岐阜県に来たんだっけ?それとも私タイムスリップでもしちゃったの?いやいやそんなバナナ・・・とか言ってるバヤイではない。

 「えーと、あのぉ・・・保護していただいた所をなんなんですが、この辺のもの何一つ使い方が一切わからないんですが。あ。それと予約してる宿に連絡入れないといけないので電話をお借りしたいんですが・・・」
 「でんわ?よくわからんがこの辺に宿なんぞ無いぞ」
 「は?」

 電話を知らない・・・だと?っていうか宿無いって私本当に何時間歩いて来たの?
 いやいや、なんかいよいよ本格的に頭の中が色々混乱して来た。
 それになんかいつの間にか私此処に居る事になってるし。
 家の中のものとか、時代劇とかでちょっと見た事あるけど使い方なんか全然わからない。
 無人島生活ならまだどうしたら良いのかとかは何となくはわかるけど。テレビの企画とかでよくやってるから。「捕ったどー!」とかすればいいんだなって。
 しかし台所?多分かまど的なものとか瓶的なものとか石造りのシンク的なものとか・・・逆にわからん。
 どうやって使うの?ていうか此処はどれだけ時代錯誤なの?

 「あ!わかった!ここはなんかのロケ地だな!」
 「ろけち?なんじゃそりゃ」
 「じゃあドッキリだ!カメラはどこだ〜っ!?ちゃんとメイクしておけば良かったぁ〜!」

 見た目は子供、頭脳は大人・・・じゃなくて高校生だろ!って感じの某名探偵の如くの名推理だと思ったが、どうやら私は麻酔銃で寝かされてるオッサンの方だったみたいだ。
 大木雅之助氏がものすごく「大丈夫かこいつ」的な顔をされていらっしゃる。

 「何を言っとるのかよくわからんが、本当に何にもわからんのか?お前さんどっかの大店のお嬢さんかなんかか?」

 「そんな雰囲気じゃないがなぁ」とか失礼な一言を抜かす大木雅之助氏。余計ですそれ。いや、そんなガラじゃないのは重々承知の上ですけど!
 色々と現実的な思考を試みてなんとか落ち着きを保とうとして来た私だったがなんだかやっぱり嫌な予感しかしない。
 本当はすっごく確認したく無い。したくないけどしないとなんかこれ以上進まない気がする。
 意を決して、まさかと思う可能性を確かめてみる。

 「あの・・・こいつ頭おかしいとか思われる事を承知でつかぬ事をお伺いしますが・・・元号、今は平成何年ですか?東京都ってわかります?」

 聞いちゃった。

 「へいせい?なんだそりゃ。今は天文だぞ。とうきょうと?聞かん名だな。それがお前の村の名か?」

 ああやっぱし。しかも天文とか戦国時代じゃねえか。聞きたく無かった。頼むから夢であってくれ。

 「どうした。大丈夫か?どこか具合でも悪いのか?」

 リアルにorzしてしまった私を大木雅之助氏が肩を支えるように起こしてくれる。
 心配そうにじっと私の目を見つめる大木雅之助氏。
 ああ、もうアカン。堰を切ったように涙とか鼻水とか顔から出るもの全部出た。
 突然号泣しだした私に普通引くだろうに、大木雅之助氏は少しだけ驚いた顔をしたくらいで後は何も聞かず、涙と鼻水で服が汚れるだろう事も構わず胸を貸して頭を撫で続けてくれた。
 遠のく意識の中で暖かく私を包む、広くて逞しい腕の中はなんだかラッキョウの匂いがした。








シリーズものの目次へ戻る







- 2 -


[*前] | [次#]
ページ:




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -