〜春嵐は水色お子様タイフーン〜


 「「「「「「「「「「「●¥◎々□〓±∀※△♂!!!」」」」」」」」」」」

 私を見つめるは好奇心爛々に輝いたピュアな瞳、瞳、瞳、瞳、瞳。
 嵐のように投げかけされる質問は互い互いが重なり合って最早なんだかわからない。
 少年達よ、私は聖徳太子ではないのだよ。同時に騒がれたら何を言っているのか、最早異国の言葉より未知の言葉で全くわからん。

 (えーと、これはどうしよう。というかどうしてこうなった。)







 「・・・これで処置は完了です。後は無理して歩かない事。違和感を感じたらすぐ休んでくださいね」
 
 何となく話しづらくなってしまった雰囲気の中、それでも善法寺くんは恙無く、そしてまた、とても丁寧に治療してくれた。
 どうやら鼻緒擦れだけではなく、軽く足首の筋を痛めていたそうだ。運動不足情けなし。
 傷に直接鼻緒が擦れないように綿布かなにかの柔らかい当て布を当て、筋をこれ以上いためない為にとテーピングのように包帯を巻いてくれた。
 確かこの時代、薬は勿論、綿布や包帯も貴重品なのではないだろうか。

 「あの、私なんかの為に貴重な医療品を使っていただいて申し訳ありません・・・」
 「いいえ、これが僕達保健委員の仕事ですから、十六夜さんは気にしないでください」

 返される穏やかな笑顔。
 時折善法寺くんに遠慮がちに視線を向けられるのだが、私は何を話していいやら、何を聞いていいやら。
 聞きたい事はままあるのだが、触れてはいけないシークレット的な所に触れてお縄になるのはごめんである。
 互いの微妙な雰囲気の笑顔だけがその場を暖かくも凍り付かせていた。




 「あ、あの・・・」

 気まずさに絶えかね、私が何か会話を続けねばと言葉を発したと同時に――― 



 ダダダダダッ!とけたたましい足音が響いて医務室の襖が開け放たれる。
 それと同時に水色の子供達がなだれ込むように医務室へと入って来た。
 
 「「「「「「「「「「「●¥◎々□〓±∀※△♂!!!」」」」」」」」」」」

 水色の嵐、元い、水色の井桁模様の忍び装束に身を包んだジャリボーイ様達は私を見つけるなり凄い勢いで突進して来て、あっという間に私は取り囲まれてしまった。そしてこの現状である。
 いきなりの出来事に呆気にとられる私の前では善法寺くんが、誰かが蹴り飛ばした茶釜のような物を頭に強かにぶつけ、悶絶している。

 
 踞る善法寺くんと唖然とする私などおかまいなしに、お子様達は怒濤の勢いで喋り続ける。ひいふうみ・・・11人同時に。
 この勢い。こちらの状況なぞ顧みず有無を言わさない感じ。なんとなく、林家ペ◯パー御夫妻を思い出してしまった。


 「あ、あの・・・君達ごめんね、一緒に喋ったらなんて言ってるかわからないから。一人ずつ喋ってくれないかな?」

 どうしたものかと戸惑いながらも、とりあえず言葉によるコミュニケーションがとれないとどうしようもないのでわかるように喋っていただこうと試みた。

 「「「「「「「「「「「□±♂※〓¥△々∀●◎!!!」」」」」」」」」」」

 が、・・・ダメでした。




 「こらお前達!お客さんが困っているだろう!」

 凛と張ったイケメンボイスが響いて、11人のお子様方が一瞬で静かになる。
 声の方へ視線を向けると、医務室の前に黒い忍び装束のイケメンが立っていた。
 歳の頃は二十歳半ば程か、端正かつ甘めのマスクで、カッコ良さの中にどこか可愛さも感じるイケメン。文句つけようない美青年だ。

 (・・・大木さんと言い小松田さん、善法寺くんと言い、顔面偏差値高過ぎじゃない?あれ、高過ぎと言えば大木さんの声って時々高杉に似てるかも・・・ってそれは置いといて―――)

 「「「「「「「「「「「土井先生ッ!!!й◆♀¥Ω▲∂≠℃※∀!!!」」」」」」」」」」」
 「わかった!わかったからちょっと待ってなさい!」

 (わかったんだッ!?)
 
 お子様達は土井先生とやらに一斉に話しかける。『土井先生ッ!!!』の所はキレイに揃っていたが他はぐちゃぐちゃでとても聞き取れたものではない。
 本当にわかったんだとしたらこの土井先生と言う美青年は、天才学者とかみたいに何面ブラインドチェスとか出来るんじゃないだろうか。

 「すみません、うちの生徒達が驚かせてしまって・・・。善法寺、お前は大丈夫か?」
 「土井先生。ありがとうございます、大丈夫です」
 「あ・・・えっと・・・」

 土井先生の言葉に答える善法寺くんだが、その顔には涙を浮かべ、頭にはアニメや漫画みたいな見事なたんこぶが出来ている。
 忍者なんだからキャッチするとか出来なかったのだろうか・・・。

 「お初にお目にかかります。私は土井半助。この子達・・・一年は組の教科担当教師をしております。うちの生徒達がご迷惑をおかけしましてどうもすみません」
 「え?あ!いえいえ!とんでもございません!別に迷惑だなんて事は・・・。ただちょっとビックリしただけで・・・」

 御丁寧に謝ってくださる誠実そうな美青年を無下に出来る女がどこに居ろうか。
 反射的にこちらも頭を下げてしまう。これは恐らく所謂ところの『どうもどうも』の図である。
 
 「大木先生が連れて来たお客様が医務室に居ると伺ったので皆興味津々なんです。悪気は無いので許してやってください」

 若干眉尻を下げた爽やかな困り笑い。
 なにこの人生最大のイケメン遭遇期みたいの!私、今日明日で死ぬのかも知れない・・・。

 「土井先生!土井先生ばっかりお話ししてズルいです!」
 「そうですよ!僕達も湊さんとお話ししたいでッす!」
 「・・・善法寺伊作先輩、大丈夫ですか?」

 最後の眼鏡の子だけが善法寺くんを心配して、どこからとも無く漫画みたいなバッテン絆創膏みたいな物を、善法寺くんのたんこぶにそっと貼った。

 「すまないね乱太郎。僕が保健委員長なんだからしっかりしなきゃいけないのにね・・・」

 ・・・なんというか、なんとなくこの二人の周りだけ空気が辛気くさいと言うか不運臭い。




 「お前達、お客様が珍しいからって色々と聞きたいのはわかるが、一人ずつ話しなさい。十六夜さんが驚いていらっしゃるだろう」

 その言葉に、待ってましたの様相でぎゅうぎゅうとおしくらまんじゅうの如く再び私を取り囲み、子供達は次々に手を上げる。

 「はーい!湊さんはナメクジさんは好きですか?」
 「はい!大木雅之助先生とご結婚なさるって本当ですか!?」
 「あ!兵大夫ずるい!それは僕が訊こうと思ってたのに!はいはーい!ご結婚はいつですか!?」
 「え?僕はお手伝いさんって聞いたけど・・・」
 「はーい!大木先生の家のお手伝いのアルバイト料はいかほどですか?あひゃあひゃ」
 「きりちゃん、失礼だよ・・・」
 「はぁ〜い!食堂のおばちゃんくらいお料理上手って本当ですかッ!?」
 「しんべヱ、よだれよだれ!」
 「はい!湊さんは馬に興味はありますか!?」
 「火縄銃には!?」
 「いや、やっぱり男なら剣術が・・・」
 「足をお怪我されたそうですが、大丈夫ですか?」
 「ちょっと待って皆!湊さんが・・・」

 やっと別々に喋ってくれたとは言え、矢継ぎ早になんだか良くわからない質問やツッコミまで混ざっている。
 えーと・・・なんでナメクジなの大木さんとの関係誤解のまま広がってるしぽえぽえかあのぽえぽえの仕業かお手伝いしてるけどお給料はもらってないっていうかアルバイトって概念が何故この時代に存在するのだ眼鏡君のツッコミは適切だっていうか眼鏡も戦国時代にあったっけ食堂のおばちゃんはお馬さんで銃と剣術で怪我して湊さんが・・・?




 「湊さんが混乱なされているようだから少し質問の間隔をあけようよ」
 「流石庄ちゃん・・・。相変わらず・・・冷静ね」
 
 








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