不運を訪ねて空の旅?向かう先は天災地変!


 時は少し遡り・・・。
 


 
 「・・・変だにゃ」

 しょせん・・・元い、諸泉尊奈門は遠眼鏡で遠くの空を望みながら言った。

 「何が変にゃんだ?単にゃる雨雲じゃにゃいか」

 文次郎が言うように、諸泉尊奈門の視界の先には低く立ちこめた暗雲が広がっている意外に差し当たっておかしな所は見つからないように思う。

 「もそ・・・一部分だけ・・・不自然に天候が違い過ぎる」

 だがそう言われてみれば確かに、長次の言う通りその極狭い一帯を除いては良く晴れており、青々とした空の中に薄墨でも零したようだった。

 「諸泉尊尊にゃ門、この辺りは良くこんにゃ天気ににゃるのか?」
 「いや、この渓流からユクモ村の辺りは穏やかにゃ気候で、こんにゃ局地的な雨雲が・・・しかもあんにゃ濃い雨雲が発生するにゃんて聞いた事がにゃい」

 答えながらも、遠眼鏡から目を外さぬまま真剣にそちらの様子を伺っている諸泉。
 諸泉の様子に、嫌な予感が俺の頭を過る。

 「・・・伊作達はあの先へ向かったのか・・・」
 「おい、留三郎。まさかお前、そのおかしにゃ天候とやらが湊と伊作のせいかもしれにゃいとか思ってるんじゃにゃいだろうにゃ?」

 半ば呆れたように言う文次郎。
 人間が天候を左右するなんて荒唐無稽、空中楼閣も良い所だ。
 ・・・・と言いたい所だが・・・あり得る。あいつらならば、大いにあり得る。
 俺と文次郎が・・・とか言われるあれは絶対偶然に決まっているが。

 「あれが伊作達のせいかはわからん。だが何か普通ではにゃいことが起きている事は確かだ。そうにゃんだろう?諸泉尊にゃ門」
 「ああ。あの地形でのあの雲の動きは明らかにおかしい。・・・それよりその尊にゃ門っていうのやめてくれにゃいか?諸泉で止めてくれた方が嬉しいんだが・・・」
 「何言ってやがる!くせ者だって散々呼んでたじゃねえか!」
 「組頭は仕方にゃいんだよ!あの方は言っても面白がってもっと呼ぶだけに決まってるんだから・・・」
 「気にしにゃいでください・・・。私もにゃか在家・・・ですから・・・もそ」
 「そうだったね・・・。すまにゃい、にゃか在家くん・・・」

 (そんな事言ったらくせ者だって雑渡昆にゃ門じゃねえか・・・)

 何故かしんみりと互いに同情的な空気になっている諸泉と長次。




 「ところで、諸泉。丁度あの雨雲の辺りが伊作達の行った場所で間違いないんだな?」
 「ああ。私も以前セレスタ・・・十六夜湊くんの事だが、彼女とキノコ狩りの忍務に出た事がある。丁度、今一番濃い雲がかかっているあたりに、珍しいキノコが群生している穴場があるんだ。今回もそこに行ったと見て間違いにゃいと思う」

 諸泉は雨雲の中心辺り、色の一層暗い辺りを指差す。

 「しかしこれでは気球を着陸出来るかが問題だにゃ・・・」
 「どういう事だ?」

 俺が問うと諸泉はこの気球とやらの簡単な構造の説明をした。
 どうやらこの気球の推進力はほぼ気流に委ねられているらしく、高度を調節し、目的の方向へと流れる空気の層へと乗せる事によって航路を操作しているらしい。
 ちょっとした自己推進力を得る為の噴射機は搭載しているが、あくまでも気流に乗る際の補助的なものであって基本は風任せなのだそうだ。
 
 「だから今みたいに低空の気流が荒れていると離着陸が難しいんだ。このまま高度を下げれば下手をすると気流に巻き込まれて墜落してしまうかも・・・」
 「にゃるほど・・・。では少し離れた所に着陸するしかにゃい・・・という事ですね・・・もそ」
 
 長次の言葉に、しかし諸泉はまだ何かあるというように考え込んだままだ。

 「まだ他にもにゃにか問題があるのか?」
 「・・・あの辺りは深さのある川や崖のようにゃ険しい岩場に囲まれた起伏の激しい地形だ。平地も木々が邪魔をしていて離着陸出来る場所が少にゃいんだ。おまけに、さして強くは無いがモンスター共も居る。もし借りに、万一にでも離着陸中にモンスターに襲われれば面倒な事ににゃる・・・」
 「つまり現状では着陸を試みるのは無謀という事か?」

 諸泉の話に焦れながらも、文次郎はその化け物じみた隈面を一層険しくしてにじり寄るように諸泉を覗き込む。
 かく言う俺も、先程からの胸騒ぎのせいかどうも気が逸る。

 「それにゃら少し離れた場所で良い。俺達を降ろしてくれにゃいか」
 「にゃんだって?それは気球から飛び降りるという事かい?・・・出来にゃくは無いが、地図はあるとは言え、地の利の無い君達だけでセレスタくん達を探せるのかい?」

 諸泉は四人分の地図を取り出して、一カ所に指で円を描くように示す。そこが恐らく先程言っていた穴場とやらだろう。
 そして諸泉は危ぶむように眉をひそめ俺の事を見る。
 俺とて全く知らない地、まして俺達の常識外の事が溢れている異世界で不安がないわけではない。
 だが、何の根拠もない話だが、俺は居る気がするのだ。あの暗雲の中心、異常の元凶の中にあいつらが―――

 「不運はともかく、天候が荒れてはキノコ狩りどころではにゃいだろう。あいつらもどこかで立ち往生してるんじゃにゃいか?」

 そんな俺の焦りを感じ取ってか文次郎が軽い口調を装う。
 だが俺は諸泉から目を逸らさない。

 「砂袋の縄が・・・使えそうだ」

 長次が重しの―――高度の調整用か、船で言う所の錨の代わりだろうか―――砂袋がくくりつけられた縄を指し言った。
 長次も一刻も早く伊作達と合流したいという俺の考えに同感なようだ。

 「一器を以て諸用を弁ずるのが忍びの巧者である・・・か。そうだにゃ。それならこの『ぶうめらん』に括りつければ鉤縄や縄ひょうの代わりに出来るかも知れん。・・・まあ使い勝手は違うだろうが・・・」

 俺はオトモアイルーの『めいんうえぽん』であるという『く』の字型の投擲武器を取り出し、そこに砂袋の縄を外して括りつけた。
 『ぶうめらん』はオトモ広場探索の時に数回投げてみたので基本的な扱い方や軌道はある程度把握しているつもりだ。
 これならば高い木や飛び出た岩などに縄を巻き付ける事は可能な筈だ。




 「へぇ・・・。器用にゃものだにゃ・・・。まだこの世界に来て一日も経っていにゃいというのに」
 「用具委員会で散々どっかのクソ力のいけドンや石頭のギンギン野郎が壊した物の修理をしてるからにゃ。このぐらいはどうってことにゃい」
 「おい留三郎、テメエ喧嘩売ってんのか?」
 「おいおい!気球の中で乱闘にゃんてやめてくれよ?本当に墜落してしまう!」
 「文次郎・・・いちいち突っかかるにゃ。・・・留三郎もあまり煽るにゃ」
 「悪りぃ。つい、にゃ」
 「何が『つい』、だ。・・・このバカタレが」

 長次と諸泉とに宥められ、文次郎は面白くなさそうにどかりと俺に背を向けて胡座をかいて腰を下ろした。
 俺もまた、今は文次郎とやり合う気はない。
 煽るような言葉が口を突いて出てしまうのはもう自動的のようなものなのだ。

 「それで、諸泉。俺達を降ろせそうにゃ場所はあるのか?」
 「あ、ああ。あるにはあるが・・・。組頭が気にかけているから付き合わされているだけで、元々君達の不運だにゃんだのは私には関係にゃいのだが・・・」

 諸泉は歯切れ悪く語末を濁してから、言いづらそうに視線を逸らし「君達に何かあれば私の給与査定に響く。私も着陸出来る場所を確保出来たらすぐに追うから、無茶はするにゃよ」と憮然と言い放った。
 (主に精神面に置いて)忍者として尊敬出来るかは別ではあるが、なんだかんだでこいつもそう悪いヤツではないのかもしれない。

 「ああ。そうするよ。勝手を言ってすまにゃいにゃ」 
 「もそ・・・すみません。・・・ありがとうございます」 
 「まあいつまでも空でうろうろしててもしかたねえしにゃ。乗りかかった船だ。ギンギンに戦ってやるぜッ!」

 そういうわけで諸泉が高度を調整し、渓流よりややはずれた比較的風の穏やかな丘の辺りまで来ると、俺、長次、文次郎は手近な高い木に向かって縄と『ぶうめらん』で作った即席の鉤縄を引っかけ、それを伝い順番に降りて行った。

 「ここから未申の方角に少し行くと地図の右上の辺りに出る。地図に乗っていにゃい場所は獣道みたいな道しかにゃいからにゃ!迷うにゃよ!私もすぐ行くから・・・気を付けて行けよ!」

 諸泉は気球の上から言い、気球はまた少しずつ高度を上げて行った。



 「よし!では俺達も行くぞ!」
 「・・・おう」
 「留三郎!お前が仕切るんじゃねえ!行くぜ!ギンギーン!」






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