どうやらいきなり危急存亡?出発我らモンニャン隊!


 「じゃあ行ってらっしゃい」

 隻眼猫のくせ者―――雑渡昆奈門は俺達の乗った気球・・・モンニャン隊の気球に向かって軽く手を上げる。
 俺、潮江文次郎が何故今こんな状況になっているのかというと、遡ればほんの今し方の事・・・。









 「じゃあ行ってきま〜す!」
 「お宝お宝!」
 「観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子・・・」

 俺達は各々色々と思う所がありながらも、湊、伊作、きり丸の乗った龍歴院とやらの気球とかいう乗り物が高度を上げて行くのを見上げていた。
 能天気に大きく手を振っている湊とお宝に目がくらんでいるきり丸。
 そして・・・


 「伊作のヤツ、般若心経唱えてやがる・・・」
 
 伊作は魂の抜けた一年坊主共みたいな顔をしてぶつぶつと呟くようにひたすら経を唱えている。
 
 「大丈夫かアレ・・・」
 「いや、ダメだろうアレは・・・」
 「あの浮かぶヤツにぶら下がってついて行くのはどうだ?」
 「高度的にもう無理だろう」
 「・・・鉤縄も・・・無い」
 
 湊も伊作も、仮にも忍術学園で六年間学んできた身。湊に至っては卒業早々殉職したとは言え、一応はプロの忍者だ。
 本来ならば不運だろうがなんだろうが『忍者ならば他人の力なぞ借りずに、自分の使命くらい自分で全うして来い!』・・・と言っている所だが、湊と伊作の場合は流石の俺も憂慮を禁じ得ない。
 あの二人を一緒にしておくのは焔硝蔵に火種を一緒に保管しておくようなもの。
 しかも、巻き込まれるのが留三郎の阿呆ならまだしも、今回同行しているのはきり丸だ。
 最高学年の先輩として、可愛い一年生があの天災級人災コンビの被害を被るのは阻止したい所だが―――

 「君達、セレちゃん達が心配みたいだね」
 
 どうしたものかと思案を巡らせる俺達に、気配もなく声をかけてきたのはくせ者―――タソガレドキ忍軍忍組頭の雑渡昆奈門だった。
 
 「くせ者めッ!今はお前に構っている場合ではにゃい!失せろ!」
 「そうだ!勝負といきたい所だが今はそれどころではにゃい!邪魔立てするにゃ!」

 反射的にくせ者と距離をとり身構える俺と留三郎。
 このアヒル野郎と意見が合うのは癪だが、後輩の安全の方が優先事項だ。
 くせ者は「ここではくせ者じゃにゃいって言ったのに」と感情の読めない声色で淡々と抜かす。

 「まあ待て、お前達。雑渡さん、我々に声をかけて来たというのは、もしや何か湊達を追いかける方法をご存知にゃのではにゃいですか?」
 
 仙蔵がくせ者と対峙する俺達を制するようにくせ者の前に出る。
 考えだと?・・・確かにこのくせ者は、この異世界に於いてもまるで『勝手知ったる』といった感じで、湊の事も当たり前のように『セレちゃん』などとこの世界の名前で呼んでいやがる。
 どうも俺達よりも随分前からこの世界に居るようだし、俺達の知らない情報を多く持っている事は想像に難く無い。

 「にゃんだと!本当か!?」
 「どうするんだ!?」
 「にゃんだ?私達もくえすとに行けるのか?」
 「・・・教えて・・・いただけますか?」

 仙蔵の言葉に俺達は色めき立ってくせ者に詰め寄る。
 普段より湊や伊作に過保護な留三郎と危機感に乏しい小平太はともかく、長次はやはりきり丸が心配なようだ。
 
 「まあね。教えるのは構わにゃいんだけど、残念だけど君達全員では行けにゃいよ」
 「「にゃにッ!?何故だ!?」」
 「にゃんでだ?」
 「・・・定員・・・ですか」
 「くえすととやらも三人までのようですしね」

 いちいち俺のセリフに被せてくるアヒル野郎を絞めるのはこの際後にするとして・・・どうもこの世界では色々と面倒な制約があるようだ。
 
 「セレちゃん達を追いかけるのは簡単。モンニャン隊の気球を使えば良い」
 
 くせ者が視線で示す先には間の抜けた顔の描いてある猫型の気球。先程、乱きりしんとドクササコの凄腕が使っていたものだ。
 
 「セレちゃん、アイテムの管理とか苦手だからモンニャン隊の編成と行き先は普段うちの山本陣にゃいが担当してるんだけど・・・」

 くせ者がそう言うとサッと音も無く影が六つ、くせ者の背後に現れた。
 
 「只今、危急を要する物資はございません。依って、モンニャン隊はどちらへ向かわれても問題にゃいかと」
 
 六つの影は、それぞれ若干毛色の違う黒っぽい猫だった。一同はくせ者の後ろで片膝をついて控えている。
 恐らくはタソガレドキ忍者だろう。
 そのうちの一匹が顔を上げ、くせ者へと報告をした。
 タソガレドキの忍者なんぞくせ者と土井先生に突っかかってくるしょせんなんとかくらいしか覚えとらんが、話の流れから考えるとこいつが山本ってやつだろう。
 
 「うむ。報告ご苦労。・・・だってさ。どうする?忍術学園六年生諸君」

 虎縞の毛並みから覗く隻眼を歪め、問うくせ者。俺達の答えなど一つに決まっている。

 「「俺が行くッ!!!」」
 「私行きたいぞ!」
 「・・・私が・・・行きます!」
 「よし。お前ら行って来い」

 ・・・っておい。
 
 「あれ?立ばにゃくんは行かにゃくて良いの?」
 
 一つ・・・ではなかった俺達の答えに、くせ者は目を丸くして仙蔵を見る。
 
 「立ば『な』です。当然です。本来我々忍びは大勢で動くべきではにゃい。まして湊と伊作の、最早自然災害級の不運に対して人海戦術にゃど無駄に犠牲を増やすだけに他にゃらにゃい。ここは少数できり丸の安全確保だけに専念し、必要以上に自分達が被害を被らにゃいようにすべきでしょう」
 「立ばにゃくんはセレちゃん達の事は心配してにゃいんだ?」
 「立ば『な』!です。あやつらは片や間抜けのうつけのたわけで片やどうしようもにゃい不運ではありますが、曲がり也にも忍術学園で六年間学び、忍びの技を鍛えて来た者達です。己に降り掛かる災難くらいは己で何とかするでしょう」

 自分の名以外は淡々と語る仙蔵に、俺はいつの間にか湊と伊作の事までどうにかしてやらねばと考えていた自分の甘さを恥じた。
 そうだ。忍びたる者、己の身ぐらい己で守れんでどうする。やはりあいつらは鍛錬が足りんのだ。
 特に湊、あいつは帰って来たらやはり丸太を担いでオトモ広場三千週くらいはしごいてやらねば。

 「・・・とか言って、セレちゃんと伊作くんの不運に巻き込まれるのが嫌にゃだけだったりして」
 「・・・う゛」

 冷や汗を垂らす仙蔵。その様子にくせ者は満足そうににやにやと嫌な笑みを深めた。なんだ、図星なのか。
 そう言えば一昨年の実習の時は俺も仙蔵も三日三晩寝込んだんだったな・・・。
 ・・・アヒル野郎は一週間以上医務室で面会謝絶の絶対安静だったが。

 「とにかく!きり丸の救助にゃらばこいつらが行けば充分事足りるでしょう!さあ貴様ら!早く行け!!追いつけにゃくにゃるぞ!」

 図星を突かれて明らかに機嫌が悪くなった仙蔵が俺達を語気荒く急かす。

 「あ。尊にゃ門が行くから後行けるのは三人だからね。その気球定員4人までだから」
 「えッ!?何で私までッ!?」
 
 急に名指しされ、くせ者の後ろに控えていたうちの一匹がくせ者に詰め寄るように抗議する。黒に白い斑模様の猫だ。これがあのしょせんなんたらのようだ。
 
 「ちょっと待て!何で俺達がタソガレドキの連中と一緒に行動せにゃにゃらんのだ!」
 「だって君達だけじゃ気球の使い方もセレちゃん達の行き先への航路もわかんにゃいでしょ」
 「だからってどうして私にゃんですかッ!?組頭が御自分で行かれたら良いじゃにゃいですかッ!!!」
 「えー。伊作くんの事は心配だけど、さっき立ばにゃくんが言った通り、四人も行けば充分でしょ。道案内だけにゃらわざわざ私が行くまでもにゃいじゃにゃい」
 「立ば『な』ですッ!」
 「そんにゃ事言って、組頭、面倒くさいだけでしょう!」
 「まあそんにゃ訳だから早いとこ三人決めて行ってらっしゃい」
 
 くせ者の言い分は癪だが一理ある。悔しいが、確かに俺達だけでは湊達を追いかける事は出来ない。
 まだ何やら喚き立て続けているしょせんを無視してくせ者は俺達を促す。
 しかし先生方でなくタソガレドキの連中なんぞに施設管理をまかせるとはあのバカタレが。千周追加だな。
 さて・・・

 「私は・・・行くぞ」
 「俺も譲れん。伊作とは同室だ。見捨てる事など出来ん」
 「私も行きたいが、長次と留三郎は行くべきだと思うぞ」

 きり丸の事が気がかりなのか、長次が珍しく譲るつもりは無いとばかりに我先に名乗りを上げた。
 アヒル野郎は正直どちらでも良いが、ここであまり揉めている時間はない事を考えると、長次、アヒル野郎と残り一名を小平太か俺のどちらかで決めた方が良さそうだ。

 「よし!文次郎、じゃんけんしよう!」
 「はぁ?」
 「だから、じゃんけんしよう!それで勝った方が行けば良いだろ!」

 またいつもの如くバレーとか言い出すかと思ったが、小平太にしてはまともな提案だ。
 じゃんけんならすぐに勝敗が出るだろう。

 「いいだろう!後でやっぱり無しはきかねえからにゃッ!」
 「文次郎、お前こそにゃ!」
 「「じゃーんけーん!」」
 「ぐー!」
 「ぱー!」

 同時に出された手は小平太がぐー、そしておれは―――

 「よっしゃぁ!俺の勝ちだぜ小平太!!」
 「あー。負けてしまったかぁ・・・。まあ仕方にゃいにゃ!」

 ぱー。俺の勝ちだ。
 小平太は一瞬耳と尻尾がへなりとしたが、すぐにピンとする。
 これできり丸救出チームのメンバーは決まりだ。
 
 「決まったみたいだね。それじゃあ・・・」
 
 


 
 仙蔵、小平太やくせ者達を眼下に、俺達の乗り込んだ不細工な気球は地面より離れ、少しづつ高度を上げて行く。
 魂の戻ったらしい乱太郎としんべヱが駆けて来て大きく手を振った。

 「先輩方!諸泉さん!伊作先輩ときり丸の事をどうかお願いしま〜す!」
 「食満せんぱぁ〜い!美味しいお土産をお願いしまぁ〜す!」
 「違うでしょしんべヱ」
 「えへへ、ごめ〜ん!えっと・・・きり丸をお願いしまぁ〜す!」
 「任せておけ!心配するにゃ!」
 「必ず無事に・・・連れて帰る・・・」
 「お前達は安心して待っていろ!」

 



 「どうして私が・・・」
 
 まだぶつくさと泣き言を言いながら気球のあちらこちらを弄っているしょせんなんたら。

 「あんたも苦労してるみたいだにゃ。俺の同室と同輩の事で手間をかけてすまんが、改めてよろしく頼む。知ってると思うが俺は食満留三郎だ」
 「・・・にゃか在家・・・・・・長次です。・・・よろしく」
 「全く・・・タソガレドキ忍者と仲良くお出かけする羽目ににゃるとはにゃ。これも全部あのバカタレのせいだ。・・・敵に名乗るのも癪だが俺は潮江文次郎だ。案内は任せたぞ、しょせんそんにゃもん」
 「諸泉尊にゃ門だッ!!!」




 かくして俺達はモンニャン隊として未知の世界へと出発したのだった






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