ニャンたまメンバー大集合!?


 なんだかんだで良くわからないうちに連れて来られた草地はオトモ広場という場所らしかった。
 湊は草地の中心辺りの敷物に腰を下ろすと色々と説明を始めた。
 湊の説明を要約すると、この『もんすたーはんたー』とやらの世界では猫―――アイルーという生物らしいが―――は皆、人と大差ない事をしながら人と共存しているらしい。
 俺たちはオトモアイルーという猫になり湊―――この世界ではセレスタという名前らしいが―――と一緒に狩りに出て、でかい獣だの龍だのを倒したり捕まえたりする・・・ということにされてしまった。





 「かくかくしかじかが使えないだけで説明ってこんなに大変なものなのね」

 ひとしきり話し終えた湊が溜め息をつく。溜め息つきたいのはこっちだぞ。

 「ちょっと待て!にゃんで俺達が猫にされた上に異世界にまで連れて来られてそんな事をせにゃいかんのだッ!!!それに・・・にゃんでこのくせ者まで居る!」

 湊に食いつく文次郎。おい文次郎、何かおかしいぞ。
 そして俺たちの目の前には、ストローの挿された竹筒の水筒を持った隻眼の濃鼠色のトラ縞猫が一匹、さも当然のように湊の横に座っている。・・・横座りで。
 そいつはタソガレドキ忍軍忍組頭、雑渡昆奈門だった。

 「ここじゃ君達とお仲間ににゃるんだからくせ者じゃにゃいよ。まあセレちゃん・・・湊ちゃんのオトモは大変だから君達が来てくれて正直助かったよ。それじゃあよろしく。あ、因みに尊にゃ門や陣左達もいるからね」

 ・・・こいつはいつから此処に居るんだろうか。なんだかこの世界に馴染んでる感が半端無い。
 ストローに口を付け水筒の中身を飲みながら言うくせ者。やっぱり何かがおかしい。
 関係無いがやっぱりあれの中身は雑炊なんだろうか・・・。

 「ねえちょっと待って!にゃんか僕達話し方がおかしくにゃい?」

 隣で伊作。そう。俺もそう思ってた。

 「ああ。この世界じゃアイルーは『な』って発音がうまく出来ないんだよ。だから『な』って言おうとするとだいたい『にゃ』に聞こえちゃうの。あ、つまり仙蔵とかは名乗ろうとすると『立ばにゃ仙蔵』になっちゃうって事だね。・・・なんかとっても可愛いー!」

 くすくす笑いながら説明をする湊。仙蔵が凄い顔をしてショックを受けている。

 「雑渡さんは生前色々お世話になったし、プロの忍者として尊敬してる人だったから来てもらっちゃった。文次郎の言う事は尤もで、私も悪いとは思ってるけど、私は死んじゃったから皆の世界には帰れないんだよ?皆はちゃんと帰してあげられるんだからちょっとくらい一緒に居てくれたって良いじゃない・・・」

 「皆と一緒に居たいんだよぅ・・・」と涙目で訴える湊の願いを無下に出来るものなど俺達の中に居るわけが無い。
 結局俺達はこの見知らぬ世界の見知らぬ場所で、よくわからんオトモアイルーとやらをさせられる羽目になるのであった。






 「私はちょっとやる事があるから、その間広場を見て回って来なよ」と、湊は何処かへ行ってしまい、仕方なく俺達は言われた通り広場を見て回る事にした。




 
 「やあ、やっぱり君達も来たか」

 爽やかに片手を上げ、親しげに話しかけてくる栗色の猫が一匹。この声は・・・

 「もしかして利吉さんですか!?」
 「正解。君は伊作くんかにゃ?お互い災難だけどまぁよろしく頼むよ」

 利吉さんは湊が実の兄のように慕っていた人だし、かくかくしかじか・・・は使えないのか―――とにかく、湊の言う理由で俺達やくせ者が居るのなら、利吉さんが居ても不思議は無い。
 ・・・と、言う事は―――


 
 「ああ・・・。は組の授業がまた遅れる・・・。補習が、追試が・・・」

 立て札に手をつき、ぶつぶつと呟きながら胃の辺りを押さえているあの褐色の三毛猫っぽい猫はもしかして・・・

 「・・・土井先生?」
 「その声は六年は組の食満留三郎か?ということは、お前達・・・六年生達か?」
 「はい。食満留三郎です。隣の茶色いのが伊作です」
 「はい。は組の善法寺伊作です。土井先生もでしたか・・・」
 「私は六年い組、立ば『な』、仙蔵です。心中お察し致します・・・」

 仙蔵は『立花』の『な』の部分をものすごく強調して乗り切った。仙蔵、そこまで屈辱的だったのか・・・。
 俺は自分の名前が『食満留三郎』であったことに、つくづく両親に感謝した。

 「私が同じく六年い組、潮江文次郎です。あいつめ、先生や利吉さんまで巻き込みやがって・・・」

 ・・・チッ。こいつの名前に『な』が入ってりゃ全力で笑ってやったのに・・・。

 「私は六年ろ組のにゃにゃ松小平太です!ん?にゃにゃまつ?・・・にゃにゃまつにゃにゃま・・・」

 小平太は何度も何度も小声で『にゃにゃまつにゃにゃまつ』と繰り返している。

 「・・・同じく・・・ろ組、にゃか在家長次です。・・・もそ」

 やはり名前に『な』が入る長次も、ものすごく何か言いたげな顔をして押し黙った。

 「私が土井半助だとよくわかったにゃ。流石は忍術学園の六年生だ!」

 土井先生は私達を確認すると顔を上げ、感心したように言う。
 ・・・は組の授業や追試の心配しながら胃を押さえてる湊の関係者なんて、むしろ土井先生以外思いつかないと俺は思う。
 土井先生もまた、火薬の扱いの苦手な湊が度々教えを請うていたりと、何かと親しくしていた人だ。
 ・・・と、いうか湊が忍術学園在学中、親しくしていなかった人間を挙げて行く方が難しいのではないかと言うくらい湊は人当たりが良かったし、何かと放っておけない奴だった。
 まさか忍術学園関係者総出演、なんてことにはなってないだろうな・・・。
 この俺の予想は当たらずしも遠からずだった。






 「どーいせんせーい!!!」

 目を銭にした小柄な濃藍色の猫がこちらに向かって駆けてくる。その腕にはなにやらキラキラと輝く石が沢山抱えられている。
 これも誰かなんて言われなくてもわかるな・・・


 
 「・・・きり丸か」
 「あ!その声!にゃか在家先輩ッスね!いやぁ〜、僕も先輩達も来るんじゃにゃいかと思ってたんスよね!」

 目を銭に出来る猫なんてこいつくらいしか居ないだろうな。予想通り、長次と同じ図書委員会所属の一年は組、摂津のきり丸だ。

「きり丸、モンニャン隊お疲れ様。その様子だと良いものが手に入ったみたいだにゃ」

 土井先生がきり丸歩み寄る。
 モンニャン隊?・・・ああ、それがアイルー達だけで行く狩りと言うやつか。・・・本当にかくかくしかじかが恋しい。

 「はい!地底火山は貴重にゃ鉱石の宝庫っスね!円盤石にマカライトにドラグライト、持てるだけ採ってきました!お駄賃!お駄賃!」
 「ちょっときりちゃん!きりちゃんがイーオスそっちのけで採取に夢中だったおかげで私はボロボロだよ?毒状態にはなるし爆弾には巻き込まれるし、採取もあまり出来にゃかったし・・・。異世界に来てまで・・・私って不運・・・」

 きり丸の後から走って来た、同じく小柄な赤茶のくせのある毛並みの猫は地面に『の』の字を書き出しそうな雰囲気でうなだれた。これは・・・


 
 「乱太郎!?君にゃのかい!?」

 伊作がうなだれるくせ毛猫に駆け寄る。

 「その声は善法寺伊作先輩!?先輩まで猫にされて異世界に・・・。やっぱり私達って不運・・・」

 ひしっと抱き合い慰め合う二人・・・いや二匹。
 この不運っぷり。漂う悲壮感・・・。伊作と同じく不運委員会・・・いや、保健委員会所属の後輩、一年は組の猪名寺乱太郎だ。間違いない。
 しかし乱太郎のその理論で言うと俺達は皆、湊の巻き込まれ不運だ。
 ・・と、この二人がいると言う事は勿論―――


 
 「待ってよ二人とも〜!」

 ぼてぼてと音を立て、小柄だが横幅のある黒と白の二色模様の猫が走って来て・・・転けた。

 「・・・大丈夫か?しんべえ」

 俺はその猫に近づき手を差し伸べる。

 「へ?その声はもしかして・・・用具委員会委員長の食満留三郎先輩!?」

 やはり。俺と同じ用具委員会所属の後輩、一年は組の福富しんべえだった。

 「そう・・・だ、と。ほら、鼻水出てるぞ。鼻かめ」

 俺はしんべえに手を貸し、立ち上がらせる。しんべえは「ありがとうございます!はい!」と、どこからか手ぬぐいを取り出すと『ちーん』と鼻をかんだ。
 ・・・なんだか、俺達の姿が猫でなければ忍術学園での日常と大差ないな。





 
 「こらお前達!モンニャン隊中は俺の指示に従えとあれほど・・・!お前らが勝手にどっか行っちまうから俺一人でリオレイアと戦ったんだぞ!?」

 なんだかもの凄くボロボロになった鼠色の猫が乱きりしんの後からやって来た。
 ボロボロでこそあるが、鋭い目つきとその気配からは一目でかなりの実力者である事が伺えた。
 誰だ?だが何処かで・・・

 「ん?にゃんだ。湊の奴、また新しく忍術学園のガキ共を呼んだのか・・・。六人・・・って事は六年生あたりか。ん?お前は誰だって顔をしてるにゃ。・・・まあ当然か」

 そいつは俺達を一瞥する。やはり俺達の知っている奴のようだ。

 「「「はーい!それは僕達がご紹介しまーす!」」」

 手を挙げる乱きりしん。

 「その人は」
 「ドクササコ城の」
 「凄腕忍者」
 「「「通称凄腕さんでーす!」」」
 「「にゃにぃぃぃ〜ッ!!?」」

 乱きりしんの息のあった紹介に思わず声をあげる俺と文次郎。

 「留三郎!被せるんじゃねえ!」
 「そりゃこっちのセリフだ文次郎!」

 いちいち突っかかってくる隈野郎に俺もつい熱くなる。

 「やるかッ!?」
 「やらいでかッ!!」
 「ちょ、ちょ、ちょっ!文次郎、留さん、異世界に来てまで喧嘩してる場合じゃにゃいでしょ!?」

 すかさず割って止めに入る伊作に俺は正気に返った。
 そうだ。湊がタソガレドキの一部の奴らと親しかったのは知っているが、何でドクササコの凄腕までいるんだ。
 確か湊の就職先候補にドクササコが入っていた覚えはあるが・・・。あいつの友好関係の範囲がわからん・・・。





 ドクササコの凄腕との微妙な空気の後、乱きりしんに交易所だの特訓場だのと広場を一通り案内、説明してもらった。
 俺としてはモンニャン隊とやらの気球ってやつがもの凄く気になったので、後でニャントさんとやらに良く見せてもらう事にしよう。
 




 結局、オトモアイルーとやらにされたのはタソガレドキの連中や風魔の錫高野与四郎―――いつの間に仲良くなっていたんだ湊の奴―――以外は殆ど忍術学園の人間だった。
 湊とは『忍術学園の迷子トリオと保護者』として有名だった三年の富松作兵衛、神崎左門、次屋三之助を始め、くのいち教室の女の子達や山本シナ先生―――シナ先生だけは何故か『な』のお約束が適応されず、シナ先生自身も『にゃ』と一切言わないのと、誰が呼んでもシナ先生と呼べたのには下手な怪談話より背筋が凍った―――山田先生、可愛がっていた五年生四年生などなど・・・忍術学園ごとこの世界に引っ越して来たのではないかと言うくらいだ。
 保健委員会は全員居て、『流石は不運委員会』と思っていた所に、用具委員会も同じく全員居たのには、俺の巻き込まれ不運すら更に感染して行ってしまったのかと脱力してしまった。
 これから一体俺達はどうなってしまうのやら・・・。
 
 そんなこんなで今日ほどかくかくしかじかが恋しいと思った一日は、15年生きて来た人生の中で初めてだった・・・。






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