〜プロローグ〜


 朝、起きたら俺は猫だった。
 
 「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜ッ!!!!?」
 「ちょっと留さんうるさ・・・うわぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜ッ!!!!?」

 衝立ての向こうから眠そうにこちらを覗き込んで来た茶トラ猫が俺を見て絶叫した。伊作の声で。
 バタンッ!と襖が乱暴に開けられ艶やかな毛並みの黒猫がヘムヘムの如く二足で、仁王立ちしている。

 「お前達!朝からうるさ・・・あぁぁぁぁ〜〜〜〜〜ッ!!!!?」
 「敵襲かッ!?ギンギー・・・んんんんんん〜〜〜〜〜ッ!!!!?」
 「皆!大変だッ!私と長次が猫に・・・ってお前らもか!」
 「・・・もそ。一体どうした事だ・・・」





 俺と伊作の部屋に六人・・・いや、六匹の二足歩行可能なヘムヘムもどきの猫が輪を描くように鎮座している。
 その姿は滑稽とも珍妙とも言えるが、当の俺たちにとっては由々しき自体。大問題中の大問題だ。

 「つまりは、だ。皆、朝起きて気がついたら既にこの姿になっていた・・・と」

 先刻怒鳴り込んで来た黒猫―――仙蔵は腕組みをしながら冷静に呟いた。

 「バカタレ!落ち着き払っとる場合かッ!一体どうなっている!?」

 仙蔵の隣でカッカとうるさい青褐と白の二色模様は文次郎。猫になっても目の下に濃い隈がくっきりと出ている。

 「流石にこれは細かくは・・・無いなぁ・・・」

 あまり深刻でなさそうに首をひねって悩んでいるボサボサ毛並みの黒サビは小平太。

 「心当たりは・・・ないのか?もそ・・・」

 その隣の大柄の黒茶は長次。

 「朝起きたら猫になってるなんて・・・なんて不運なんだ・・・」

 そして俺の隣で顔を覆い踞っている唐茶の虎縞が伊作。
 因みに俺、食満留三郎は深縹色の毛並みの猫になっていた。

 「それは私がモンハンの世界に転生しちゃったからでーす!てへ!」

 声と共にいきなり俺たちの輪の中心に現れたのは―――

 「「「「「「湊!!?」」」」」」

 ―――ほんの一月ほど前に就職先が決まって卒業して行った俺たちの同級生のくのいち、十六夜湊だった。




 「―――と、いうわけでかくかくしかじかで・・・」
 「成る程。つまりお前は就職早々ヘマをして死んで、そのもんはんとか言う異世界に生まれ変わった・・・と」
 「そうそう!仙蔵は相変わらず察しが早くて助かるよ!ていうか相変わらずこれで通じちゃうのね。ここは」

 「これほんと便利〜!」と呑気に言う湊。
 何で出来ているのか良くわからない素材の、忍び装束のような格好をしているが、その顔立ちや雰囲気は俺たちの知っている湊に間違いなかった。



 「・・・フン。事実を言ってもお世辞にはならんぞ。全く、就職早々死ぬなんぞと・・・相変わらずの大間抜けだな。」

 言葉こそいつもの毒舌だが、仙蔵のその言葉にはいつもの刺は無かった。

 「うん・・・。だよね。ごめんね仙蔵」


 
 「バカタレッ!!!死んだだとっ!?だからお前は忍びには向かんとあれほど・・・くそっ!この大バカタレがッ!!!」

 悔しそうに畳を殴りつける文次郎。・・・猫の手でだが。

 「ごめん文次郎・・・。就職早々結構ヤバめな内紛に巻き込まれちゃってさ・・・」



 
 「ずるいぞ湊!必ずまた一緒に塹壕堀りするって約束したじゃないか!」

 湊に抱きつくようにしがみつく小平太。
 「小平太も・・・ごめん。・・・でも塹壕堀りの約束はしてないよ?」


 
 「最後は・・・辛くは・・・無かったか?」

 黙想しているかのように静かに問う長次。

 「うん。殆ど即死だったみたいだから。私とっくに死んじゃってるのに、まだ心配してくれて・・・ありがとう長次」



 
 「ダメだ!嫌だよ!!湊が死んじゃったなんて・・・!・・・そうだ!!このまま此処に居られないのかい!?」

 殆ど泣き顔になっている伊作。

 「ごめん伊作。今少しの間だけ此処に来れてるだけでも特例なんだよ・・・」




 「・・・本当に・・・死んじまったのか」

 そうとしか言えない、俺。

 「留・・・。うん。本当。本当なの。ごめんなさい・・・留三郎」

 自分達が猫になっているなどという異常事態にも関わらず、俺たちはただただ湊がもう俺たちと同じ世界に存在しないという事実に衝撃を受けずにはいられなかった。
 




 「・・・で、私の死が運命の想定外的な事故だったとかなんとかで、『お詫びに生前に縁が深くってもう一度会いたい人達を条件付きで一時的にだけどモンハンの世界に呼んでも良いよー!』って神様が言うんでお願いしちゃった!皆ごめーん!」
 「「「「「「・・・は?」」」」」」

お通夜のような沈痛な空気をぶち壊す軽い口調で湊が言うと、俺たちの周りの世界が歪んだ。





 目を覚ますとそこは山羊かなにか見た事も無い生き物のいる、木の柵で囲われた見た事も無い草地だった。
 「ようこそモンスターハンターの世界へ!私、この世界ではセレスタって言うの!改めて宜しくね!オトモアイルー諸君!」








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