鈍感なのはどっち
オレは並盛商店街を歩いていた。
獄寺君も山本もそれぞれ用事があったから、オレは一人せっかくの休日にブラブラと暇を持て余していた。
その時だ。
「ツナさ〜ん!」
聞き覚えのある声に呼び止められた。
後ろを振り向くとオレの予想通り、
「一人で何をしているんですか?」
声の主はハルだった。
「…!えっ?…ま、まあ、暇だったからブラブラと…」
「だったら、一緒にショッピングに行きませんか?」
「べ、別にオレは構わないけど…」
「じゃあ、行きましょう!」
正直、早くも後悔している。
いつもならそんなことはない筈だ。
今回は気を遣ってしまう。それは何故か?
正解は、ハルの隣に…雲雀さんがいたからだ…
「きょ、今日は珍しいね、雲雀さんと一緒だなんて…」
「ツナさんと会う前に雲雀さんと会って、雲雀さんも暇そうにしていたので誘ってみたら、一緒に行くことになったんです!」
「へ、へ〜」
何か変だ、雲雀さんが他人の誘いに乗るなんて…
「そ、そうなんですか、雲雀さん?」
「…別に、ただ女子が一人でいたら色々と危ないしね、それだけだよ」
「そ、そうですか…」
雲雀さんは明らかにオレに会ってから不機嫌になってる。
不機嫌過ぎて、周りの人達がオレ達を避けてるし…
それに、並盛って意外と犯罪とか少ないんですよ。
…雲雀さんがいるから。
おかしい、この状況もそうだけど、一番おかしいのは雲雀さんとハルが一緒にいることだ。
考える内に、オレの“超直感”が一つの仮説に辿り着く。
もしかして、雲雀さん…ハルのこと…
しばらく歩き、雑貨屋に入る。
「はひ!見て下さいツナさん!このキーホルダー、とても可愛いですよ!」
「う、うん、そうだな…」
ハルは一人ショッピングを楽しんでいる。
オレは全く楽しむことが出来ない。
外にいる雲雀さんに咬み殺されるんじゃないかって…
これって…もしかしなくても、オレってかなりの邪魔者なんじゃないか!?
オレがハルと雲雀さんのデートに付いて来てるみたいなもんだし…
うわ〜!オレ、とんでもないことしてるよ!
「どうしたんですか、ツナさん?元気がないみたいですけど…」
「えっ!?そ、そんなことないって!大丈夫…」
ハルは悩むオレを心配する。
大丈夫だって言ったけど、全然大丈夫じゃない。
すると外の方から、
「ギャッ!!」
人の叫び声、オレは急いでお店から出ると…
雲雀さんが多人数をボコボコにしていた。勿論、いかにも雲雀さんが嫌う様な不良ばかりだったけど。
マズイ!関係ない人達まで巻き込んじゃってるよ!
とても怖いけど、オレは雲雀さんに聞いてみる。
「オレ…帰った方が良いですよね?」
「……何で?」
「えっ?いや、だから…」
「どうでもいいけど、僕に話し掛けないで欲しいんだけど」
「…すみません」
ダメだ、まともにオレと話をしてくれない。
そんな中、ハルがお店から出て来る。
「はひ!?何があったんですか!それにこの人達は…」
この状況に驚くハルはオレ達に事情を聞く。
「これは…」
「別に、ただ僕の前で群れてたから咬み殺しただけだよ」
「ダメですよ!そんなバイオレンスなことをしちゃ!」
「関係ないよ、そんなこと…」
「・・・」
雲雀さん、ハルの問い掛けには素直に答えるんだな…
やっぱり、雲雀さんはハルのことが好きなんだ!
オレはそう確信した。
だけど、その後ややこしいことになるなんて…まだ知る由もなかった。
オレ達は一通りお店を回って、カフェで休憩していた。
それにしても、何なんだろうこのスリーショットは?
相変わらず不機嫌な雲雀さんと、気を遣うオレ、そして何も知らないハル。
ハルは雲雀さんのこと…どう思ってんのかな?
オレがやっぱり、雲雀さんに協力しなくちゃダメだよな…
オレはそう思い、ハルに話し掛けた。
「な、なあハル?」
「何ですか、ツナさん?」
「ハルって、どんな人が好きなの?」
「はひ!ハルの好きな人ですか?急にどうしたんですか?」
「いや、ちょっとね…」
ストレート過ぎたかな?だけどオレは雲雀さんの為に頑張る。
「そうですねぇ、ツナさんも勿論好きですけど…」
しまった!そういえばそうだった!
「…ハル、最近は一匹狼な人も好きです!」
「……え?」
「で、でも!獄寺さんみたいな野蛮でアウトローな人じゃなくて、クールな人ですよ!」
クールな一匹狼って…雲雀さんのことじゃないか?
ってことは…ハルも無自覚だけど、雲雀さんに好意を持ってるってことだ。雲雀さんをショッピングに誘ってる訳だし…
じゃあ、ある意味二人は両想いだよ!
「そ、そうなんだ!」
「ツ、ツナさん?どうしてそんなに嬉しそうなんですか?」
よし!ここは雲雀さんにも話を振ってみよう!
「因みに、雲雀さんはどんな人が好きなんですか?」
「・・・」
雲雀さんが話す話さないは置いといて、オレは期待した。雲雀さんの答えを…
だけど雲雀さんが口にした答えは、オレが全く予想していないものだった…
「…そんなのいないけど」
「…はい?」
いない?それはどういう意味ですか?
「“恋愛”なんて僕には興味ないし、必要だとも思わないよ」
「じゃ、じゃあ今まで何で…」
「さっきも言ったけど、僕に話し掛けないでくれない?今日は何か機嫌が悪いんだ…」
“何か”って…
ハッ!まさか…!
オレの“超直感”が一つの確信に辿り着く。
雲雀さんも無自覚!?
その瞬間、オレは悟った。
色んな意味で面倒なことに巻き込まれたと…
「雲雀さん!悲しいことを言っちゃダメです!“ラブ”はいいものなんですよ!」
「どうでもいいよ、僕には…」
二人が自然に会話をしている傍ら、オレは大きな溜息をついた…
さて、ここで問題です。
鈍感なのはどっち?
正解はどっちも鈍感。
きっと、オレの苦労にも気付かないんだろうな…
無自覚だけど、きっと両想いな二人、
そんな二人はお似合いですか?
2010/11/30/Web