それがどうしてこうなった

ある日を境に御幸とみょうじの関係が変わったように見えた。
本人は隠すつもりがあるのかないのか御幸はあからさまにみょうじのことが好きで、みょうじは満更でもなさそうだった。
実際のところはわからないが、少なくとも俺にはそう見えていた。

みょうじのことを何となくいいなと思っていただけに、べたべた付きまとう御幸を疎ましく思うこともあった。
しかし、御幸が恋敵だなんて周りに知れたら絶対に面白おかしく吹聴される。
だから周りはもちろんみょうじ本人にもバレないようひた隠しにしてきた。

それがどうしてこうなったのか。

「…んでそんな泣いてんだよ」

「………っ」

放課後、何か忘れ物をしたことを思い出し教室に立ち戻ると一人みょうじが泣いていた。その忘れ物はみょうじを見つけた瞬間頭から吹っ飛んで今は思い出せない。

ぼろぼろと涙を零す姿に慄きながら声をかけるが返事はない。ただ小さく首を振るだけだ。

「あー…、何て言うか、御幸だろ」

「…え?」

何となく御幸の名前を出すとみょうじはやっと反応した。

「何で…」

「どうせあいつに泣かされでもしたんだろ。見てたらわかる。なんとなく」

「…何も聞いてないの?」

「は?何もって何のことだよ」

御幸とみょうじの話しをしたことは一度もない。何も聞いていないのかとは一体どういうことだ。

「御幸に振られでもしたのか」

「ううん…。私が振った」

「………」

「おかしいよね。振った側がこんなふうになるなんて」

「告白されたのか?」

「…うん」

御幸を振ったせいでここまで大泣きをしているということは、みょうじは御幸が好きなんじゃないのか。そう尋ねたがまたもや首を振るだけの返事だった。

「年上の彼氏がいたんだよね」

すると突然みょうじが言った。

「違う高校の先輩で今大学生なんだけど、1年くらい付き合ってた。そしたら、大学で浮気しちゃったみたい。何も言わずに家に遊びに行ったら女の人と寝てた」

「…そうか」

「だから別れたんだけど、しばらく彼氏はいらないなーって。結構ショックだった」

「そりゃ、そうだろ」

「振られるって、つらいよね。御幸もつらいのかな」

そしてまた静かに涙を流し始めるみょうじ。
目の前で俺の好きなやつが泣いている。しかも御幸のことを思って。そう思うと向かっ腹が立ってきて、そんな自分にもイライラする。

「あいつは大丈夫だろ。食えねーやつだから、御幸が何考えてるかって気遣うだけ無駄だって」

「…そう、なのかな」

「俺が言うんだから間違いねーよ」

「うん、うん…。そっか。ありがとう、倉持」

鼻を啜ってようやく泣き止みそうなみょうじに鞄からポケットティッシュを取り出して渡した。

「倉持がティッシュ持ってるなんて意外」

「どういう意味だよ」

泣き腫らした顔でへにゃりと笑ったみょうじは、不細工なのになぜか可愛くて心臓がチクッと痛んだ。


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