寂しいなんてバカみたい

今日こそは言おう。もうこんな不毛な関係はやめようって言おう。何とか水際で防いではいるが、これ以上はもう取り返しのつかないところまで流されてしまう。いつも通りメールで呼び出された私は決心して公園に向かった。公園にはすでに御幸がいて私を見つけて軽く手を挙げた。

「みょうじ」

ああ、やめて、そんな声で名前を呼ばないで。せっかくの決心が鈍る。御幸の声はいつも優しい。温かく包まれるような、低くて落ち着く声。ろくに返事もしない私を見ても何も言わず御幸は微笑むだけだった。

そして慣れた手つきでさっそく私の腰を引き寄せようとする御幸から私は大きく一歩距離を取った。伸ばしたままの御幸の手が行き場をなくして宙を彷徨う。

「どうした?」

御幸は私のいつもとは違う行動に驚いている。

「今日は、言おうと思って」

「……何を?」

わかってるくせに、とは口に出さない。へらりとした笑顔を貼り付けた御幸だけど、目だけが笑っていない。

怖い。直感でそう思った。

「ごめん…、もうこういうのやめよ」

「ああ、はいはい。またそれ」

「今度は本当だから!…本当に、もうやめて」

どうせいつもの戯言だろと言わんばかりに軽くあしらわれる。そう思われているのが悔しいが、実際もう私の心は折れかけている。御幸に依存してその温もりを知ってしまった私が御幸から抜け出すのは容易ではない。それでもやっとの思いで頑なに首を振り続けていると、ようやく御幸の薄っぺらい笑顔が剥がれた。

「…本気?」

問われてこくりと頷けば、腕を痛いほど強く掴まれた。

「………」

「い、痛い、お願いちょっと落ち着いてよ」

勢いにすっかり驚いた私がそう訴えると、意外なほどあっさりと腕が解放された。大きくため息を吐いた御幸は、何度か大きく頷き自らに言い聞かせるようにして何かを呟いてから再び私に向き直った。

「ごめん。けど俺は落ち着いてるよ」

突然ガラリと様子が変わった。怖いくらいの執着は影を潜め、御幸の口元に笑顔が戻る。

「…そ、そう」

「そろそろかなって思ってたんだよね、みょうじにそう本気で言われるの」

「………」

「もう、俺じゃ望み薄?付き合えない?」

「…ごめん」

「うん、そっか。わかった」

一体今までの執着は何だったんだと聞きたくなるほどあっさりと頷かれて、正直拍子抜けした。挙句、「今まで迷惑かけてごめん」とまで言われてしまった私はいよいよ二の句が継げなくなった。

何で?何でそんなあっさりした反応なの?疑問符を抱えたままでいると、御幸は私を家まで送ると申し出た。

「…あ、今日は、大丈夫。そんな遅くないから」

「…そっか。じゃあ明るい道通って気を付けて帰れよ」

「う、うん」

ぽんぽんと二回頭を撫でて御幸は帰って行ってしまった。

…え、何それ?
最初から最後までイレギュラーで理解が追いつかなかった。もう終わりってこと?

自分で決心して言い出したことなのに、いざ向こうから離れられると今まで感じたことのないくらいの虚無感に苛まれた。今までどれだけ突き放しても離れなかったのに。胸の中には矛盾した感情が広がっていく。

迷惑だって思っていたのに、今さら寂しいなんて本当バカみたい。だけど御幸と付き合えるとも思わない。それこそ今さら過ぎる。

一方的に始められた私と御幸の歪な関係は、こうして一度終わった。

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