もう何だか溶けそう

御幸に告白をされて、どう思ったかというと正直とても嬉しかった。日頃からかっこいいなとは思っていたし、恋愛対象か否かと問われたら迷わず対象だと言える。だからそんな人に好きだと言われて悪い気はしない。だけどずっと友達だと思っていたからこそ、じゃあ今から付き合おうと言われても頷けなかった。

本当は気を持たせるような行為は良くないとわかっている。だけど嬉しさで舞い上がっている私は、何の用事もないのに御幸に「今何してるの?」なんてメールを送るし、少し時間を空けて帰ってくる御幸からの返事を見てにやにやする。

本当は良くない。このままずるずると御幸と慣れ合って情に絆されて、結果として付き合ってしまおうかと思うのが目に見えている。こんなのは前の彼氏と別れた寂しさを埋め合わせるているだけで、御幸への純粋な気持ちではないと頭ではわかっているのにやめられない。だから呼び出されてこんなのこのこと行くのは、良くないってわかってるのに。

「みょうじ」

揺らいでいる私の気持ちに気付いているらしい御幸は、途端に大胆になった。夜メールで呼び出して、人気のない公園で私に触れる。時間にしてほんの5分ほどの逢瀬は、週1回のペースで続いている。

触れると言っても、最初は手を握る程度だった。ゆっくりとお互いを確かめるように指先を絡めて、離して、また絡める。
今日はどうやら抱擁らしい。御幸の腕に抱かれて首筋に温かい御幸の体温を感じで、胸いっぱいに御幸の匂いを吸い込む。ああこれは、離れ難い。寂しかった気持ちが嘘のように温かさで満たされた。

「御幸」

「………」

「ねえ、御幸」

「ん、何」

「ダメだよ、こんなの。付き合ってもないのに」

「じゃあ付き合おう」

「………」

「それが無理なら、これくらい許して」

ずるい。私も御幸も、ずるい。再び付き合おうと言われたがそれには答えることができない。イエスもノーもない、保留。本当に、心底私は腐っている。

ぎゅっと力が込められた御幸の腕。背中に手を回すと肩甲骨がやけに張っていた。首筋で感じ、胸に押し付けたことで聞こえてくる御幸の鼓動は、通常よりもずっと速い。どくどく、どくどく、と早鐘を打つように血が流れている。平然としている振りをして、案外御幸も緊張しているらしい。

「なあみょうじ、わがままついでにもういっこいい?」

「…ん」

体内で響くから御幸の声が二重に聞こえる。

「キスまでしていい?」

「………、ダメ」

「なあ」

「ダメ」

「………」

「ダメだって。それは超えてる」

ダメって言ってるのに、聞こえない振りをしているらしい御幸は私の肩を押して胸元から引き剥がした。手がするりと頬を覆って包まれる。温かい手が気持ちいい。

「あーあ」

ダメって言ったのに。そんな意味を込めてため息を吐いたけど、そんなのお構いなしの御幸に唇を塞がれた。
ふわりと触れた唇は柔らかくてどこか濡れていて、気持ちがいい。

気持ちがいいことだらけでもう何だか溶けそう。

角度を変えながら次第に貪るように激しくなっていくキスに溺れてしまって、今日の逢瀬はいつもより20分も長引いてしまった。

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