男女の友情は成立しない

私は私を守りたかった。
最初はただの友達だった。次に唯一私の本当の気持ちを曝け出すことができる友達になった。それが次第に関係性が変わって、ある時一線を越えた。御幸の時は頑なに超えることを拒んでいた一線を、倉持はあっさりと超えた。お互いのタイミングが合っただけなのかもしれない。それでもそれ以来、私の倉持を見る目は確実に変わった。倉持だったら付き合ってもいいと思った。友達だったはずなのに、いつの間にか恋人一歩手前にまでなっていた。

そんな大切な倉持に拒絶されてしまった。私は一体どうすれば良かったのだろうか?
傍から見れば大したことではない、振られてしまっただけだ。これから高校を卒業して大学生になるんだから、そんなことなんか忘れて新しい環境で楽しくやればいいじゃないか!きっと誰もがそう言うだろう。終わったことを悔やんでも仕方がないと。

私はもう元彼の影を追わなくなっていた。前まではどこに行っても何をしていても、頭の片隅から離れなくて散々苦しめられたのに跡形もなくなっていた。
その代わり、私が一番好きなのは私自身、らしい。

辛い思いはしたくない。悲しい目に遭うのもできるだけ避けたい。傷付いて荒れて涙を涸らすのはもうこりごりだ。だってすごく体力を使うから。だからもう、何も考えず何も感じなければそれが一番いいに決まっている。鈍感になってしまえば傷付くことはない。

▽△▽


「今日で卒業するっていうのに、みょうじは泣かないんだな。見ろよ、他の女子なんかそこら中で大号泣してるぞ」

教室に一人突っ立って周りを見ていたら、後ろから声をかけられた。からかい口調で私に話しかけてきたのは御幸だ。

「そういう御幸だって。…あ、もしかして野球部の方で泣くつもり?このクラスではちょっと浮いてたもんね〜友達いなくて」

「ああ、悪かった、勘違いしてたよ。みょうじは一緒に泣いてくれる友達がいないから泣けないのか」

「んー…、案外そうかもしれない。友達ってそんなにいないから」

「おいおい悲しいこと言うなよ。そこは『御幸が友達でしょ』って言うところだろ」

「御幸は友達じゃないよ。ただのクラスメイト」

冗談じゃない。御幸が友達だなんてそんなことあるわけがない。
御幸もきっと私と同じだ。私のことで何か考えたり感じたりすることをやめたに違いない。だからこそ私に話しかけてくることができるのだ。
だけど御幸は決して友達にはなりえない。"一度間違えた人"だから。
結局、御幸はそれから私に何も言葉を返してこなかった。

倉持とは、あの電話から一度も話していない。目すら合わそうとしなかった。今日が最後だがもう部活の方へ行ってしまったのか教室に姿はない。これでいいんだと思う。

男女の友情は成立しない。
成立しているように見える関係は、きっとどちらかが必死になって自分の気持ちを殺している。思考を停止させている。
私と御幸、それから倉持の友情はとうの昔に破綻していた。もう元には戻れない。

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