ねえ、お願い

ぽつぽつと来ていた倉持からの連絡はいつの間にかなくなっていた。御幸からは最後に話した時以来全く連絡がない。あっという間に年が明けいよいよセンター試験間近、自分のことに集中しなければいけないことは重々承知している。だけど私はどちらからも連絡がないことに焦れてしまって全く目の前のことに気を向けられないでいた。寂しい、誰かに構ってほしい。そう思う反面浅はかで甘えたがりな自分が気持ち悪いとも思う。

ねえ倉持、ねえ、お願い倉持。

「ダメだ」

「え…何で?」

縋るような思いで倉持に電話をかけたが一度目では出てくれなかった。しばらくしてかけ直すと数コールの後に倉持の声を聞いた。電話したことに適当な理由をつけてどうでもいい話を続けていると、倉持に「本当に用件は何だ?」と言われた。ねえ倉持、私今すごく寂しいの。できれば近くにいてほしい。そう正直に伝えるも、倉持から返ってきたのは拒絶の言葉だった。

「何でってお前もうすぐ試験だろ」

「そ、そうだけど…」

「そっちに集中しろよ。俺なんかに構ってないで」

「集中できないからこうして頼んでるんだよ。そんなこと言わないで」

「ダメだ。…なあみょうじ、お前は誰とも付き合う気がないって言ったよな?」

「え?うん…」

「それは今でも同じか?」

私は、私はどうしたい…?御幸から好きだと言われた。倉持も私のことが好きだと言ってくれた。二人のうちどちらかを選ぶ?でも私は一度御幸のことを振った。誰とも付き合うつもりはないって言って振った。それなのに倉持を選んでもいいのだろうか?でも今私が選ぶとしたら倉持以外にはない―そんな気がした。

逡巡している間に電話の向こうで倉持が小さくため息を吐いたのが聞こえた。

「みょうじって誰のことでもすぐ好きになったり良いと思ったりするんじゃねーの?」

「え…?そんなこと…」

「ないって言いきれるのか?ちょっとキツイこと言うようだがすぐ人を好きになる奴って、誰のことも好きじゃないんだと俺は思う。だから、みょうじが一番好きなのは多分自分自身だ」

お願い、やめて。違うのそうじゃない。

「俺は確かに前までお前のことが好きだった。悪い、だけど今はもうよくわからない」

頭から冷水を浴びせられたような気がした。ざーっという音を立てて血の気が引いたのがわかった。携帯を握る指先がひどく冷たく震えている。こんなに冷たいのに一体私の血はどこに向かって流れているのだろうかというくらいバクバクと激しく心臓が動いている。

「みょうじ?」

私の反応を窺っているのだろう、倉持が私の名前を呼んだがそれはすごく遠くから聞こえてくるようだった。

「わ、かった」

一気に掠れてしまった喉でなんとかそれだけを言って私は一方的に電話を切った。ついでに携帯の電源も、何度も画面を叩くようにして無理やり切った。じわりと頬を伝った涙がひどく熱い、頬が焼けそうだ。ひくりと喉がなって自分では止められないくらいの嗚咽が漏れた。

ひどいことをしてしまったと思うと同時に、どうしてそんなことを言うのと攻め立てたい衝動に駆られる。確かに私が一番大事なのは、守りたいのは、やっぱりどうしようもなく自分自身で倉持が言うことはとても正しい。でも正しいからこそ、どうしても受け入れることができない。

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