悪い夢を見ていた

御幸から二人で話がしたいと言われた時には驚いた。みょうじについてのことなら断ろうと思ったが、御幸に今まで何があったかをきちんと話すと言われて興味を引かれのこのことついてきてしまった。

「俺からは話すことなんかねーぞ」

「わかってるよ。俺が勝手にお前とこのまま微妙な関係で卒業するのは嫌だと思っただけだ」

「…はあ?気持ちワリ―こと言うなよ。御幸のくせに」

御幸の恥ずかしげもない言葉を聞いて思わず口ではそう言ったが、内心俺も御幸との関係を変に悪くしたままは良くないと思っていただけにほんの少しだけ嬉しかった。一人の女を取り合って揉めてましたーなんて、恥ずかしくて人に言えるわけがない。
部活を取るか、付き合うこともできない女を取るか。大袈裟に言えばそんな状況にまで陥っていた。

「この間、みょうじに呼び出されて話をした。で、その時何で俺ってこいつに固執してるんだろうかって我に返る瞬間があったんだよなー。もう振られてんだから諦めればいいのにって。で、俺はみょうじを諦めることにした」

「突然だな」

「そうでもねーよ。これでも結構考えた結果だ」

「ふーん…。呼び出されたっていつ」

「えー…、確か2週前の土曜日だったか」

その日は確か俺もみょうじと会って話をした。あの時あいつは俺と御幸のことをやたら気にしていたが…。とりあえず模試に集中しろって言ったのに。結局我慢できずに本人に聞いたのか。

「じゃあ我に返る瞬間ってのは?」

「まあ、それは色々」

「何だよ、きちんと話すって言ったのそっちだろ」

「順を追って話すから待てよ」

それから俺は御幸とみょうじの間に今まで何があったのかを聞いた。主に公園でこっそり会っていたことなどだ。そのことには気付いていたが、あえて御幸には言わないことにした。話を聞いたうえでの正直な感想は、御幸も強引だが、みょうじもちょっと優柔不断過ぎないか?だった。
それをそのまま伝えると、

「それには理由があるって言ってたけど、俺には教えてくれなかった」

と御幸は言った。俺は御幸が知らないその理由を知っている。だが、誰にも言わないでと釘を刺された以上御幸であろうと話すわけにはいかない。

「なあ、倉持。お前は知ってんだろ?そこまではみょうじから聞いた」

「…ああ、知ってる」

「それは俺らを巻き込むような大層な理由なのか?」

年上の彼氏が他の女と寝ているところを見た、浮気現場を目撃した。それが理由だったはずだ。みょうじは未だにその彼氏を忘れられずに寂しい思いをしていて、その穴を埋める役目を俺と御幸が果たした。

果たしてこれが大層な理由なのかは、わからない。第三者から見ればそんなことと思うようなことでも、みょうじにとってはとても我慢できないことだったかもしれない。

「巻き込まれたんじゃなくて、俺らはその理由につけこんだだけだろ」

「利用された、じゃなくて?」

御幸の言葉にはやけに棘がある。いくら好きじゃなくなったとはいえみょうじに対して冷たすぎる。

「御幸、お前も俺もみょうじが好きで、だけど付き合えないってことをちゃんと理解した上での合意だったんじゃねーのかよ」

「…ああ、悪かった」

そうだ、例えみょうじが優柔不断過ぎたとしても、俺たちも十分悪い。決してみょうじを悪く言う筋合いはない。そう、筋合いはないんだが…。

「お前のせいでわかんなくなってきたじゃねーか…」

客観的に見れば俺たちの関係は間違いだらけだ。この関係で居続ける理由はあるのか?

「倉持だってもうとっくに気付いてるだろ」

「わかってるよ、それくらい」

「お前とみょうじって、ぶっちゃけどこまでしたの」

「聞くなよ、そんなこと」

「…今ので大体わかった」

頭を抱えて考え込む俺をからかって笑う御幸。結構考えたとはいえ開き直るのが早すぎやしないか?俺が開き直るにはしばらく時間がかかりそうだ。

「倉持、お前これからどうする?」

「こっちから動かなければ、みょうじは何もしてこないし言ってこないだろ、基本」

何事にも受け身でいるみょうじのことだ、俺や御幸が何も仕掛けなければ動くことはない。なぜならみょうじは俺たちのどちらも好きではないからだ。

「…何してたんだろうな、今まで」

「そうだな」

燃え上がっていたはずの気持ちは、気が付けば今にも消え入りそうだった。冷めた、と言ってしまえばそれまでだが、要するに俺は我に返った。俺がこの先関係を続けていきたいのはどちらだと問われれば、今は迷わず答えるだろう。

悪い夢を見ていた気分だ。


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