全く意味がわからない

ゾノたちの部屋に数人で集まっていたところで、ポケットにある携帯が震えた。トイレに行く振りをして部屋の外に出て、今しがた来たメールを確認するとみょうじからだった。向こうからのメールは実に久しぶりでそれだけでも嬉しかったのだが、『今から会える?』という文面にさらに心が躍った。すぐさま返事をして自分の部屋に戻り、上に一枚羽織ってからスニーカーに履き替えた。もう冬が近い。

急ぎ足で公園まで行くと、みょうじはすでに入口のところに立っていた。

「お待たせ」

「うん…こんな時間に呼び出してごめんね」

「特にやることもなかったし別にいいって。それより、何の用?」

つい急かすような口調になったのは何も言わずに飛び出してきてあまり長時間寮を空けるわけにはいかないからだ。今夜はまだ倉持の姿を見ていない。

「単刀直入に聞くね。御幸、倉持と何かあったの?」

その言葉を聞いて浮かれていた気持ちが一気に萎んだ。
いよいよ俺にもお呼びがかかった。もしかしてみょうじの気が変わったんじゃないか…とさえ期待していた単純な自分に嫌気が差した。倉持絡みのことが聞きたかっただけか。相変わらず俺には興味がないんだな、みょうじは。ふっとため息を大きく吐いて、それからみょうじに向き直った。

「…何で?」

「何と、なくだけど…、勘っていうか」

「みょうじこそ、倉持と何かあったんだろ?だから俺にそんなこと聞いてくるんじゃねーの?みょうじの家から出てくる倉持を見たんだけど、つまりはそのことを聞きたいってことでいい?」

倉持とみょうじがどこまでの関係なのかは正直想像したくもない。だけど見たことには変わりがないし、みょうじも勘とかまどろっこしいことを言ってないではっきり言えばいいのに。しかし、みょうじは俯いてそのまま顔を上げようとも口を開こうともしなくなってしまった。

「みょうじ?」

「…見たの?御幸は、どこまで知ってるの?」

「俺を仲間外れにしてるってことくらい?」

「仲間外れだなんて、そんな…!」

「倉持とよろしくやっていくならそれでいいよ。今までしつこく連絡して悪かったな。…もうしないから」

「違う、倉持とはそういう関係じゃなくて、」

「じゃあどういう関係?」

責めるつもりは微塵もないのに、ついつい厳しい口調になってしまう。あーあ、泣きそうな顔してんじゃん。女の子を泣かせる趣味はないのに、どうしてこうも上手くいかないのか。

「言えないなら別に言わなくていいよ。そういう関係じゃないって言ったところで大体想像はつくし。で、俺に何して欲しくて呼び出したんだっけ?」

「………」

「ああ、倉持と何があったかだったか。お互いみょうじに振られて大変だなって言われたくらいだけど…それ以外は特に何もない」

そう言うとみょうじは勢いよく顔を上げ、俺に縋りついて大きく首を振った。

「…そんな話したの?あのね、違う、違うの。ちゃんと理由があるの」

真剣な表情で否定するみょうじを見て、正直言って引いた。男二人を弄ぶ理由とは随分大それた理由なんだろう。
まあ、俺も倉持もみょうじの弱い部分に漬け込んだことには違いないから同罪だ。別にみょうじ一人が悪いわけではない。全員が間違えたんだ。

「倉持は私が寂しいからそれを慰めてくれてただけで、関係とかそんなのはないよ」

「へえ、みょうじが寂しかった原因って何?」

「えと、それはちょっと…言えない」

「…倉持は知ってんの?」

「………うん」

「ふーん、あっそう。大体わかった。じゃあさ、最後にこれだけ聞いてもいい?今でもみょうじは誰とも付き合うつもりはねーんだよな?」

そう聞くと、みょうじはそこだけやたらはっきりと頷いた。付き合うつもりがないってことは確かに最初から言っていた。それでもいい、いつかは振り向いてくれるかもしれないと思ったことも事実だ。一度は受け入れた、だけどやっぱり冷静になってみると全く意味がわからない。

「はあ?」

思わず漏れたのは呆れだった。


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