知らぬ存ぜぬは道理でない

倉持と関係を持った日の次の休日から、途絶えていたはずの連絡が御幸から来るようになった。
休みだけど今何してる?誰といんの?どこにいる?
大抵は家で勉強をしていたり家族と買い物に出ていたのでそう伝えると、「そっか」と返ってくる。

どうしてこんなことを聞いてくるのかわからないせいか、最近少し御幸のことを鬱陶しいと思うようになってきた。
まるで御幸の目が届かない休日の行動を監視されているようで息が詰まる。

倉持とのことを知ったのだろうか。だけど倉持が言うとは到底思えない。
私だって誰にも言っていない。
だから御幸が知るはずなんてないのだ。

「ねえ、倉持。この間のこと…誰かに言ったりした?」

「は?言うわけねーだろ」

「そうだよね」

不安がすぐ足元まで忍び寄ってきてもうどうしようもなくなった時、わざわざ倉持を呼び出してつい疑うようなことを言ってしまった。
一瞬怪訝な顔をした倉持だが、それでもあくまで優しく答えてくれる。
倉持の甘い声音にまだ慣れなくて顔を逸らした。
倉持が私に対して甘くなったこと。これが最近の一番大きな変化だった。

「御幸に何か言われたのか?」

「え?」

「あいつに何言われても知らん顔しとけよ」

「ちょ、ちょっと待ってよ倉持。私御幸の名前なんて出してないのに、何で?」

突然御幸の名前を出されて驚いた。
真っ直ぐ倉持の目を見つめて問うと、倉持の表情にみるみる焦りが広がった。
やっぱり、こっちで何かあったんだ。
根拠はないのに私はこの瞬間になぜか確信した。

「ねえ、何があったの?」

「何がだよ」

「何で御幸が出てくるの?御幸と何かあったの?」

「別に何もねーって」

「嘘だ」

「今みょうじが気にしてるのは御幸くらいなもんだろ。ただ何となく名前出しただけで特に理由はねーよ」

倉持は嘘が上手くない。というより、本来嘘を吐けるような性格ではないと私は思っている。
今の倉持は何かに迷っているように見える。
それでもなお嘘を吐くということは、絶対何か理由があるはずだ。
だけどきっと倉持は教えてくれない。そういう奴だから。

「そう、それならいいんだけど」

「みょうじは何も気にせず大人しく勉強してろよ。もうすぐ模試なんだろ」

「うん。そうする」

あからさまに話を変えられたがそれにも気付かず納得した振りをすれば、倉持は安堵したようだった。
別れ際、公園の入り口で手を振ると照れながら倉持も小さく振り返してくれた。

そして倉持がいなくなると私はすぐに携帯電話を取り出した。
これは御幸に聞くしかない。二人を巻き込んだ私が知らぬ存ぜぬというのは道理ではない。

先ほど来たが見ただけで返事をしていなかったメールを再び開くも、返信画面までいったところで指がぴたりと止まった。

倉持の言うように模試を来週に控えている。ここでの成績が大学選びにも関わってくるような大事な模試だ。
とりあえず模試が終わるまで知らない振りをしていればいいのではないか?
どうする。どうする。
いや、そうこうしている間にも水面下では確実に何かが起きている。あと一週間、待ってもいいものか。

どうする?

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